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塾帰りの柴犬少年が電柱に立ちションする話

 午後十時に差し掛かり、夕方ごろから突然降り始めた雪はいつの間にか降りやんでいた。街中のあらゆるところにうっすらと積もった雪のせいでいつもより僅かに明るい空の下、静まり返った住宅街を一人の柴犬の少年が自転車を引きながら歩いていた。 (うう、さむ……)  少年は上下に黒の学ランを着込み、首元にはぐるぐると灰色のマフラーを巻き、学校指定の黒いリュックサックを背負っていた。どれも少年の細く、やや低めの背丈とはつり合いが取れておらず、学ランなどはまだぶかぶかである。  彼の名前は柴井タケヒコ。今年の四月に中学生になったばかりの、あかるい小麦色と白の毛色を持つ柴犬獣人である。冬に差し掛かっていっそうふわふわとしだした毛並みと、ぴんと立った三角耳、くるりと反った巻きしっぽが特徴の、少々小柄ぎみな男の子だった。  塾の冬期講習の帰りであるタケヒコは、ふうふうと白い息を鼻から漏らしつつ、どうにも浮かない顔で足元の薄雪を慎重に踏みしめていた。往来を行く人たちによってすっかりと踏み固められた雪道夜冷えのせいで凍り付いており、ちょっとでも気を抜くと自転車ごと滑って転びそうになるのだ。 当然、いつものように自転車に乗って帰路を爆走するわけにもいかず、いつもの倍以上の時間をかけて、ようやく家まであと半分というところまできたのだが……。 (やばいやばいやばい……おしっこ……!)  タケヒコはかなり焦っていた。おしっこがしたくてたまらなかったのだ。  塾の授業が終わって外に出、凍った地面に何度かすっころびかけつつしばらく歩いたところで、タケヒコはだんだんと尿意を自覚し始めてきていた。冬の夜の外気で体が冷えたせいか、それとも塾の休憩時間中に飲んだお茶が原因か、とにかくタケヒコはかなりの量のおしっこを堪えていた。  いつもなら自転車で家まで爆走し、どうにか家のトイレに駆け込めるところだが、今日ばかりはそうもいかない。ゆっくりと、慎重に足元を踏みしめて歩かなければ、すぐに転んでしまう不安定な路面。それに加えてこの冬一番の寒さが襲うのだからたまったものではない。尿意はだんだんと膨れ始め、家を目前として、いよいよ抑え込めないところまで来ようとしていたのだ。  タケヒコは催してからずっと、この状況をどうにかする方法を考えていた。 一番いいのは、どこかのコンビニのトイレを貸してもらうことだった。ただ、普段使っている帰り道にはコンビニはない。ほかの大通りの方へ行けばあるかもしれないが、正直自信はない。もし見つけられなかった場合、普通に家に帰るよりより多くの時間がかかることから、この方法を使うのはちょっと危ない気がして、やめた。  二番目は、どこか公園とかの公衆トイレを使うことだった。夜の公園は想像する限りめちゃくちゃ不気味だし、そもそも臭くて暗い公衆トイレなんて本当は使いたくないけど、とりあえずおしっこはできる。ただ問題は、ここから五分ぐらい先の一番近くの公園まで、もう我慢が出来そうにないということだ。  そして三番目。お手軽だけど、一般的にはあんまりよくないとされる方法。前にこの方法を取ったのは、本当に小学生の最初のほうぐらいのことで、あの時は一緒に帰っていた友達に茶化されて物凄く恥ずかしかったのをタケヒコは覚えている。 (も、もれる……もう、いっそその辺で……!)  立ちション。つまり、トイレでも何でもないようなところでおしっこをする、男子の特権。いよいよ本当にチビりそうになって、タケヒコはそれをすることを決意した。本当はよくないし死ぬほど恥ずかしいけれど、それでも我慢できずにお漏らしをするよりはマシだ。  もじもじそわそわと身を揺らし、顔を赤らめ、切羽詰まった形相のタケヒコの視線の先には、これ見よがしに一本の電柱が立っていた。上部に備え付けられた古い電灯がちかちかと瞬き、まるでスポットライトのように柱の根元を照らしている。それがタケヒコにはまるで、ここで立ちションをしなさい――とでも言われているかのように見えたのだった。 (おしっこもうムリ……!)  慌てて自転車を止め――ようとして、勢い余って地面に自転車を倒してしまう。しかし、タケヒコの膀胱は悲鳴を上げており、自転車を引き起こしているような余裕はなかった。弾かれたように急いで電柱の傍に駆け寄り、たしたしと荒く足踏みをしながら学生ズボンのベルトを外し始める。 