催眠で薄汚いモブ獣人と肉体関係を持つ契約を了承させられるナサスくん その①
Added 2021-03-03 11:02:31 +0000 UTC今宵は新月だった。 日中は所狭しと露天が並び、交易商人や市井の人々で賑わうシュリーマの大通りであるが、月明かりさえも差さぬ丑三つ時となれば、昼間のそれとは真反対の静けさに包まれている。 人々の多くは寝静まり、戸の隙間から灯りを漏らす民家もほとんどない。そんな夜の街を、大柄な男が息を潜めて歩いていた。まるで餓えた盗人のそれを思わせる暗い色のボロ布を羽織り、深く頭巾を被って顔を隠しながら。 男はやがて大通りから別れた路地裏へと歩みを進め、立ち並ぶ石造りの民家の間を縫うようにしながら、やがて一つの建物へとたどり着く。 そこは、朽ちた木の棚や壊れた椅子に蜘蛛の巣が張る荒れ果てた内部が錆びた蝶番のみが残る入り口から覗く、廃屋も同然の民家。盗人さえよりつかぬ廃墟を前にして、男は誰かに見られてはいないかと周囲を見回してから、身を屈めて入り口を潜る。 星明かりさえ届かず暗闇に包まれた室内を、男は苦もせず歩いていゆく。入り口からは見えぬ奥まった場所には、埃の降り積もった階段があり、その上にはかつて男が訪れたときの大きな足跡とは別に、真新しい足跡が残っていた。 「……」 何か葛藤するかのように、男が小さく肩を震わせる。頭巾の奥からは熱を含んだ息遣いが漏れ、視線は階段から続く二階へと向けられていた。 そこから廃屋には不自然な甘い香の匂いが僅かに漂ってくる。その香りと関連付けられた記憶が男の頭に浮かび上がり、やがて男はふらふらとした足付きで階段を登り始めていた。 二階には、古びた木製の扉があった。男は緊張したように早く浅い息遣いを繰り返しながら、ぎこちなく緊張した手付きでその扉を開ける。 「……っ」 扉の向こうから差し込むランプの薄明かりと、生暖かい空気を伴い流れ込んでくる甘い香り。緊張した体が弛緩してゆくのを感じながら、男は目的地へと足を踏み入れた。 ゆっくりと、努めて物音を立てぬように扉を閉め、深く被った頭巾へと鋭い爪を備える右手を伸ばす。 その中から露わになったのは、黒い獣毛に包まれたジャッカルの顔。青い光を内包した瞳は悩ましげに震え、呆けたように半開きとなった口元からは熱い吐息がこぼれていた。 ……男は、このシュリーマの地で生ける伝説とさえ称される半神の英雄、ナサスその人であった。 ナサスは、普段の思慮深く優雅な立ち振舞が嘘のように肩を萎縮させ心細気な様子を見せながら、部屋で唯一の光源であるか細い光を漏らすランプへと、埃の積もったテーブルに設置されたそれの横で、椅子に深く腰掛けて自分を見つめる一人の男へと視線を向ける。 「ああ、やっと来てくれたか」 「……っ、一度交わした契約を、違える気は、ない……」 男から投げかけられた問いに、ナサスは耐え難い何かに抗いながらといった様子の焦燥を含む、余裕を失った口調で返答する。 その短いやり取りの間でさえも、浮浪者を思わせるボロ布に覆われた体は切なげに震え、その股ぐらで膨れ上がった怒張が布を押し上げてテントのような膨らみを作っていた。 部屋に充満した甘い香りを吸い込むたびに、遥か昔初めての性衝動に背筋を震わせた童の時分じみて、狂おしい衝動が背筋を駆け上る。 熱を帯びた肛門が耐え難い疼きを伴ってヒクヒクと収縮する様が感じられて、いつになく平常心を掻き乱されていることを意識させられる。 ……おかしい。何かがおかしい。こんなことがありえるのか。頭の片隅に、そんな現状への警告が鳴り響いている。 「……時間が、惜しい。始めるぞ」 胸の内でせめぎ合う葛藤を振り払うように震えた声を絞り出し、ナサスは身を包むボロ布に手をかけた。 数多の戦場で英雄と呼ぶに相応しい活躍を上げてきたその屈強な肉体は、その一糸まとわぬ姿を薄明かりに照らされて官能的に艶めいており、布の上からでも分かるほどに目立っていた股ぐらからは体と同じ黒色の魔羅が熱り勃ち、その先端に雫を浮かべながらびくんと震えていた。 