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薄汚いモブ獣人の催眠調教で陥落してもはや言いなりとなったナサスくん④

前回 https://moke.fanbox.cc/posts/2944204    砂漠の冷たく乾いた夜風が、人目を避けるために深く被った外套を揺らしていた。しかし、体を包む火照りは些かも衰えない。  星明かりのみに照らされた路地を一歩進むたびに、丹田に燻る甘い疼きが膨れ上がって、腰から背筋へと痺れるような感覚が伝ってゆく。  ……どれだけこの日を待っただろうか。たかが半月が、夫に会えぬというだけで永遠にも思えるほどに永く感じられた。  獣を相手に平伏し雌となる恥辱の悦びも、慣れてしまえば自慰とさして変わらぬ一人遊びでしか無く、満たされぬまま過ぎてゆく時間の中で熟成された熱情が、開放の瞬間を求めている。  ジャッカルの鼻面も隠すほど深く被ったフードの奥で、ナサスは夢うつつの呆け顔を浮かべながら、愛する夫の浮かべる下卑た笑みを、醜く肥えた体を、雄臭を纏う黒魔羅を、五感の全てで味わってきた至福の時間を反芻し続けていた。  今や身も心も魅了され尽くし傀儡と成り果てた英雄は、深い酩酊の底にいるかのようなふらついた足取りで歩んでゆく。 「嗚呼、我が夫よ……。貴方様に会えぬ日々、この身を苛む苦悶は耐え難いものにございました」  気づけば、ナサスは夫の待つ寝室へと辿り着いていた。どうやってここまで歩いてきたのか、それすらもよく思い出せない。  胸を満たす悦びに声が震え、鼓動の高鳴りとともに熱い吐息が漏れる。フードを脱いで上気した顔を見せながら、心底からの屈従を表すように片膝を突いて跪く。  愛する夫は、天蓋付きの豪奢なベッドに腰掛けながらこちらを見下ろしている。黄色い牙を見せて意地の悪い笑みを浮かべながら、縦に割れた瞳がまっすぐこちらへと向けられている。 「……っ、ふぅ……っ」  その目で見つめられるだけで、燃え盛る熱情がより一層に昂ぶってゆく。甘い痺れに腰が震え、痛いほどに膨れ上がった肉棒が腰布を内側から押し上げる。下腹部が蕩けるように熱く疼いて、尻の穴がヒクヒクと期待に震えながら潤滑を帯び始めていた。  呼吸の乱れに胸が震え、乳首に吊り下げられたピアスが音を立てて揺れる。その刺激にすら脳を揺さぶられるような快感が伴い、溢れ出す先走りが亀頭の先端に取り付けられたピアスを伝い、床へと滴った。  ナサスは、その浅ましい体を夫へと見せつけるべく外套を脱ぎ去りながら、悩ましく上ずった声で続きを話す。 「これは、一人夜を過ごす妻へと慰みを御下賜くださった慈悲深き夫への、返礼にございます……っ」 「……ほう」  身を乗り出すようにこちらを見る夫へと淫らな笑みで応えながら、ナサスは幾重もの金糸を絡めて彩った胸板を見せつける。  艶めかしい手付きで自らの胸を揉みしだき、夫の手で通された乳首のピアスを揺らすと同時に、金糸から吊り下がる宝石や貴金属がじゃらりと音を立てた。  股間では、金の刺繍を施された絹の前垂れが屹立する剛直によって押し上げられ、溢れ出す先走りに染みを作っている。  衝動に突き動かされ、はやりそうになる体を抑えながら、ナサスはあえて緩慢な動作で立ち上がり、ベッドの上で待つ夫へと向けて足を踏み出す。  教え込まれた淫らな動きで夫を誘いながら、ナサスはその体を飾る宝飾品を誇示するように再び揺らしてみせた。  豪奢に輝く宝石のどれも、民の畏敬を集める英雄にして賢者たるナサスが、その永き生で築き上げた信用によって国費を中抜きし、宝物庫を物色し、夫へと捧げるべく選んだ逸品だ。