SamuKata
moke
moke

fanbox


持ちうる知識の全てを吸い上げられてヴォイドの眷属へと堕とされるナサスくん 後編

前編 https://moke.fanbox.cc/posts/1656377 「――ッ、――ッ!!」  大きく開いた顎から、跡切れ跡切れの叫び声が溢れて止まらなかった。  胸の内ではかつて無いほど激しく心臓が鼓動を続けている。精液で満たされた腹の中が蕩け果てたかのように熱を持ち、その感覚はさらに体中へと拡がってゆく。  それはもう、先程まで感じていた激痛ではない。傷ついた体に寧ろ力が漲ってゆくかのような感覚。 (これ、は……っ)  知っている。この感覚を、彼は遠い昔に経験したことがある。  ……そう、全身を包む神聖なる魔力の中で己の形を失い、そして新たなる超越者として半神たる肉体を手に入れたあの時と、似ているのだ。 (ああ、我は……、もはや……)  裂け目から溢れ出す邪悪な魔力が全身をめぐり、体中の血管が紫色に発光している。  ぽっかりと開いたままの肛門から覗く腸壁、叫び声を漏らし続ける口腔、その色合いが本来のものから毒々しい紫色へと変化してゆく。  秘めた神聖なる魔力で青白く光っていた瞳は、邪悪な赤みを帯びて禍々しい光を放つ。歯茎からは白い牙がぽろぽろと歯茎から抜け落ちて、蟲たちのそれと同じ鋭い乱ぐい牙が伸びてゆく。  もはや呼吸に苦痛が伴うこともない。肉体は異界からの瘴気に順応し、むしろ呼吸を繰り返すほどに体に活力が漲ってゆく心地だった。  腹の奥から、ぐちゅり、ぐちゅりと奇妙な音が聞こえる。臓腑が本来の形を失い、新たな器官へと変わっていく音だった。  一度始まった変化は止まる気配を見せぬまま、ナサスの肉体を異界の蟲たちの眷属へと堕としてゆく。 『あ、あぁ……っ』  その悍ましさに戦慄し、恐怖を隠すこともできぬままに放った悲鳴すらもが、今や生物らしからぬ不協和音を孕んだ異質なものと成り果てていた。  そして不具となった体を横たえながら身悶えるナサスへと、裂け目の向こうから複数の触手が伸ばされてゆく。蛇のようにぬるりと這いながら、痛々しい断面を晒す四肢のそれぞれへと。 『がぁああっ、あぁあああ!?』  切り詰められた四肢へと触手を突き立てられながら、ナサスは痛みではなく快感に叫び声を上げていた。  肥大化し血管の浮き出た玉袋が股の間で震え、先程までは人間と同じ形状をしていた肉棒が赤黒く歪に捻れた醜悪な姿へと変化しながら屹立し、どろりとした紫色の粘液を溢れさせる。  触手から送られてくる邪悪な魔力が体に満ちてゆくのが感じられた。切り落とされたはずの手足が、煮えたぎるように熱くて、狂おしいほどにむず痒い。  四肢の断面がぼこぼこと沸騰でもしたかのように泡立って、盛り上がってゆく。  ナサスは、これまで以上の変化が自分の身に起ころうとしていると確信する。 『ぬっ、あぁああっ、が……ッ!』  僅かな痛みと、途方も無い熱。失われた四肢が、異界の摂理に則った形で復元されてゆく。  昆虫を思わせる硬い外皮に包まれ、奇しくもかつて身につけていた金色の防具と同じ配置で強固な装甲が形作られていた。  節くれだった指の先には鋭い鉤爪が備わり、身悶えながら床を包む肉壁を引っ掻くと、どろりとその体液が溢れ出した。  劇的な変化は四肢だけに留まらず、後頭部から両肩にかけての皮膚は鎧のように層となった外殻へと変質し、太ももの外側部分にも同様の変化が起きていた。  半神の英雄として讃えられた超越者は今、異界の生物としての形質を歪に取り込んだ異形と成り果てた体を、裂け目の向こうから覗く大目玉の前に横たえる。  そしてその無防備な頭部へと向けて、焦らすかのように緩慢な動きで新たな触手が伸びてゆく。その頭蓋の内に秘めた知識の全て、かつてシュリーマを繁栄へと導いた智慧の全てを吸い上げようと。  ――バチンッ 『――ッ』  だが、いよいよその先端が届こうという間際、紫色の閃光が奔る。  