SamuKata
秋羽
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おくりぐるま/短編小説

・おくりぐるまのドールと奏の短編です。 ---------------------------------- 非戦闘員や民間人には攻撃しないと最初に戦時法を交わしたはずだ。 しかし、戦時下ではそれを守られることは少なく、誰構わず殺す者も居た。 「ぅ……」 その民家の壁や家具には銃弾や血痕の跡が残り ここで起きた事の悲惨さを物語っているようだった。 遠くから聞き慣れた発砲音が聞こえる。仲間のうちの 誰かが撃ったのだろうとぼんやり考えた。 目の前には人間の赤ん坊の死体が血の海に転がっている。 この子の両親は一体何処に行ってしまったのだろうか。 もう誰も居ない部屋の弾痕や血痕を見て推測するしか方法がない。 「こんな所に居たのか。もう帰還するよ」 「……!ドール…」 戦友のドールが民家のドアを潜って僕に声を掛けてきた。 いつもより声が淡々としている。 彼の軍服や赤毛には血痕がベッタリと染み付いていた。 ドールは目の前の惨状を目の当たりにしても何も言わなかった。 しかし、ドールが入ってきた瞬時、咄嗟に銃を向けてしまったことを 見逃さなかった彼は訝しげに僕に話しかけた。 「僕は君が慈悲深いのを知ってるよ」 目を細めながら臆する様子も無く冷静に僕を見つめる。 唐突に何を言い出すんだ。言葉を飲み込んで奥歯を噛み締める。 彼は続けた。 「…君は誰の味方?」 心臓が跳ね上がる。彼は昔から人間を毛嫌いしていた。 まして、それらの味方をしようならば軽蔑されるだけでは 済まされないだろう。僕は微笑みながら彼を見つめた。 「…勿論、君だよ。ドール」 僕の言葉にそうか、とドールは頷く。そして、 「嘘つきめ。赤ん坊側に一歩足を引いたのを見た。 君は僕の言葉に目を見開いて、毛をほんの僅かに逆立たせた。 ……嘘を吐くなら、もう少しまともに出来ないのか」 ドールは僕の心を見透かしながら言葉を投げ掛けた。 冷や水をぶっかけられたかのような感覚に襲われながら、 僕は俯いて床を見つめた。 沈黙が続く。 そうして暫くしたのち、はぁ、と小さく彼はため息を吐いた。 「……帰るよ。遅れると置いてかれる」 諦めたかのような声がして、僕はのろのろと頭を上げた。 さっきまでの緊迫した空気は消えて、いつも見る彼の表情がそこにあった。 「…うん」 生返事をして、僕とドールは建物から出て帰路につく。 結局の所、僕は彼の戦友だからという理由で 見逃してくれてるんだろうかとふと思った。 そうじゃなければ、今頃。 「…僕は君が慈悲深いのを知ってるよ」 ドールに言われたさっきの言葉を今度は彼の背中に向けて投げ掛けた。 ドールは怪訝そうな表情でこちらを見た。僕はほくそ笑む。 「お互い様だね」 「……やはりさっき刃物で心臓を一突きするべきだったかな」 ナイフの柄に手を伸ばしながらドールは言った。 僕は必死に謝って何とかそれを免れた。 「優しいのはいいけれど、いつか身を潰されるよ」 「君がそれを言うのか」 呆れたようなドールの言葉に、僕は頭をかいて苦笑いしながら もう小さくなってしまったさっきの民家を振り返る。 数秒だけ目を瞑り、心の中であの子の冥福を祈った。


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