望まれれば売却し現金へと変える手筈も整えてある。 「……ふ、ふ」  黄色い牙を見せたままぽかんと開いた口の端が吊り上がってゆく。細く漏れ出るような笑みを喉奥から漏らしながら、縦に割れた瞳でこちらの全身を舐るように見つめられる。  色あせた毛皮とは不釣り合いに真新しく上等な布で編まれたズボンの、その股ぐらがゆっくりと膨らんでゆくのが見て取れた。  色欲と物欲が混ざり合って、言葉もなく興奮に震えながら、食い入るようにこちらを見る下種な男の姿。……それが、愛しくてたまらない。 「……っ」  彼を感心させ得た悦びに胸が震え、息が乱れた。膨らんだ股ぐらに視線が吸い寄せられ、ごくりと生唾を飲み込んでしまう。  早くそれを受け入れたい。腹の奥に子種を注ぎ込まれたい。今すぐ夫へと飛びついて股ぐらへと吸い付きたい。  そんな込み上げる想いをなんとか自制しながら、ナサスは夫の目の前に立ち止まり、両の手で自らの胸を揉みしだきながら、淫らに腰をくねらせ先走りを垂らす剛直を揺らす。  先走りで湿った前垂れが肉棒へと吸い付くように張り付きながら、余った布をはためかせた。  緩慢に、しかし情熱的に、踊り子が閨の上で男へとするように、ナサスはその全身で夫を求め舞って見せる。  両の手を夫へと伸ばして、いつか彼にそうしてもらったのと同じ、触れるか触れないかの柔らかな手付きでその体を撫で、膨れ上がった股ぐらを指先でなぞり、手を離す。  そして自らの後頭部で両手首を交差させ背筋を弓なりに反らしながら体を回転させ、引き締まった尻を夫へと向けた。  幾度も夫を受け入れ、また自ら弄り回し、あまつさえ獣のそれをも受け入れ、今やぼってりと膨れ縦に割れた穴の上で、前垂れを留める金糸が横断している様を見せつけながら、ゆっくりと腰を落としてゆく。 「まったく、とんだ売女に育ったものだ……っ」 「っ、あ……ッ」  荒々しい言葉とともに、夫の手を腰へと回されて抱き寄せられる。待ち望んだ体温を感じ背筋を震わせながらも、体重をかけぬように気を張りつつ股ぐらの膨らみへと尻を密着させた。 「あ、貴方様の前たればこそに、ございます……っ」  悶え上ずった声で答えながら、期待に震える穴を夫の股ぐらへと擦り付け、待ちわびた熱と硬さを味わう。  期待だけで腰が抜けてしまいそうだった。とめどなく溢れ出す先走りが竿を伝って玉袋を濡らしていた。  鼓動が早鐘のように高鳴り、耐えきれぬほどに膨らんだ衝動に我を忘れてしまいそうだった。 「……ほう、この売女は夫に嘘を吐くか」 「あぁ……ッ!」  言い捨てるように背後から囁かれ、ピアスを吊り下げ震える乳首を指先で弾かれる。  そのままピアスへと指を引っ掛けて旨を引っ張られながら、浅ましい収縮を続ける肛門へと、布越しに肉棒を押し付けられる。 「畜生相手にも股を開き平伏する雌犬が、とんだ戯言を吐くものだ」 「も、もうしわけ、ございまぜぬ゛……っ! ひっ、あぎ、いぃ……ッ」  ちぎれるほどに強く引っ張られ変形した乳首から、痛みとも快感ともわからぬ狂おしい熱が迸って背筋が震える。  まるでその場で見ていたかのような口ぶりで問い詰められながら、自らの全てを見透かされているような感覚を味わうとともに、夫への屈従の想いが改めて胸の奥に刻まれてゆくようだった。 「ど、どうか……っ、この雌犬へと、魔羅狂いの浅ましき穴へと、罰を……っ!」  ナサスは悶え濁った声で叫ぶ。 「わ、我が全てが貴方様のものであると……っ、きっ、刻みづけてっ、ぐだざれぇ……っ!」  夫の手が体に触れるたび、夫の声が耳に届くたび、今や見せかけも同然となった英雄としての外面が剥がれ、熱情に渦巻く雌犬としての姿が露わとなってゆく。  