ナサスは半身を起こし、凶悪に変質した右腕を振るい、にじり寄る触手を引き裂いた。  四肢へと繋げられた触手を引き千切り、自らの醜く変わり果てた体を恥じるように歯を食いしばり、鼻面にシワを寄せながら立ち上がる。 『……容易く明け渡しはせぬ。そう、伝えたはずだ』  変わり果てた声で、しかし以前と全く変わらぬ口調で、ナサスははっきりとそう口にした。  異界からの侵略者に捕らわれ変質した肉体は、裂け目の向こうからこちらを覗く存在に頭を垂れろと訴えかけてくる。五感の全てが周囲に広がる異界の風景に心地よい安らぎを見出している。  予想外の抵抗に警戒し、こちらを取り囲みながら臨戦態勢を取る異界の蟲たちこそが、今の己にとっての同胞なのだという確信がこみ上げる。  ――それでも、凶悪なる異形の怪物へと変じたジャッカルの面、その禍々しい光を帯びる瞳の奥には、かつてと変わらぬ魂が宿っていた。 『ぬぅっ、んっ!』  ナサスは先程自らの鉤爪で両断した触手の一部を拾い上げ、決意とともに意識を集中させる。今や肉塊となったそれに再び異界由来の魔力が宿ると同時に、ナサスの意思に従うようにその形状が変わってゆく。  それは、彼の身に纏う暗い色合いの外殻と同じ材質をし、妖しく発光するオーブを備えた戦杖。彼が携えていた武器を再現したものだった。  持ち主であるナサスの変わり果てた姿と同様に禍々しく凶悪な威容を見せるそれは、しかし長年使い続けてきたかのように彼の手に馴染んだ。 『……』  異界の眷属へと堕した超越者は静かに構えを取り、同胞たちへと武器を向ける。  肉体を侵略者の尖兵として作り変えられたとしても、内に秘めた魂が変わらぬ限り力の使い道もまた変わらない。  その思いが、今や同胞となった体を通じて伝わったのだろうか、裂け目の向こうから覗く目玉が微かに苛立を見せた。……そのような気配を、感じた。 『ぐっ……ッ!?』  その直後であった。背後から僅かな風切り音が響くのを、ぴんとそばだてた耳が拾う。  咄嗟に身を翻しながら振り返ると、先程までは離れた場所に居たはずの蟷螂を思わせる異界の蟲が気配もなく目前に迫り、その刃を振り下ろそうとしていた。 ――ガキィッ  ナサスは左腕に形成された装甲でそれを受け止める。数刻前は複腕の巨蟲との戦闘中に隙を突かれ片腕を切り落とされたが、二度目はない。  膂力に任せて受け止めた刃を跳ね上げ、がら空きとなった細身の体へと戦杖を叩きつける。鈍い音を立てながら吹き飛ぶ敵へと止めを刺すべく、異形と化した脚で追いすがるが、頭上から飛来する新たな攻撃がそれを阻んだ。 『そこか……ッ』  足先から生える鉤爪を地面に突き立て、体勢を崩しながらも強引に身を躱すと、先程まで立っていた場所へと強力な溶解液が降り注ぎ、腐肉に包まれた地面が焼け爛れ湯気を上げる。  ナサスはその攻撃の主である凶悪な顎から酸性の体液を垂らす蟲を一瞥し、咆哮を上げながらこちらへと迫る複腕の巨蟲へと視線を移す。あの攻撃に気を割きながら戦闘を続けるのは危険だが、前後からの攻撃を掻い潜りながらあちらへと肉薄するまで近づき止めを刺すというのもリスクのある選択だった。 『……っ』  足元に感じる違和感。巨蟲からの攻撃の前触れを感じ身を翻しながら、ナサスは遠距離攻撃を行う敵へと左手を翳す。 『ウィザー!』  その手を介して放たれた魔力が敵へと絡みつく。攻撃のための一連の動作は時が停滞したかと思うほど緩慢なものへと変じ、これで目の前の相手と対峙する猶予が生まれた。  ナサスは牙を剥き迫る巨蟲を睨みつける。戦杖を両手で構え、あらん限りの力で握りしめながら意識を集中させた。  ……全てを注ぎ込んだ一撃で決着をつける。その決意とともに戦杖を振り上げた、その瞬間だった。  ――ズンッ  空気が震える。裂け目の奥、巨大な目玉から発せられた強烈な意思が体を貫いた。異界の眷属と堕ちた体を苛み続ける感覚と意識の齟齬を強烈に際立たせるような、何かが。  