裸体にボロ布を羽織るのみという色狂いめいた姿で夜の街を歩きこの場所へと足を運ぶ屈辱に、英雄の体はしかし確かな興奮を見出しいる。雄々しい男根を硬く膨れ上がらせた姿は、言い逃れできぬほどにその事実を物語っていた。 「英雄様も随分な好き者に成り果てたようで」 「……っ」 恥辱に顔が熱くなるのを感じながらも、ナサスは何も言い返せずに押し黙るしかなかった。 震える瞳で悔しげに男を睨みながらゆっくりとそちらへと歩み寄り、英雄への敬意などまるで感じさせぬふてぶてしさで座るその目の前に、膝を突く。 男はすでに脚絆と下着を脱ぎ捨てて下半身を晒しており、英雄自身のそれと比べれば平凡な大きさでしかない男根が、その股ぐらで自己主張をしていた。 ナサスは未だ胸の内で燻る抵抗感に目を細めながら、葛藤を隠すことのできぬ緩慢な動作でそこへと鼻面を近づけてゆく。 あえて洗浄を怠っているのだろう亀頭には白く乾いた恥垢が浮かび、完全に勃起していてもなおその大半は包皮に包まれている。 鼻腔へと流れ込んでくる濃い雄の臭気に顔を顰めながら、しかし口の中には唾液が溢れてゆく。ナサスはそんな己の矛盾に気づかぬ振りをしながら、おずおずと口を開けた。 まるで相手にも自分にもそう見せたがっているかのように、恐る恐るといった仕草で匂い立つ男根の先端をちろりと舐め上げる。 舌の上には塩辛い味が広がり、鈴口から溢れた透明の液体がナサスの舌先との間に糸を引いた。 亀頭に浮かぶ乾いた恥垢を震える舌先で遠慮がちに舐め取ってゆくが、繰り返すほどにその舌使いは大胆さを増してゆく。 包皮の内側へと舌先を潜り込ませるようにしながら、先走りと小便とが混じり合い熟成された味と匂いを摂取してゆく。 嫌悪と恥辱に震えながら男の顔を睨みつけることも、耐え難い悪臭に吐き気を催しえづくことも忘れて、英雄は不潔な男根に魅了されていた。 「本当に上手くなって……っ」 「んっ、んん……」 呆けたジャッカルの顔へと無遠慮に乗せられる手のひら。まるで飼い犬を褒めるかのように額を撫でられながら、ナサスは恥ずかしげに声を漏らす。 男の右手首に紫色の宝玉あしらった腕輪がはめられており、それはナサスの内で膨らんでゆく淫らな欲望に呼応するかのごとく妖しいきらめきを放っていた。 「じゅ、んん、はぁ……っ」 その異変を意識する事もできぬままに夢中で男根をしゃぶりあげ、ナサスは湧き上がる熱に浮かされて背筋を震わせる。 ……いつからだろうか、この夜会を待ち遠しく感じるようになってしまったのは。なぜ、自分はこうなってしまったのだろう。 恐怖さえ抱くほどの心地よさにうっとりと目を細めながら、英雄の胸にはそんな疑問が浮かんでいた。 ☓☓☓ ――数多の戦場を勝利に導きシュリーマの英雄となった超越者ナサスはしかし、力ではなく人々の歴史の中で紡がれ積み重ねられてゆく叡智をこそ尊んだ。 未だこの世界には彼も知らぬ賢者たちの智慧が眠り、それらがその価値を知られぬまま失われてしまうのは、この世界そのものにとっての損失である。 であれば、価値ある知識を自らの管轄する書庫へと加え入れ次代へと繋いでゆくことは、超越者として悠久の時を生きる自分が果たすべき使命の一つ。ナサスはそう考えていた。 礼を重んじ、得難い貴重な知識には相応の報酬を払う彼に対して、シュリーマを訪れる交易商たちは各地で手に入れた書物や知識を種別問わず持ち寄ってくれる。 男はそんな商人たちの一人であり、砂漠に住まい狩猟によって生活する獅子の形質を受け継いだヴァスタヤの一族の者だった。 各地の遺跡に踏み入って盗掘家のように値打ちのあるものを探し回っては、交易の中継地であるシュリーマへと立ち寄った際にそこで手に入れたものを届けてくれる。 