止めることなどできない。止めたいとすら思わない。……いや、全てを曝け出し本当の己へと生まれ変わってゆく悦びを、ナサスは求めていた。 「全て、か」 「……ッ」  夫はナサスの叫んだ言葉を反芻するように呟きながら、その手のひらでナサスの下腹部を撫でる。  薄く光る紋様がそこへと浮かび上がり、蕩けるほどの熱を帯びて深くへと根付いてゆく。  もう片方の手が胸のピアスから離れ、腰をなぞられながら臀部へと向けて下降してゆく。 「は、はい……ッ、すべて、すべ、て……っ、貴方様のもの゛……っ!」  決して、他の誰にも与えてもらうことのできない極上の快感に悶え破顔しながら、ナサスはその想いを再び叫び期待に満ちて肛門を震わせた。  しかし、臀部にまでたどり着いた指がついぞそこに触れることはなく、焦らすように腰を撫で回されるばかりだった。  前垂れを乗せた肉棒が震えながら先走りを撒き散らしさらなる刺激を求めるが、夫の手が求める場所へと触れてくれない。  ナサスは夫のじれったい愛撫に震えながらぎこちなく首を動かし、蕩け切った呆け面を愛する相手へと向けた。 「……全てを捧げる想いで用意したものが、これか?」  男はため息混じりの呆れ声で、吐き捨てるようにそう言った。  ナサスの胴に絡む金糸を引きちぎりながら宝石をもぎ取ると、さもつまらなさそうな面持ちでそれを投げ捨てた。 「申し訳も、ありませぬ……っ。お気に召さぬとあらば、どのような逸品も用意いたします故、どうか……っ」  一も二もなく謝罪の言葉を叫びながら、ナサスは腰を揺すり、声を震わせ、涙ながらに懇願する。  これ以上焦らされれば本当に気が狂ってしまうかと思うほど、体が火照り疼いていた。  その堕ち切った英雄の姿を前に平静を装うことはできなかったようで、夫は目を細め舌なめずりをしながら、ナサスの首筋へと熱い吐息を吹きかける。 「お前のように出来た妻なら、命じるまでもなく用意して夫との再開を彩ってくれるだろうと思っていたが、まあ妻の粗相を無闇に責めるのも夫として器が小さいかもしれん」  そう話しながら、太く肥えた両腕で胴を抱きすくめられ、立ち上がるように力を込められる。  促されるままに体勢を変え、絹のシーツへと身を預けうつ伏せとなりながら、ナサスは期待に満ちた顔で夫へと振り返った。  もはや馴らすまでもなく潤滑に満ち、夫の魔羅を受け入れる準備を整えた穴がよく見えるよう股を開き、膝を曲げ、使い込まれた雄穴を開帳する。 「まったく、話の終わる前から盛り散らして、堪え性のない妻だ……っ」 「も、もうじわけ……っ、なんなりと、ばつを……!」  ナサスは掠れた声で叫びながら、夫の手で下される仕置を求めて尻を揺すり、ぽってりと膨れた肛門をヒクヒク動かして見せる。 「……っ」  尻の穴が狂おしいほどに熱く感じられた。夫の視線がそこへと釘付けとなったのが伝わってくる。  今や芋虫のように肥えた指先が肛門へと伸びてくる。丹念な前戯から始めようとする夫の気遣いに、他の誰にも抱くことのないだろう薔薇色の想いが胸を満たしていた。 「あ゛――ッ」  その指先が熟れた穴へと触れる。声を抑えることなどできるはずもなかった。求める相手を受け入れるために緩んだ穴が、濡れそぼった腸壁を覗かせながら夫の指を受け入れる。 「ぬ゛、あ……ッ、あぁ、ひぃ……ッ」  逃れようとしているかのように腰をくねらせながら、その実肛門は夫へと喰らいつくようにぴったりと吸い付いていた。  震える腸壁を撫でられるたびに、愛する相手と体を重ねなくては得られない極上の快感と多幸感が湧き上がって、これでさえまだ前戯でしか無いと言う事実が信じられないほどだった。  