甘い刺激が背筋を伝う。久しく感じたことのない酩酊感に体の緊張が緩み、武器を振り上げる腕から力が抜けてゆく。  困惑を振り払いながら再び意識を集中させようとすることで生まれてしまう、決定的な隙。 『ぐあ……ッ!?』  胸元に奔る衝撃。視界に映るのは、肉癖に包まれ淡く発光する天井。受け身を取ることすらもできぬままに、ナサスの体は仰向けに押し倒されていた。  取り落した武器へと伸ばす腕を、巨蟲の足が踏み潰す。弾力ある腐肉に包まれた床へと沈み込んだ腕はびくともしない。  ……どうする。どう切り抜ける。彼はそう思考を続けながら顔を上げ――。 『――っ』  言葉を失った。  巨蟲の乱ぐい牙の並ぶ口元からは熱の籠もった吐息が漏れ、どろりとした唾液がぽたぽたと垂れ落ちてくる。  その股ぐらの甲殻は再び口を開け、内側の粘膜を晒し、そこから溢れ出す雫が節くれだった脚へと伝っていた。 『……、は、あ……ッ』  丹田に熱が込み上げる。脳裏に先ほど受けた辱めの記憶が蘇り、異形と化した肉棒へと血液が流れ込むのを止められない。  自分の身に何が起きたのかと疑問を感じることすらもなかった。今のナサスには、その異界の生物の姿こそが何よりも扇状的に感じてしまうのだ。  ごくりと生唾を飲み込む。顔へと垂れ落ちて鼻面を伝う唾液を、無意識の内に舌で拭ってしまう。  尻の奥がむずむずと疼いてたまらない。口腔に唾液が溢れ出して止まらない。  異界の眷属と堕したこの体へと、強烈な発情を促す呼びかけ。先ほど体を貫いた感覚の正体はこれだったのだ。  ……今から精神を落ち着け再び戦闘が可能な状態へと持ち直すことは出来る。種が割れれば、再び同じことをされたところで対処も可能だ。 『ぐっ、おの、れ……』  しかし、勝敗はもう決してしまった。悔しげに呻くナサスの顔を覗き込むように巨蟲がその体を屈め、今もかつての形質を残したままの筋肉質な胸板へと腕を伸ばす。  蟲たちの持つ甲殻と比べればあまりにも柔らかな表皮へと、鋭い鉤爪がつぷりと飲み込まれてゆく。  その傷から溢れ出すのは、今や異界の蟲たちの体に流れるのと同じ、青黒くどろりとした体液だった。 『がっ、あぁあっ、あ……っ』  踏みつけられ身動きも取れぬナサスの胸元へと深く突き立てられた鉤爪が、ゆっくりと下降してゆく。  その亀裂が臍にまで達したところで、さらに一本の腕がナサスへと迫る。  胸から下腹部までもの深い切り傷。巨蟲の節くれだった指がその傷を左右に拡げ、変わり果てた臓腑を外気に晒した。  顕になったそこで、かつての彼には存在しなかった異形の器官を含む変わり果てた臓器が、力強く脈打っている。 『ぐっ、あが、あ……ッ』  必死に身を捩るナサスの首筋へと、裂け目より伸ばされた新たな触手が躙り寄る。それは彼の額では無く、巨蟲によって切り開かれた胸へと向けて這い、肋骨の隙間へと滑り込んだ。  そこにあるのは、力強く鼓動し続ける心の臓。変わり果てた内臓の中で唯一つだけ、以前と変わらぬ鮮やかな赤さで、以前と変わらぬ神気を秘めて、そこにあった。  それは堕した体に残る最後の聖域であり、変わり果てた体の中で抗い続ける魂を守る障壁だった。  躙り寄る触手はナメクジのようにその表面を這い回りながら絡みつき、そしてついにその先端を突き立てる。 『――っ』  ナサスは息を呑む。激流のように荒れ狂う大きな流れに晒されるかのような感覚が走って、一瞬だが意識を飛ばしてしまった。  獲物を捕らえる蛇のように心臓へと絡みつく触手が脈動し、狂気に満ちた邪念が流れ込んでくる。  紫色の禍々しい光が心臓に拡がって、頭蓋に何か言葉のようなものが響くのだが、うまく聞き取ることができない。  流れ込む邪念に染められた心臓が暗く変色しながら脈打つたびに、その声はより大きく、鮮明になってゆく。  ――……せ。  やめてくれ。聞きたくない。  ――――喰……せ。  うるさい。誰が従うものか。  ――――――喰らい、尽くせ。 『やめ、ろぉっ!』  ――この星の全ての領土を喰らい尽くせ。全ての知識を喰らい尽くせ。全ての意識を喰らい尽くせ。  ……声はそう命じていた。 『あ、あぁ、……』  胸の内からするりと触手が引き抜かれてゆく。ナサスは放心し呆けた顔で虚空を見上げながら呻いていた。  侵し、蝕み、喰らえと、抗うこともできぬほど鮮明に、強烈に、変わり果てた体に宿る本能を後押しする命令。  触手を通じて分け与えられた力が体に漲って、胸を切り開く傷がひとりでに閉じてゆく。  触手が頬を這っている。その先端が額へと触れる。何かが、何かが頭の中に入ってくる。広がっていく。  さあ、その全てを明け渡せと促されているのが分かる。そして己はもう、それを望んでいた。  何か、とても大きな流れの一部に組み込まれ、その流れに逆らうことができない。  深く、深く、永い時間の中で蓄積された記憶の底へ。  脳裏に浮かぶのは、暗く暖かな産道を通り生を受けたそのときの記憶。赤子の目に映る、光り輝く世界の記憶。  ……ああ、こうして今になって見せられると、なんて、なんて――。  ――なんて悍ましく、醜い世界なのだろうか。    鮮明に浮かび上がる記憶の中に、美しいものなど何一つとてなかった。   青空に浮かぶ太陽、その光を反射して輝く砂の粒、夜空に広がる星々、緑に囲まれたオアシス、そのどれもが等しく醜い。  自分がその醜悪な世界に巣食う異形の生物の一人として生まれた事実に、羞恥心さえ覚える。  ……ああ、だけれど。  愚かな人の子として生まれた自分が、邪悪な儀式によって醜い怪物と変じ過ごしながら蓄えた知識に、ほんの少しでも価値を見出していただけるのなら。  きっとこの生命は、そのためにあったのだろう。 『あぁ……、あぁ……! 我が生命、我が知識、全てを捧げましょうぞ。我が生涯は、ただこの日のために……』  ナサスは恍惚の表情を浮かべ、己が仕える主の望みを受け入れる。永い生涯の中で、これほど幸せな瞬間など他になかった。  自分と言う命が生まれ落ちたその意味を知り、その役目を果たした喜びに勝る感情など、あるはずがないのだ。  脳髄に張られた根を通じて己の経験した全てを捧げながら、その興奮に屹立した肉棒から射精さえしていた。 『あ、あぁ、あ……』  全てを、全てを捧げた。頭の内側に張られた根が引き抜かれてゆく。  もう差し出せるものが残っていないという事実に深い喪失感を覚えたが、同時に湧き上がってくる誇らしさがその悲しみを癒やしてくれる。  ついに額から引き抜かれた触手が裂け目の向こうへ消え、こちらを覗いていた目玉は闇の中へと掻き消えた。  終わったのだ。それを実感しながら、両の瞳から溢れ出して止まらない涙を拭い去り、顔を上げる。 『あぁ……っ』  硬い甲殻に包まれた体、強靭な複数の腕、そしてその股ぐらからそそり勃つ巨大な肉棒。  あまりにも美しく扇状的な、完璧なる捕食者の姿がそこにあった。  その雄々しき佇まいに、ナサスは尻の奥が熱く疼くのを感じ生唾を飲み込む。  ああ、そんな。  なぜこうも彼らは美しいのか。  なぜこうも我らは醜いのか。  胸に溢れるのは羨望と畏敬の念、そして丹田の奥から湧き上がる劣情だった。  自分のような醜い獣の形質を残したままの紛い物が、彼のような純粋な生物へと劣情を抱いてしまうなど許されない冒涜のはずなのに。  ……ああしかし、彼はそれを求めているのだ。こちらの愚かな抵抗を抑えるために発せられたあの命令、その余波を受けて昂ぶった衝動を発散する手助けを、欲している。  ナサスは惹き寄せられるように体を起こし、雄々しくそそり勃つ剛直を頂いた巨躯へ跪くと、まずはその足先へと口づけをした。 『っ、ん……ッ』  その瞬間、身震いするほどの快感がナサスの体を貫く。涙が零れ落ちそうなほどの感動があった。従うべき存在に頭を垂れる多幸感に、脳が蕩けそうだった。  鉤爪の先から順に、紫色の舌をゆっくりと這わせてゆく。