その行いは歴史への敬意をやや軽んじているきらいがあり、個人として好感を抱ける種類の人物ではなかったものの、ナサスはそれを誰にも知られず朽ちるのを待つのみだった先人の叡智を保存してゆくための必要悪と割り切って、相応の報酬を払い買い取ってきた。 そして取引の回数を重ね、連絡を取り合う商人たちの中でも指折りの一人として数えるようになった頃、男は姿を消した。 ……砂漠に潜む猛獣や盗賊、それら脅威によって商人が音信不通になるというのも珍しい話ではない。惜しい取引相手を失ったという落胆は在りつつも、ナサスはその結末を仕方なきことと受け入れていた。 しかし数ヶ月前、その男はひょっこりと姿を表した。色あせ薄汚れた衣服に身を包む浮浪者のような風貌で、その腕に嵌められた紫色に輝く宝石のあしらわれた腕輪が不自然なほどに目立っていたのを憶えている。 砂にまれたたてがみを掻き毟り、天高く登った陽の光をやけに眩しがりながら、これまでと比較にならぬほど重要な発見をしたと訴えかけてきた。そのただならぬ様子に若干の違和感を抱きながらも、それは発見したものの重大さゆえとナサスに判断させるの信用を、男はそれまでの取引で築いていた。 人払いをし詳しい話を聞こうとするナサスに対して、男は数日後に訪れる新月の夜を商談の日として伝えた。信用のおける使いを出そうという提案に対しても、ナサス本人でなければ話し合いは不可能だと頑として受け入れない。 どこか偏執的なまでの気の入れ様に対してナサスが訝しげに疑問を口にすると、男は読み終われば他の誰にも見せず処分するようにと念を押し、一巻きの羊皮紙を差し出してその場を去った。 ……その夜、自室で色褪せたスクロールを開きながら、ナサスは目を見開き驚愕する。 それは、今は読解できる者も少ない古代の文字で書かれた魔書、その冒頭の写しだった。 この世界の裏側に存在する悪意に満ちた異界、ヴォイド。かつてシュリーマとの戦争においてイカシアがそうしたように、その力をこちら側へと招き入れるための外法。 決して野放しにされてはならぬ、最も危険な種類の知識。可能ならば永遠に消し去ることをも考慮に入れねばならぬほどの、禁忌である。 男の不自然な様子にも得心がいった。世界を脅かしかねぬ知識を期せずして拾い上げてしまった重圧は、ただ一人の商人にはあまりにも荷が勝ちすぎる。 そしてその責任を受け渡すべき対象として、自分以外に適した人物など思い浮かばぬだろうという、自負もあった。 スクロールの内容を明晰な頭脳の中にしっかりと刻みつけ終えると、ナサスはその手の内に魔力を迸らせる。質の悪い羊皮紙は数十年の時が一瞬で過ぎ去ってゆくかのように風化し、塵となって崩れ落ちた。 ジャッカルの顔に薄く冷や汗を浮かべ、ここ数十年でも指折りの緊張感がじとりと体を包んでいるのを感じながら、ナサスは小さく息を吐く。 あの男にはどれほどの褒美を取らせるべきであろうか。何を求められたとしても、自分にできうる限りの力でそれに応えねばなならぬ。男の拾い上げた知識は、英雄にそう思わせるだけのものだった。 「それは、我を愚弄しての言葉か?」 密会の日、男から求められた対価に対してナサスの口から放たれたのは、礼を知らぬ匹夫への軽蔑を露わにした怒りの言葉であった。 先日と同じみすぼらしい風貌で商談の場として指定した廃墟に現れたその男は、如何にして自分が禁じられた書物を発見したかを話し、下心に満ちた卑屈な目でナサスを見上げながら彼自身を求めた。 「決してそのようなつもりはありませぬ。ただただ、最も焦がれるものを口にしただけ」 男はナサスの怒気に萎縮し、へりくだりながらそう続ける。元より男色の思考を持っていたその男は、自身と同じように獣の形質を受け継いだ屈強な雄の肉体にこそ耐え難い魅力を抱くのだと。 そしてシュリーマの生ける伝説たるナサスこそが、英雄たる精強な肉体に並ぶ者のない深い智性を宿す理想の雄であり、英雄に謁見を許される理由を得たいがために危険を犯してまで諸国を旅し、盗掘家紛いのことをして珍しい知識を集めてきたのだと。 