これだ。これがお前の全てだ。これがお前の産まれた意味だと、胸の内から何かが訴えかけてくる。  ……ああ、その通りだ。ナサスはそう自答した。愛する夫に抱かれるために、産まれてきた。この方と巡り合うための命だった。  夫が求めるなら何を捧げても良い。捧げさせてくれ。何もかも、何もかもを――。 「さあ、お前が次に私へと捧げるべきものが何か、分かっているだろう?」  指の動きが激しくなる。くちゅくちゅと水音が響いて、溢れ出す愛液が飛沫となって、酸っぱい芳香が立ち昇っていた。 「そ、それ、は……っ」  ……ああ、どうすれば夫に応えられる。快楽に蕩けた頭を必死に回転させながら、ナサスは自問し続ける。  今以上の富と地位だろうか。周りから不自然さに気取られぬよう慎重に事を進めるためには、今が精一杯だ。  自分が民を扇動して若く傲慢な現王を打倒し、夫を新たな王としこのシュリーマを捧げようか。……いやそれも根回しに時間がかかりすぎてしまう。一朝一夕というわけないはいかない。  まして国の統治などという雑務、刹那的な快楽を至上とする夫にとっては煩わしい労働でしかなかろうし、いくら自分が後ろ盾についたところで、夫では王国を維持できるような統治者の器たり得ない。  やはり即物的な欲を満たすためのものだろうか。何か、何か夫が求めてやまぬような、夫を満足させられるようなもの。一体、何を捧げれば、誰を捧げれば――。 「まったく察しの悪い。それでも賢者と讃えられた男か? この体たらくでは子種を預ける事が不安になってくるな……?」 「あ゛ッ、あ゛ァっ、もうじわげ、もうじわげっ、ございませぬ゛ぅ……!」  色に塗れ裏返った声で謝罪の言葉を叫びながら、英雄は自身の愚かさに戸惑いを抱いていた。  まるで、頭の中で答えへの道筋に壁が立ちはだかり、思い至ることを自身で拒んでいるかのようだった。  少し考えれば分かるはずの回答があるというのに、そこに辿り着けないもどかしさ。  ……分からない。どうなっている。何か、何かがおかしかった。 「ああ、もしやお前は――」  夫の指の動きが止まる。心底の失望を隠さぬ冷めた声を背に吐き捨てられる。  愛する相手の期待を裏切ってしまったことへの悔恨に身が竦み、全身の火照りが急速に冷めてゆく。  今すぐ夫の目の前で這いつくばり、許しを乞わなくては。己が徒に永き刻を生きたのみの至らぬ無能であることを白状し、これよりはただ夫への贖罪のためにのみ生きると誓わなければ。 「あ……ぁ……」  だが、体が動かない。何かが、夫へ向ける想いとは別の不快な感覚が脳裏を過っていた。  まるで夫への愛を自覚するより以前の、本当の己を知る前の、国の、民の狗でしかなかったつまらぬ男のまま夫の愛撫を受けていたときと同じ、ひりつくような危機感があった。  分からない。何が起きている。何が――。 「――夫の求めよりも、弟の方が大事だとでも?」 「……ッ」  頭の中で答えへの道筋を阻んでいた壁が取り払われる。  ……考えるまでもない当然の答えだった。この夫であれば、妻と同じくシュリーマの英雄と讃えられる超越者の屈強な体を、味わいたいと望むはずだ。  シュリーマの兵を束ねる歴戦の猛将たるレネクトンが、自らの腕の中で生娘のように喘ぐ様を見たいと願うに決まっている。  そうと分かれば、夫の不興を買ったことへの贖罪のためにも、その望みを叶えて差し上げなくてはならない。  ……運命の相手たる夫が求めているのだ。たかが同じ腹から産まれただけの男がどうなるかなど、天秤にかけるまでもない。 