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そっくりさんはメイドロボ

「あの……何か?」 大学進学。親元を離れて一人知らない土地で暮らす新生活。入学式の時から妙な視線を感じてはいたものの、学部のオリエンテーションで露骨に多くの人が私の顔をジッと見つめては隣同士で静かに笑ったり、「おいアレ」「うわっ、マジ?」などという会話が耳に飛び込んできたり、早々に私は心が折れそうになっていた。そんな変な格好してるんだろうか。普通……だと思うんだけど。髪も顔もちゃんとしてきたし、タグがつきっぱだとか下着が見えているなどということもない。ジロジロ見られてはコソコソ話されるのに耐えられなくなった私は、近くの人に尋ねた。私の顔に何かついているのか、と。 「あ~、いや……そうじゃなくて……」「いやー、ごめんね、うん……ふふっ」 私は初めて頭の血管が膨れ上がる感覚を鋭敏につかむことができた。 この苛立たしい反応の真相が明らかになったのは最初の飲み会の席でだった。見てくれのいい同期の女性が私の隣にやってきて、 「食べてる~? ケ・イ・ト」 と言うと、一同大爆笑だった。私を除いて。私はケイトじゃない。藤原芽衣だ。 「あの」 いい加減うんざりしたので少し強めの口調で文句を言いかけた時、彼女がスマホを目の前に差し出した。そこにはメイド服を着た女性の写真が映っていた。 (……え!?) 私はビックリした。そこに映っていたのは……私だったからだ。……何で!? いつ撮った……いや何でメイド服着てるの? 着たことないしそんなの。じゃ加工? なんで!? 「あはは、ごめんね~。でもそっくりでしょ」 「……?」 彼女は自己紹介と、入学以来連日続いた嘲笑の理由を話した。落葉さん曰く、その写真に映っているのは私ではなく、彼女の家のメイドロボなのだという。道理でメイド服。しかもよくみれば布より厚いテカった衣装なんだ。……なんで!? 私と同じ顔なの!? その後何人か寄って来て大所帯で知らん地元トークが開催された。必要なところだけまとめると、ケイトという私そっくりな顔をしたメイドロボが、昔から落葉さん家で使われていたらしい。その顔を同級生たちもよく見知っていたから、大学に「メイドロボのそっくりさん」が現れたことが面白くて、地元組の間で密かに鉄板のネタになっていたと……。なんて失礼な話だ。私の顔は私の顔で、決してあとからメイドロボに似せたわけじゃない。そっちが「私にそっくり」なんでしょうが! と叫びたかったけど、孤立したくなかったので流した。あーくそ、でも納得いかない。向こうからしてみりゃメイドロボのケイトの方を幼いころから見てるんだから「メイドロボにそっくりな奴いる」という感覚になるのはしょうがない……のかな。 腹立たしい話だったけど、ようやく皆から距離を置かれなくなった安心と真相解明の納得で、私は自分を抑え込み、 「え~、こんなことあるんだー」 とノリを合わせることにした。キレてもしょうがないし……ね。 それでもまだ気味の悪い注目は続いたけど、自分の格好や顔が悪かったわけじゃない、とわかると少しは落ち着いていられた。とはいえ、それも目の前で「アレ」を見るまでの儚い息継ぎでしかなかった。ちょっと遠くのスーパーに買い物に来た日のこと。通行人のひそひそ声。私を見ていた。キャンパス外でこうなったのは初めてだったので私は動揺した。そしてすぐ、離れた場所に「そいつ」を見つけてしまった。照明を照り返す光沢のある髪と、厚い素材のメイド服。嫌でも目立つ。嫌な予感がして急ぎ顔を見ようと前に回ると……「私」がいた。そこに。テカテカの樹脂の見たいなメイド服を全身にバッチリ着込んだ私が。ショートの黒髪も私と同じ。そっくりだ。 信じがたい光景に、私はゴクッと唾をのんだ。同時に、顔が火照るのを感じ取った。 (えっ……いや、嘘でしょ、やめてよ) 周りがザワザワし出したので、私は早歩きで退散した。そそくさと買い物を済まして、逃げるようにしてスーパーから立ち去った。帰り道、自分の顔をしたメイドロボがメイド服を着て堂々とスーパーを練り歩いている光景が頭から離れなかった。