本来ならその思いは隠し続けていただろうが、今後二度と訪れないであろう好機を目の当たりにして、手を伸ばさずには居られなかったのだと男は語った。 これまで必死に隠してきた分の反動か、今や男の視線は酒場に立つ娼婦を品定めするかの如く下卑た情欲に濁って、凛としたジャッカルの顔を、鋼のように屈強な胸板を、強靭かつしなやかな四肢を、引き締まった腰を、舐めるように凝視していた。 男はその肉体を我が物にしたいのだと臆面もなく語る。抱え込んだ欲望を英雄の肢体に叩きつけ、絶頂に至りたいのだと。屈強な体に纏う黒色の獣毛を、自らの精で汚したいと。 ナサスとて、同性からこの種の視線を向けられた経験は一度や二度ではなかったが、こうも露骨に欲情をぶつけられる不快さには些かの嫌悪を抱かずにはいられなかった。 「……貴様がどれほど耐え難い衝動に苛まれていたかは知らぬが、我にそれを受け入れる気はない。今までの忍耐に免じ先の言葉は聞き流すが、二度目は無い。……さあ、改めて望む報酬を口にするがいい」 「その寛大さに感謝しましょう。しかし……」 ナサスの明確な拒絶と、次はないという脅しの言葉。それを受けながらも男は狂気的なまでの頑なさで望みを口にし続ける。 自らを睨む強大な威圧感を含んだ視線すらもを、より執着を強める魅力の発露とさえ受け取っている節が合った。 ナサスは威圧的な態度を崩さぬよう冷ややかに男を見下ろしながら思案する。どうすれば相手の頭を冷やす事ができるだろうか。 ……人は、それがどういう類のものであれ情に狂ったときにこそ、度し難い愚かさを発揮する。その対象が目の前にいるならばなおさらなのだろう。今は交渉を打ち切り、代理を立ててから再開するか。可能な限り相手の望みに沿う雄を見繕い、それをあてがって宥め賺すか。 男の得たものを力づくで奪い取るという手もあるが、見た所この場に物品を持ってきた様子はなく、またそういった荒々しい手段は可能な限り後回しにすべきものだ。 ……男は、そうやって顔には出さずとも、ナサスの頭の中に今もいくつもの案が巡らされているのだろうと分かった上で、その判断を少しでも自分の望むものにしようと言葉を重ねる。 「私が見つけた書は一つではなく、望みが叶わぬと言うなら、それらを貴方以外の求める者の手に委ねる準備は整っております」 「……貴様は自分が言葉が意味するところを、分かっておろうな?」 それはナサスへと、そしてシュリーマそのものへと弓を引く用意があるという発言だった。 逆賊としてこの場で処されたとしても文句を言えぬ脅しの言葉。自分の命をも投げ売った形振り構わぬ捨て身の交渉。 ナサスを見上げる男の瞳は、情欲という狂気に満ちて、もはや言葉による説得など不可能であると告げていた。 「さあ、この魔羅に口をつけて頂ければ全てが丸く収まりましょう」 「……っ」 男は自らの纏う色褪せた脚絆を緩め、硬く屹立した男根を露出させる。乾いた恥垢の浮かばせる薄汚いそれへと自分がかしづく様を、この男は今も思い浮かべているのだと示され、僅かに呼吸を震わせてしまうほどの虫唾が走った。 「……くどい!」 各地に間者を送り、男のばら撒いた書を回収させるまでに要する時間はどれほどか。 書は一体何巻が現存し、それらはまとめて保管されているのか。それとも別々の場所に在るのか。 シュリーマを、引いてはこの世界そのものを揺らがしかねないリスクを、どれだけの期間に渡って抱え続けねばならないのか。 ……いつ燃え上がるとも知れぬその火種を、自身への辱めを拒むために看過することが、許されるのか。 そこへと思い至ったとき、さしものナサスも額に冷や汗を滲ませ、焦燥を隠せぬ面持ちで押し黙る。 「もし私めがただの男で、貴族の女を嫁に寄越せと言えば、貴方は今のようにすげなく断りましたか?」 