「粗野で、不出来な弟が……、貴方様を満足させられるとは思えませぬ……っ」 「……お前は、何を言っているんだ?」  命じるように脳裏へと浮かぶ思いとは別に喉の奥から漏れ出た言葉を聞いて、夫は失望以上に困惑をにじませた様子の呆け声でこちらへと問い返す。  その戸惑いも当然だった。ナサス自身ですら、なぜ夫の意向に逆らって弟を差し出すことを拒否しているのか分からない。  絶えず溢れ続ける夫への愛情と快楽への渇望、揺らぐことのない忠誠心のさらに下、意識すら出来ぬ奥底から思考を差し挟む間もなく言葉が漏れ出てくるようだった。 「め、妾を欲するのであれば、望みのままに用立てまする……っ。この館を満たすほどの、貴方様だけの酒池肉林でさえ――」 「……もういい、少し黙っていろ」  弁明の言葉を冷たく切り捨てると同時に、肥えた指が荒々しく肛門から引き抜かれた。  その一瞬の刺激ですら、冷え込んだ胸を溶かすかと思う程の快楽を伴い、甲高く喘ぎながら身悶えするのを止められなかった。 「心底から私の妻になったと思っていたが、今一度主のお力を借りる必要がありそうだ」 「な、なにを、おっしゃって……っ」  何を言っているのかが分からなかった。妻になる事を誓ったあの日から、この想いが由来だことなど一度とてない。  どのような文豪であろうと表現できぬほどに深く、強く、夫を愛している。 「ぁ……」  背後から覆いかぶさられ、愛しい体温と体重を背に感じながら、まるまると肥えた右手を頭の上に被せられた。  ……視界が霞む。心地よい幸福感が、胸に渦巻いていた全てを覆い隠し、ただ愛しい相手の手に全てを委ねる安息に全身が弛緩した。  夫の手を通して、夫が主と呼ぶ成れ果てから湧き出る邪な魔力が流れ込んでくる。  もはや隠しもせぬ、ふてぶてしいほどあからさまに注がれるそれを、拒むことすらできない。  月日をかけ丹念に染め上げられた英雄の体は、器として仕上がりつつあった。 「……さっきはぶっきら棒な物言いをして悪かった。私としたことが、愛する妻の最愛の相手でいたいという想いが先走って、少し嫉妬してしまったんだ」 「あ、ぁ……」  甘く心地よい声が胸の奥へと滑り込んでくる。それほどまでに愛してくれているのかと、妻としての悦びに目頭が熱くなるほどだった。 「それで、せっかくなのだから弟との思い出話でも聞かせてくれないか? どれだけ深く弟を愛しているか、その想いはどうやって芽生えたのか」  少し、ほんの少しだけ、後ろ髪を引かれるような不安があった。このまま全てを話していいのだろうかと、漠然とした危機感があった。 「あ、よ、よろこん、で……。わが、おっとよ……」  それでも、夫の願いを断ることなどできない。加えて、永き生を共に歩んできた弟との絆を、夫に肯定してもらえる事が嬉しくもあった。  ……ただ一人の肉親を愛し慮る事を許してくださるなんて、我が夫はなんと器の大きな男であろうか。そして己はその妻であるということが、たまらなく喜ばしい。  気づけば時を忘れて話し続けていた。他愛のない話から、歴史書にも残る戦場で共に戦った日々まで、時を遡りながら、兄として弟へと向ける想いの源流へと向けて。  やがて超越者としての二度目の生よりも以前、病に犯された体を弟に支えられ、共に超越の光に身を投じたあのとき、人としての能力を尽くしそれぞれの道に励んだ若き日の記憶、手のかかる弟に振り回され、兄であるからという理不尽な理由で割を食わされた幼き日の記憶。 「母……の、うでのなか、に、かよわく、ちいさな赤子が、いた……。われ、は、兄となった……。まもらねば、ならぬ、と、そう、おもったのだ……。どれほどのつきひが、ながれよう、と……。