逞しい甲殻に包まれた脚を伝う愛液を余さず舐め取って、その味わいに興奮を強めながら、上へ上へと辿っていった。  そうしてついに剛直へと辿り着く。熱く脈打つ肉杭の雄々しさ、力強さ、強靭さを目前で感じながら、この肉棒へと奉仕させていただけることの誇らしさに胸が打ち震えた。 『んんっ、ふぅ、じゅぅ……』  かつて醜い獣の一匹であった頃、娼夫からそうされたように、ぴちゃりぴちゃりと肉棒を舐めあげてゆく。思い返すだけで吐き気の込み上げる記憶だが、その手練手管の知識を得られたことは無駄ではなかったのだ。  ナサスは懸命に舌を動かして、その剛直を舐めあげてゆく。何ひとつの疑問も違和感もなく、それが己の役目であると確信していた。  かつて英雄と讃えられた超越者は、今やその魂までもが異界の法則に染め上げられ、その使者たちへと尽くすための従僕として生まれ変わっていた。 『んっ、じゅるっ、ずず……』  先端から溢れ出す愛液を啜り上げ嚥下しながら、未だ醜い異形の生物だったころの名残を残す胸板を肉棒へと擦り付け奉仕する。  この醜い体も、こうして仕えるべき相手への奉仕に役立つのなら少しは救われる。自嘲気味にそう思い浮かべながら、ナサスは相手の逞しい装甲を、彼と同じ硬い外殻に覆われた指で艶かしくなぞる。  甲殻を擦れ合わせる音が心地良い。自分が醜悪な異形の生物たちではなく、彼らのような美しい存在の同胞なのだという実感が得られた。 『んっ……、その体へと跨る無礼を、お許しください……』  相手が地面へと腰を下ろしたのを確認すると、ナサスは名残惜しげに肉棒の先端から口を離し、蕩けた顔を浮かべながらそう口にした。  尻はもう、馴らす必要もないほどに濡れそぼっている。かつて排泄器官だったそこは今、この雄々しい男根を包み込み奉仕するための性器へと生まれ変わっていた。  ナサスは背筋を駆け上る快感に身を震わせながら自らの腕ほどもある剛直へとまたがり、トロトロと愛液を垂らす赤紫色の肉厚な穴をその側面へと擦り付ける。  その熱が、脈動が、硬さが、敏感な粘膜を通じて伝わってくる。自分は再びその性行為の相手をする幸運に恵まれたのだと、今さらになって深い実感が湧いてきた。 『ぬっ、あ、はぁ……ッ』  この剛直を初めて根本まで突き挿れられた時の形を、臓腑が覚えている。雄へと奉仕するための性器と化した肛門は、脈打ち雫を垂らす肉棒を貪欲に飲み込んで、雄膣となった直腸へと導いてゆく。  ゆっくりと腰を下ろしていき途方も無い大きさを持った熱い塊が胎内を満たしてゆく快感に背筋を震わせ、痛いほどに膨れ上がった自身の肉棒から先走りを溢れさせる。  根本までもを受け入れ、美しい光沢を放つ外殻の硬さを尻の肉で感じながら、溢れ出す多幸感に口元が緩んでしまう。 『んっ、あ……ッ』  彼の持つ4本の腕がこちらへと伸びてきて、醜く脆弱な表皮しか持たぬ胴体へと鉤爪を突き立て鷲掴みにされる。 『おッ、……あがっ、ひぃっ、いぃん……ッ』  腰を揺すり奉仕するまでもなく、彼はその2対の腕でナサスの体を持ち上げ、柔らかな尻を自らの腰へと叩きつけるように打ち付ける。  まるで道具を使って雄としての高ぶりを沈めているかのように、快楽を貪るための消耗品として使われながら、ナサスは恍惚の表情で天を仰ぎ苦しげな喘ぎ声を響かせていた。  価値を見いだされていたものは全て奪われ、今や興味の対象ですらもない下等な眷属。そのような存在でしか無い自分が、なおもこうして役に立てている。魂にまで焼き付けられた下僕としての本能が、その乱暴な扱いにすら悦びを見出してしまうのだ。  その堕ちきった生物はもう、超越者ナサスではなかった。その記憶の全てを有しているだけの、歪な混ざりもの。 『お゛ッ、お゛ひっ、イ゛っ、イ゛ぐっ、うぅ……ッ!』  ピストンの衝撃で臓腑を圧迫されながら漏れる喘ぎ声は無様に潰れ、かつてナサスであったその生き物は、己の無様さすらも忘れ恍惚の表情で嬌声を上げる。  