嘲るような口ぶりで、男はナサスへと問いかけた。自分の身を惜しむのに、他人ならばその犠牲を無視するのかと。 それがシュリーマの安寧のために必要な犠牲であれば、そうしていた可能性もあるだろう。事実、ナサスは男の好みに合う男娼の一人でも見繕って差し出そうかと考慮したばかりだ。 ……男の言わんとしている事は理解できる。他者を駒として扱うならば、当然自身も駒の一つとして数えていようと言いたいのだろう。 無論、このシュリーマにおいて自らという駒にどれだけの価値が在るのかを軽んじるつもりはない。先に述べた人物らと等価の駒として扱うべきでないと、識っている。だがそれでも、盤上に存在していることに違いはなかった。 男は自らの持つ手札がどれだけの価値をもつのかを理解し優位を確信した上で、窮地に追い込まれた英雄が己自身という駒に手をかけることを期待し、待っている。 「ああ、そうだ。貴方がどうしても嫌だとおっしゃるなら……」 男はぺろりと舌舐めずりをして、金色の瞳を爛々と輝かせながらナサスを見ていた。 「ええ、貴方の弟君で妥協することもやぶさかではありませんとも。貴方に比べればまあ、些か好みの人柄とは言えませんが、しかしあの極上の体を好きにできるのなら我慢もしましょう。……前と後ろ、どちらがより具合の良い穴なのか確かめてみたいものです」 「……!」 ぎりり、とナサスは牙を食いしばる。男はそれを目ざとく見つけ、ニタァと口角を釣り上げる。 自分如きの口にする安い挑発の言葉ですら黙って受け流す事もできぬほど、英雄は揺れている。それを察したからこその笑みだった。 「ああ、何も公の関係にしろなどとは言いませぬとも。英雄としての体面というものがありましょうし、閨の相手を務めて頂ければ十分です。それに私のような定命の命、もってあと四十年と言った所。神なる肉体を持ち悠久の生きるあなた方には大した時間でもありますまい。しばしの辛抱ではないですか」 男の言葉に反論する要素は少なかった。多少公務の効率は落ちるだろうが、それも男の寿命が尽きるまで。辱めを受けたという傷は残るだろうが、拒否したときに抱えるリスクと比べれば呑み込むべきと言える代償ではある。 細心の注意を払い、他の者にこの男との関係を知られぬよう手を回すことも、弟ならともかく自分であれば可能であろう。 眉間にシワを寄せ、えづくような嫌悪に首筋の獣毛を逆立てながら、ナサスはついに自らという駒に手をかける。 ――男は、それを待っていた。 「ああ、それでもまだ難色を示されるのであれば――」 男の右手がナサスへと伸びる。鋭い爪を備えた人ならざる膂力を有する英雄の指へと、まるで恋仲の者たちがそうするかのように男の指が絡められた。 ナサスはそれを振りほどくことも、爛々と光る縦に割れた瞳孔から目を逸らすこともできなかった。 「月に一度、今宵と同じ新月の夜、私と逢瀬の時間を用意していただきたい。そのたびに、私の有する書物を一冊ずつ貴方へと送りましょう。こちらが全てを差し出したあとは、まあ関係を継続していただけるに越したことはありませんが、無理に引き止めるのも無粋でしょう」 男の右手首に嵌められた腕輪が、紫色の妖しい光を発していたが、ナサスにそれを知覚することはできなかった。 ぬるりと、そのために意識を集中せねば気づくこともできぬほど静かに、腕輪から発せられた力が英雄の体へと流れてゆく。 その邪な力は、ナサスの胸の内で二つの選択肢を乗せて揺れる天秤へと触れ、そっと押した。 「……書は、いくつある?」 「季節が一回りするまでには、全てが貴方の手中となるでしょう」 「……全てを、一度によこせ」 「その数だけ閨を共にしてくださると誓っていただけるならば」 「……偽りはないだろうな?」 「それは私を信用していただくしか。私も、貴方が言葉を違えぬと信じております故」 ナサスの口にする問に男は己の勝利を確信し、喜びを隠さぬ高揚した声色で答えてゆく。 