「んっ、ううっ、やばいぃ……!」  慌てているせいか指先がかじかむせいか、ベルトの金具を引き抜くのも中々上手くいかず、かちゃかちゃと金具の音だけが響く。本当に漏らしてしまうかもしれないという焦りと膀胱の切迫感が、タケヒコの指先をより一層焦らせる。 「しっこ、しっこ、しっこっ……!」  ベルトの先端を乱暴に引っ張って、どうにか金具をベルト穴から引き抜く。じわ、とトランクスに嫌な熱さが滲みはじめ、それは止まることなくじわじわと広がっていく。限界はもうすぐそこだった。 タケヒコは乱暴な手つきでズボンのホックを外し、ジッパーを下ろし、そのままの勢いで柄物のトランクスごとズボンを下ろした。寒さで縮こまったタケヒコのおちんちん――腹の白い毛並みと同じ色の皮にすっぽりと包まれた、控えめで子供っぽい包茎――が露になるや否や、ぶるりと体が震え、おちんちんがひくんと揺れて―― ――ぷしょおおおおおおおおおおおおお……!  ほとんど無色透明なおしっこが、間一髪露になったタケヒコのおちんちんから撒き散らされ始めた。ズボンに引っかかりそうになって、慌てておちんちんの根元に指を添える。我慢に我慢を重ねたおしっこは、ほとんどレーザービームのような勢いで電柱の根元に叩きつけられ、べちべちとはじけるような水音があたりに響きはじめる。 「はっ、はああああっ……………まに、あったぁ…………」  極寒の外気に晒されたおしっこから、もうもうと白い湯気が立ちのぼる。あわせてツンと濃いおしっこの臭いがあたりに広がり始めるが、ギリギリのところでおしっこを放ったタケヒコのあどけない顔立ちはとろんと蕩けるような至福の表情に緩み切って、空を見上げながらほうと白い息を吐くばかり。ようやく訪れた解放の時間を、堪能しているようだった。 「はー……きっもちいい……」 蛍光灯に照らされた、うっすらと雪の積もる地面のアスファルトに、見る見るうちにおしっこの水たまりが広がっていく。履きなれたスニーカーの底を自分のおしっこで濡らしていることもまるで意に留めず、タケヒコはじろじろと豪快な音を立てながら放尿を続けた。ふわふわの毛に包まれた三角耳がぴこぴことご機嫌に揺れ、巻きしっぽもぱたぱたと小刻みに揺れる。 しかし、ご機嫌気分もそう長くは続かない。膀胱がだんだん軽くなるにつれ、タケヒコは徐々に冷静さを取り戻し、自分の状況が結構恥ずかしいことになっていると気づき始めた。なにせ乱暴にズボンとパンツを下ろしたせいでほとんどお尻は丸出し、そうでなくても道端で立ちションをしているのだ。仮にもしも、誰かが通りかかったら、おしっこを我慢できずにこんなところでしてしまっていることがバレバレになってしまう。 (うう、早く終わってえ……)  おちんちんの先から吹き出すおしっこは、中々勢いが衰えそうもない。先ほどまで快感に染まり切っていたタケヒコの顔は、今度は羞恥心から真っ赤に染まりつつあった。しきりに背後を気にし、遠くで車の音が聞こえる度に気が気でない。  しかし幸いにも、タケヒコの危惧していた状況は訪れることがなかった。おしっこの水流が細まり、やがてしとしとと垂れるおしっこの雫をちんちんを振って払うところまで、奇跡的に誰にも見られることなくつつがなく所作を終える。 「うええ……ちょっとチビってるし……」  トランクスの中におちんちんをしまい込んだ瞬間、じっとりと湿るような不快な感覚がおちんちんを包む。ズボンにまで波及することはなかったが、柄物のトランクスには結構大きな黒い染みが広がっている。帰ったらすぐに風呂に入って、洗濯機のなるべく奥の方にパンツをねじ込んで隠ぺいしないと、家族にバレたらちょっと恥ずかしい。 (跡、目立つなあ)  結構な量を絞り出したこともあって、トイレの代わりになった灰色の電信柱の根元はぐっしょりと黒々しく濡れ果てており、足元のアスファルトには匂い立つ水たまりが盛大に広がっていた。誰がどう見ても、ここで誰かがおしっこをしたことは一目瞭然だ。  ズボンを引き上げ、乱暴に引き抜いたベルトをもとに戻し、タケヒコはそそくさとその場を立ち去ることにした。止めることもままならず地面に転がしたままの自転車を引き起こし、雪を払って再び引き始める。 (誰も通りませんように……)  タケヒコは一度だけ電柱を振り返って、すっかりと軽くなった足取りでふたたび帰路についた。 完


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