あにで、あれば……」  思い出すことも難しいはずの古い記憶が、色褪せぬ鮮明さで脳裏に浮かぶ。体を包むふわふわとした多幸感と合わせ、夢を見ているかのような気分だった。  愛を誓う夫に、己の始まりからの全てを知ってもらえたという感動に胸が震える。愛する者の腕の中で、己の全てを詳らかにされ、承認してもらう以上の幸せなどあるだろうか。  しかし、そんな想いを噛み締めながら心地よい酩酊感に身を任せるナサスへと向けられるのは、唸るような怒りの言葉だった。 「……あばずれめ」 「っ、……?」  予想すらしていなかった罵倒を浴びせられ、困惑から間の抜けた声を漏らすナサスへと、黄色い牙を剥く顎が寄せられる。  頭の上に乗せられた手のひらに、ぎりぎりと力が籠もってゆくのが伝わってきた。耳元へと吹きかかる息遣いは隠すことのない怒りに震え、どろどろとした黒い感情が肌を刺すように感じられた。 「なあ、お前は己の全てを捧げて夫を愛すると誓っただろう? それが、兄だからなどと下らん理由をほざいて他の男によそ見をする権利があると思うのか?」 「それ、は……っ」  言い返すことなど出来なかった。先程の言葉とは打って変わって手のひらを返すような夫の態度と言葉に違和感を覚えながら、心の奥底に秘されていた棘がついに表出し、最後の警告が脳裏に響くのを聞きながら、しかし抗うにはもう遅すぎた。 「あ゛……っ!?」  愛撫を中断され、だらしなく口を開いたまま次の刺激を待ちわびていた肛門へと、色褪せた獣毛に包まれた指が荒々しく挿入される。 「しかしまあ、裏切りを赦し、共に壁を乗り越えてこそ仲睦まじい夫婦か。……なぁ、そう思うだろう?」 「あ゛ッ、んっ、はぁ……っ、あ……っ」  抗うことの出来ない甘い刺激が背筋を駆け昇る。蕩けた頭で何を考えていようとも、気づけば夫の指使いに応えるように腰をくねらせ、穴を収縮させることに意識を傾けてしまう。  頭の片隅にうるさく鳴り響いた警告音も、さっきまで胸に蟠っていた違和感と不安も、充血した腸壁を指の腹で擦り上げられ、前立腺をぐりぐりと押し潰される狂おしい快感によって溶かされてゆく。 「さあ、今度こそ心の底から誓ってみせろ。全てを夫に捧げると、夫の愛に応えるためにのみ生きると」 「すべ、で、を……」  湯気を立てる雌穴からゆっくりと指を引き抜かれてゆく喪失感の中で、詳らかにされた心の最奥へと夫の言葉が滑り込んでくる。  思考を介するまでもなく、その言葉の疑いようもない正しさが実感となって胸を打ち、これほどの男に見初めていただけた誇らしさに涙が溢れそうだった。  ――さあ、言え。  胸の奥から声が聞こえる。偽りの誓いを立てるという裏切りを経てもなお、変わらぬ愛を向けてくれる慈悲深い夫に、今度こそ己のすべてを掛けて報いるべきだと、考えるまでもなく確信する。  それが正しい。疑うべきことなど何もない。なにを躊躇っている。ただ一言、それだけでいい。  快楽の中に溶け忘れかけた何かを覆い隠そうとするかのように、言葉が湧き上がって止まらない。うるさいほどだった。  もはや知性の欠片すらも失った呆け顔を涙と鼻水に塗れさせ、だらしなく開いた口から白痴のように涎を垂らしながら、喉までこみ上げた言葉を何かが堰き止めている。  ……それが、最後の抵抗だった。 「は――ッ!?」  熟しきった雄穴へと、待ちわびた熱と硬さを感じ、ナサスはくしゃくしゃになった顔から体液を撒き散らし、身震いをする。 「ちか、う……っ!」  初めてそれを受け入れた夜に、英雄はもう屈していた。  夫が腰を動かすまでもなく、自ら尻を突き上げて求めてやまぬ黒魔羅を飲み込みながら、ナサスは不様に濁った声で吠え立てるように叫ぶ。 