絡めた指先をそわそわと動かしながら、英雄がそれに抵抗をしないという事実を噛み締め、感極まった笑みをこぼしながら背筋を震わせていた。 「ならば、我、は……」 繋げられた手を、男の痛々しいほどに膨らんだ恥部へと導かれてゆく。それは熱く脈動し、英雄の手の内で期待に打ち震え、先走りの雫を溢れさせていた。 できるものならば、握り潰してしまいたい。しかしナサスにできるのは、その手のひらで男根を優しく包み込むことだけ。 「ああ、今まで生きてきて、これほど幸せな瞬間は他にありませんでした。このまま果ててしまいそうです」 「……っ」 男が幸せを噛みしめるように上ずった声で囁きながら、腰を揺らしてナサスの手の内にその肉棒をこすりつけてくる。先走りがじわりと指の獣毛へと染み込んできて、まるで汚物を手づかみにするかの心地だった。 自ら腕を動かしてすぐに相手を果てさせてしまおうという判断もできぬまま硬直するナサスへと、男は快感に悶えながら語りかける。 「……さあ、私の魔羅へと口をつけ、誓っていただけませんか? さあ、早く……!」 超越の儀を経て手に入れた肉体の、その血肉の一片までもが、この男へと跪くことを拒否しているかのようだった。 身をかがめ、床へと膝を突こうとする所作はあまりにもぎこちなく緩慢で、ナサス自身にすら実際以上の時間として知覚された。 そして、恥垢の浮いた不潔な肉棒を見せつけるように掴み、勝ち誇った笑みを浮かべる男の、その欲望に濁った目が、ついにナサスを見下ろす。 英雄は下種な欲望を抱えるのみの匹夫を前に跪き、鼻が曲がりそうなほど強烈な雄の匂いを発する男根へと、口を寄せる。 「貴様が、契約を違えぬ誓うならば、我は……」 「いくらでも誓いますとも! さあ、貴方はどうなのですか?」 男の男根は今やナサスの目の前に突きつけられ、あと一息で鼻先に触れるほどだった。 後はそこに口をつけ、男の提示した条件を飲むと誓うだけ。 ナサスがゆっくりと口を開いてゆく。口腔に並び立つ鋭い牙がぎらりと光るが、その牙を向ける事は許されない。 ぎこちなく震える舌先が蝸牛のように緩慢な動きで、その大半を包皮に包まれた亀頭へと伸びてゆく。 「ちか、おう……」 舌先に広がる、小便と雄の精が混じり合う味わい。 「今宵より、季節が一巡りするまで……」 これから、幾度も幾度も、味わい続けなければならぬ味。 「月に一度、新月の夜に限り」 屈辱に声が震えていた。死の淵から新生し天より与えられたこの肉体への、何よりもの冒涜だった。 「我が身を、貴様に預けよう……」 「あぁ……!」 男が感極まって声を上げながら額へと右手を伸ばしてくる。愛玩動物にでもするように顔をもみくちゃに撫でられながら、ナサスは不快感に低い唸り声を漏らす。 とめどなく溢れ出した先走りを口元へとぐいぐい押し付けられ、それを口腔へ迎え入れる事を迫られていた。 「ふ、んん……っ」 「さあ、もっと舌を絡めて。ちゃんと皮の内側まで舐めてください」 口淫というよりも、舌を使ってこの男の陰茎の掃除を行わされていると言った状態だった。 ナサスはぎこちない動きで男根へと舌を絡め、言われた通りに包皮を捲り上げるようにしながら、カリに溜まった恥垢を舐め上げる。 亀頭に浮く乾いたものと違い、包皮の中で熟成され湿ったそれの強烈な味と臭気は吐き気が込み上げるほどの忌避感を覚えさせた。 「ああ、よしよし、些か物足りなくはありますが、慣れないなりに懸命に頑張る姿も愛らしい。回数を重ねながら上達してゆきましょうや」 「く、ぅ……!」 ナサスの頭に乗せられた右腕で、腕輪は再び妖しい光を放っていた。その邪な力は男の体を通して、今まさに英雄の体内へと取り入れられようとしている。 「まあ、初回から淫婦のごとく情熱的にというのも求めすぎでしょう。まずは、口を開けて受け止めてくだされば十分です」 「ん、ふが、ぁ……?」 