心臓がバクンバクンいってる。信じられないというか信じたくなかった。最悪。最悪さいあくサイアク……。私そっくりのメイドロボがいるということが何を意味しているのか、少し考えればわかりそうなことだったのに、ずっとわかってなかった。いや、考えないようにしていたのか。だって……だって、自分の顔であんな格好して表を堂々と歩いている存在がいるだなんて……あまりにも恥ずかしすぎるから……。 末代までの恥を勝手に振りまきながら暮らしてるメイドロボが同じ市に住んでいる。一度そのことに気づいてしまうと、おちおち大学内も堂々と歩けない。私は俯いて視線を落としながら歩いた。外に出たくない……嫌だ。しかも地元組は皆、昔からずっとあれを……メイドのコスプレして練り歩く私の姿を見ていたってこと……? いや私じゃないけど。うげっ。これってどこかに訴えたり抗議したりできないのかな……無理かな……。騒ぎになったら余計恥ずかしい思いするだけか……。 被害妄想は日に日に激しくなり、周囲みんなが私を馬鹿にしてる気がしてきた。実際してたかもしれない。たまにではあるが、突然見知らぬ人にギョッとする顔をされ、即、目を逸らされることが何度かあった。事情を知らない人があいつと私を見たのだとすれば……白昼堂々メイドのコスプレしてるヤバい女だと思われてもおかしくない。耐え難い風評被害だ。 (あれは私じゃないです。メイドロボが勝手に私の顔して……うぅ) 視線を感じると、反射的に脳内で言い訳をしてしまうようになってきた。卑屈な自分が嫌い。そもそもなんで、何にも悪くない私の方がこんな悩んで苦しまないといけないわけ!? あっちが悪いでしょ。でも、メイドロボは生体ロボットと言えどAIで動いてるだけだから、自分のそっくりさんがいるからといって何も悩んだりはしない。ていうか、評判を落とされるのは常に一方的に私の側だけだから仮に感情があっても悩む必要さえないのか。理不尽過ぎる……。 極めつけは、キャンパス内にケイトがやってきた時。落葉さんに忘れ物を届けに来たらしいのだが、当然のごとく格好の的となり、人だかりができた。偶然近くを通りかかった私にも人が寄って来て、 「うわマジじゃん」「そっくり」 などと言ってくる始末。メイド服を着た私がキャンパス内にいて、同期の落葉さんに頭を下げて「お嬢様」呼びしてるのを見た時は顔に血が集中するのを避けられなかった。 「あっ、藤原さーん、こっちこっち」 「……」 「ほら、これがケイト。……ぷぷぷ、マジ似てる」 とうとう私は、皆の前でケイトと並べられてしまった。私の顔した女がメイド服着て大学内を歩いているというだけでも恥辱なのに、肌や髪の艶が私より綺麗だったことに衝撃を受けてしまった。負けている。私が。同じ顔を……向こうの方が綺麗に保っている。可愛くしてる……。 メイドロボの肌が曇りなく瑞々しいなんて、そういう処理されてるんだから冷静に考えれば当然だし、そこに当人の努力など存在するはずもないのに、私は本能的なショックと敗北感をどうしても隠し切れなかった。 「あはは……おもしろ……」 精一杯それだけ言った。他にも皆の話に合わせて何か言ったような気がするけど、覚えていない。負けた。メイドロボに。私の顔なのに、ロボットの方が使いこなしている。その事実がいつまでも頭を離れず、数日は抗議の内容も友達の会話も耳に入ってこなかった。しかも、いつの間にか私、藤原芽衣がメイド服で大学に来てたという噂まで発生し、からかわれる始末。 ケイト以外のメイドロボを町中で見かけても、私は逃げずにいられなかった。このままじゃダメだ。やりたくなかったけどしょうがない。私は髪を染めて、差別化を図ることにした。最初からこうすればよかったかもしれないけど、私から私を変えるのはまるであいつに屈服するようで……私の顔をあいつのモノだと認めて譲渡するかのような気がして、どうしても踏み切れなかったのだ。でももう限界だった。 金髪に染めて大学に通うようになると、周囲のヒソヒソは目に見えて減少した。黒髪のメイドロボットを駅前で見かけても心穏やかでいられた。あれは「私」じゃない。わかるようになった。一目で。 