血管の浮く玉袋がきゅうっと縮み上がって、その中を泳ぐ低俗な遺伝情報を宿した畜生の精液が無意味に吐き出されようとしていた。  そして、快感に打ち震え痙攣を続けるその背中へと浴びせられる咆哮。彼の体を使う巨蟲もまた、絶頂が近づいていた。  胎内で逞しい肉棒が暴れている。開放の時を求めて猛り狂っている。ああ、そこから放たれる崇高な遺伝子をこの腹で受け止めたい。そんな幸せが許されるのなら……。 『――――っっっっ!』  ――ごぽおおおおおおおっ、どぶっ、どびゅるぅっ!  腹の奥で、熱い液体が爆ぜる。あの指で摘み上げられるほどに大きく強靭な精虫が、彼らの眷属として作り変えてもらった胎内へと、一斉に放たれたのだ。  一滴も漏らすまいと、きゅううっと肛門へ力を込める。どくどくと注ぎ込まれる精液で腹部が膨れ上がり、苦しいくらいだった。  ……だが、その力強く貴い遺伝子を下劣なる獣風情の腹で受け止めることを許された悦びは苦痛を遥かに上回って、その魂へと至上の恍惚を与えてくれる。  腰を密着したままひとしきり精液を堕し尽くすと、ナサスの体を抱え込む巨体が身じろぎをする。 『あ、ああああああっ!?』  恍惚の余韻を愉しむ暇すらも与えられずに、尻の穴から肉棒が勢いよく引き抜かれる。その強烈な刺激に悲鳴を上げながら身悶えし、用済みとばかりに地面へと投げ捨てられる。  衝動を鎮めた巨蟲は、今や何の価値すらもない歪な混ざりものを捨て置き、去ってゆく。……当然だった。一時の昂りを発散させた今、これ以上に求められるはずがない。  置き去りにされたナサスは、ぱっくりと口を開けた捲れ上がった肛門から雄膣を脱腸させ、その表面にさえ無数の精虫が這い回っている。  そこから発せられる狂おしい刺激に背筋が震えるたびに、ぶぴゅっと下品な音を立てて捲れ上がった穴から精液が溢れ出す。  ナサスは背筋を丸めて蹲り、苦しげな表情を歪めながら、注ぎ込まれた精液が臓腑の奥で脈打つのを感じ取り、ナサスは感極まった様子で声を漏らした。 『あぁ、あぁ……』  脈動する命の熱が、胎内へと宿ってゆくのを感じる。新たな役目が与えられたのだと言う悦びが胸を満たしていた。  その禍々しい光を放つ瞳の奥に、かつてシュリーマを繁栄に導いた生ける伝説、超越の英雄としての意識は一欠片も残ってはいない。 (……我は、美しき異界からの使者たちへと忠実に仕える狗。あの深淵こそが、わが故郷。我が魂の還るべき場所)  ナサスはその内に放たれた力強い命のエッセンスが、自らの身体にさらなる進化を促してゆく予感に目を細めながら、虚空に鎮座する裂け目へと跪く。  いつかその向こうへと、まだ見ぬ真の故郷へと還りその一部となる日を夢見ながら、彼は変わり果てた顔に邪悪な笑みを浮かべでいた。 続く

Comments

肉体が変質しながらも抵抗をするナサスに心を打たれました。心の中の幼児が「がんばえええーー!!なさしゅ~~!!!!」ってすごい応援してて…「そうだね、ナサスつよいね!もっと応援しようね!」と思ったら負けちゃう。滅びの美学を感じました。 絶望には希望が必要ですよね、ほんとそう思います。素晴らしいです。 また、記憶の中の美しいはずの景色を「醜い」「悍ましい」と言ってしまう認知の歪み、大変にサビでした…最高でした!!

にゃんそん

開幕から達磨になったナサスをあの手この手で辱めて堕としめるのが最高に滾ることこの上ない描写でした… 特に、特に精虫の描写が(自分が大好きな描写ということもあり)素晴らしかったと思います…! 傷口に群がり、体の内側から侵食し、更に逆流して上も下も内も外も精虫塗れになる所は言葉に出来ぬほど滾りました! そしてなによりもギリギリまで抗い続けて挙句、最後には自身の尊厳も何もかもかなぐり捨てて眷属に成り果てる部分、最高な墜ち方だったと思います…! 今回も非常に素晴らしい作品だったと思います! ひっそりと陰ながらですが、これからの活動も応援しております……!

新屋


More Creators