男の指がナサスの頬をなぞり、口の中へと侵入してくる。獣毛に包まれた指先で歯茎をふにふにと弄ばれたかと思えば、上顎に指を引っ掛けられ、舌へと亀頭を押し付けられる形で大きく口を開かされる。 「ああ、こんな日が、来るとは……っ!」 男が空いている方の手で自らの肉棒を扱き上げる。その声は熱い吐息を交えながらとぎれとぎれとなり、オーガズムの瞬間が近いことをナサスに伝えた。 一度、二度、三度、男の腕が動くたび、舌の上に大量の先走りが撒き散らされる。透明の液体が口腔に飛び散ってゆく様を、凝視されている。 そして四度目の動きが伝わってきたそのとき。 「あぁ……!」 ――びゅるううっ! 濃厚な雄臭を立ち昇らせる白濁液が、舌の上に吐き出された。男の男根はビクビクと震えながら断続的に吐精を続け、開いたままのナサスの口腔はその黄ばんだ白色によって彩られる。 男は肉棒を軽く揉むような動作を繰り返して、尿道に残った精液の最後の一滴までをもナサスの口内へと絞り出してゆく。 胸を大きく動かして荒い呼吸を漏らしながらナサスの口腔より肉棒を引き抜く。その金色の瞳が目の前の光景を焼き付けようとしているかのようにこちらを凝視ししていた。 「さあ、飲み込んでください」 「……っ」 すぐにでも吐き出してしまいたい。そう思ってることを見透かされたのかと一瞬だけ勘ぐったが、おそらく違うのだろう。 ナサスは口の端から滴る精液を腕で拭いながら顎を閉じる。空気と混じり合ったことで一層強烈に匂い立つ雄精の臭気に、再び吐き気が込み上げた。 「う、ぐぅ……」 喉元まで込み上げてきたものをなんとか押し留めながら漏れる呻き声。呼吸するたびにその耐え難い風味が鼻腔に広がって、えづきそうになる。 それでも、呑み込めと言われれば従うしか無い。 「……っ」 ごくん、とナサスの喉仏が震えた。嚥下してもなお、喉に絡みつく感覚が消えてくれない。 「これで、良いな……?」 ナサスは再び口を開け、求められた通りに事を成したことを伝える。 男は満面の笑みでその所作を見守り、大きく頷いて肯定してみせた。 「まあ、誰しも初めてはそんなものでしょう。それに、貴方に雄同士の愉しみ方というのを手取り足取り教え込めるというのも、それはそれで堪らぬ趣向。考えるだけで股が熱く……」 絶頂を迎えいくらか柔らかくなっていたはずの陰茎へと、再び血液が流れ込んでゆく。その様を見せつけられながら、ナサスは自分の選択に軽い後悔を覚え始めていた。 正しい選択をしたはず。自分が辱めを受けるだけで、人々は危険から遠ざけられる。 だが、この記憶を、生涯忘れることはできぬのだろう。 「せっかく長い舌があるのだから、上手く使って、あぁ、そうです、雄竿から玉裏まで全て……!」 この味を、匂いを、屈辱を、尽きぬ命がついに潰えるその日まで、抱え続ける。 「さすがシュリーマを支え続けてきた賢者、なんと覚えの早い。ああ、これではまた……!」 両手で頭を押さえつけられながら、鼻面へと腰を押し付けられる。 その口から漏れる要求にナサスが従うたび、男の態度はよりふてぶてしいものへと変化し、英雄への畏れを忘れていく。 英雄をついに手中に収めた興奮に、男の精力は極限まで昂って陰りを見せない。 ――その夜ナサスは五度、男の精を呑んだ。 続く
Comments
ああああああ!! 続き楽しみすぎるぅ!!!!
梅太郎
2021-03-07 13:49:40 +0000 UTCああ!あまりにも生殺し!続きが気になって仕方ありません!! 嫌悪を示すも辱めを受けるだけで人々が助かるならと陰茎に誓いを立てるナサスに興奮しました! ナサスが葛藤する度に心の商人が喜んで、不本意な態度を見せるたびに嬉しくなりました。葛藤、自己犠牲、プライド、彼の心情描写でご飯が美味しい! 続きを正座して待ってます!!
犬マローと
2021-03-03 17:18:50 +0000 UTC