「わが、すべて……っ、あなたさまの、もの……っ! いつわり、など、ありまぜぬぅ……!」  しこりのように蟠っていた何かが消えてゆく。己の最も深い場所から、夫への愛情が溢れて止まらない。  ああ、やはり正しかった。こうするべきだった。夫とは比べるべくもない些細な荷物を、手放すまいと駄々をこねていた己の愚かしさに恥じ入ってしまう。  壁が取り払われたかのように滑りを取り戻した頭で、ナサス自身が心からそう思い浮かべるようになっていた。  夢の中にいるような酩酊感も、胸の奥底に引っかかるものすらもない。 「ひっ、あぁ……ッ♥」  火照った雌穴を貫かれながら英雄の口から漏れ出るのは、産声だった。  下卑た男が思い描き欲した歪な理想像は、ついに英雄の全てを塗り潰し、成り代わる。  浅ましく淫蕩に酔いしれ刹那の快楽を追い求め己の築き上げた全てを裏切りながら、ただ一人のみを愛し全てを捧げる都合の良い情婦。  小難しい理屈を並べて己を納得させるまでもなく、そうであろうと演じる必要もなく、そうであることが今のナサスだった。 「ん゛ッ、じゅっ、ちゅる、ふぅ……っ♥」  体位を変え、正常位で口づけを交わし合いながら、夫の腰へと足を絡めて腰を密着させる。  ねちっこいピストンを受けて身悶えるたび、ピアスで飾り付けられた剛直がぶるんと震えながら先走りを振りまく。  下腹部に浮かぶ紋様がかつて無い熱を発しながらちりちりと肌に焼き付いて、二度と消えることのない烙印として刻まれていた。 「ど、どうか、御手、を……ッ♥」 「はっ、いまさら、随分と初心な……っ」  なにかが、今までの行為とは違った。恐怖さえ感じるほどの変化が己に訪れようとしている事を肌で感じながら、ナサスは夫の手のひらを握りしめる。  絡め合う指が蕩けるかと思うような一体感。興奮に震え息を荒げる夫の姿。息を合わせ腰を揺するたび脳天を貫く電流の如き快感。……まるで初夜のように、全てが真新しい感動とともに胸に刻まれてゆく。 「あ゛あぁ……っ♥♥」  ナサスの見開いた瞳に宿る青白い魔力の光が、邪な赤みを帯びるようになっていた。  ゾクゾクと背筋を染める甘い刺激に間の抜けた声を上げながら、腰を浮かせるように身を捩り、乳首から吊り下がるピアスをじゃらりと揺らし胸板を震わせる。  蕩けた臓腑をかき回す黒魔羅に前立腺を押し潰されながら、目前に迫るそのときを感じて胸の高鳴りが加速してゆく。 「あぁ、これが……っ」  予感は、確信へと変わりつつあった。一滴とてこぼすまいと、夫の腰へと深く尻を押し付けながら、肉に埋もれ短くなった首へと腕を回して抱き寄せ再度の口づけをねだった。  ざらついた舌に自らのそれを絡め、滴る唾液を啜りながら、肛門をきゅうと締め上げる。 「……ッ」  肥え太った矮躯が腕の中で小さく跳ね、熱い吐息が口腔へと流れ込んでくる。  根本まで挿入された黒魔羅が雄膣の中で打ち震え、あぁ――。  ――びゅるうううううううっ!! 「……っ♥……ッ♥♥」  熱く滾る生命の源が腹の奥へと流れ込んでくる。かつて排泄のための器官でしかなかったそこが、一体どのように作り変えられたかなど知る術もなかったが、そこには確かな実感があった。  とくん、とありえるはずもない脈動が臓腑に響く。あり得るはずのない禁忌が、狂気じみた妄執の果てに結実する。 「嗚呼……♥」  離れてゆく顎の間に銀の糸を伸ばしながら、ナサスはか細い掠れ声漏らし、薄紫に発光する瞳を細める。 「……我は今、母となりました……っ」 続く    


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