ナサスくんがヴォイド侵食受けてこんな感じになってたら超萌える
Added 2018-09-12 17:17:51 +0000 UTC頭の中を何かが這い回っていた。ぐちゅりと異物の蠢く音が、頭蓋の内側から聞こえてくる。 脳髄を艶かしく愛撫されるたびに、敵意も焦燥も優しく解きほぐされ忘れてしまいそうだった。 うっとりと、味わったことすら無い恍惚に包まれながら、だらしなく開いたままの口が自然と笑みを作っていた。獣の牙が上下の顎から抜け落ちて、昆虫を思わせる節ばった甲殻に包まれた胸元を掠ってから地に落ちる。代わりにより細く尖った異形の牙が赤紫に変色した口腔から生え始めていた。 体中が燃えるように熱い。腕も脚も臓腑も全て蕩けきって、ただ熱だけがそこにある。きっと、殻の中でぐずぐずに溶けて蝶へと変じてゆく最中の蛹は、このような心地なのだろう。 『おぉぉ……ッ』 喉の作りさえ変わり果てたのか、悦びに満ちて溢れ出した声は、もはや聞き慣れた己のそれではなくなっていたが、今の自分にはむしろこちらの方が耳に馴染むように感じられた。 声だけではない。昆虫のように硬質化した表皮を鎧のように纏う身体にも、違和感はもう感じない。頭の中に残るただの『知識』と成り果てた記憶だけが、今のこの自分を否定していた。 新たな自分を受け入れることを頑なに拒絶させてきたその記憶と感情の結びつきが、頭の中で何かが蠢くたびに切り離されていく。本能に抗い続けるための理由が失われてゆく。完全なる羽化を阻止していた楔が、打ち砕かれる。 ――ヴォイドに呑まれよ。 そう、声が聞こえた。誰の声かなど知らない。ただ、その声に従うべきだということだけは分かる。本能がそう告げている。もう、拒否する理由もない。 多幸感が胸に広がる。見開いた瞳から悦びの涙が流れる。記憶の中に残る『ナサス』という個が、ついぞ生涯たどり着くことのなかった幸せを、口内に生え揃った牙で噛みしめる。 今、巨大な何かの一部に組み込まれているという実感があった。超越の儀を通じて手に入れた神の肉体も、矮小な個の欲求に従って集めてきた知識も、全てはこうして捧げるためのものだったのだ。 ――そうだ。それで良い。 見上げるほどに大きな瞳のイメージを脳裏に浮かび上がらせながら、そう声が聞こえる。まるで、世界から己の存在を肯定されたかのような心地だった。 ……だが、まだ足りない。ヴォイドへと捧げるものは未だ大量に残っている。かつて仕えていた皇帝へと、真にシュリーマが崇めるべき存在が何であるかを伝えねばならない。狂乱に呑まれた弟も、同じ存在の一部となれば再び傍らに立つことも可能だろう。 かつて無い力が身体に漲っていた。大いなる存在のために力を振るうことへの期待に、胸が躍る。 ヴォイドの猟犬としての新たな自分は、蓄えた知識を嬉々として思い返していた。