だいぶ精神の安定を取り戻しつつあったころ、ケイトが……正確には落葉がやらかした。ケイトがいつの間にか金髪に染められていたのだ。金髪で大学構内に再び姿を現したケイトは、私に向かって会釈した。ピッと伸びた良い姿勢で、体幹を揺らさずに。その髪色はまるでアニメキャラみたいな鮮やかな黄色で、綺麗だった。私の金髪なんかより、ずっと。 「あはは。またお揃いだー」 なに……? あんた、何のつもり? 面白いと思ってやってるの? 落葉曰く、私のことが可哀相だから被らないように金髪に変えてあげたら偶然被ったらしい。マジ? マジで言ってる? ロボットの整備はやると決めてから完了して戻ってくるまでタイムラグあるだろうから本当かもしれない。でも、彼女のヘラヘラした笑顔に、私は悪意を見出した。それが本当に彼女の内に潜んでいたものなのか、私が被害妄想で勝手に感じただけなのかはわからない。でも、私は落葉のことが嫌いになった。 じゃあ私が黒に戻したら一件落着か……というと、意地がある。見比べられてすぐ黒髪に戻したら、完全に被りを意識してるからやったことになる。誰もがそう解釈する。私が負けを認めたみたいになるのが嫌だった。黒に戻すにしろ、少し間を置かないとダメだ。あくまで私が自分の意志で、あいつら関係なく独立で黒に戻しただけですよって風じゃなきゃ嫌。 私は自分でもアホだなと思うような意地で、金髪を続けた。ただ、多少の抵抗として、髪を伸ばすことにした。長髪は面倒だからずっとショートでいたんだけど、しょうがない。メイドロボの髪は工場で改造しない限り伸びない。伸ばせば黒に戻しても私とあいつは違う顔になる。いや顔自体は同じままだけどさ。見た目が。 そうこうして他人のメイドロボと張り合っている間に前期が終わり、夏が来た。私は大いに安心した。これで解放される。私の後を追っかけてくるメイドロボから。さっさと帰省して、私は久しぶりに自分が自分一人しかいない世界を満喫した。二か月の間に髪も充分伸びてきたし、黒に戻してもいいか。と思った矢先、私はケイトが黒髪に戻っていることに気づいた。皆が遊んでる写真がSNSにもグループラインにも貼られているが、その後ろの方や隅っこに、たまーにメイド服を着た女性が映りこんでいる。私だった。いやケイトだ。最初と同じ黒髪ショート。 (……っ) 肩まで伸ばした程度だと差別化は弱いだろうか……。ていうか私が髪色戻してくると踏んでの嫌がらせ? 変える必要ないよね? 私の疑いすぎで、金髪被っちゃったから配慮して戻したのかな……。 ともあれ、私は意思を曲げた。黒には戻さない。金髪を維持して大学に戻ることに決めた。……なんか向こうに主導権や決定権あるみたいでヤだなぁ。道義的にはあっちが悪いんだからあっちがもっと悩むべきでしょと憤る。でも向こうは被ってようが困らない。その非対称性が心底腹立たしいんだ。 後期が始まると、髪を伸ばして金髪を維持した私は「メイドロボのそっくりさん」として扱われることはほとんどなくなった。見た目変わったし、皆流石に飽きたのだろう。ケイトも金髪にUターンとかしてこなかったし、一安心。……でも、もうこの地域では本当の私の姿はケイトのものになっちゃったのかなと思うと、胸の奥がギュルギュルする。なんで私が自分を捨てないといけなかったんだろう。逆じゃない? 世の中無理ばっか。 残暑もすっかり過ぎ去り、秋も肌に馴染んだ頃、私は落葉に呼び出された。学祭の出し物を手伝ってほしいと。何だろう……。サークル違うのに。 落葉さんが所属しているサークルは地元の郷土史を調べているらしく、他と比べるとひっそりしている。人も少なく、手が足りないのだそう。部屋に行くと落葉と共にケイトも待っていて、私はちょっとムッとした。でも黒髪と金髪で分かれた今、前期ほどには騒がれない。それで私には……。 「じゃーん! これ着て、ケイトと一緒に呼び込みして欲しいんだー」 落葉さんは布よりも厚くゴムより薄い光沢のあるメイド服を手にして、そう言った。 「はああぁぁぁ!?」 私は叫んだ。そして、拒否した。冗談じゃない。なんで私がメイド服……っていうか、それメイドロボ用の服だよね!? 着て呼び込み……それもよりにもよって、ケイトと並んで!? 絶対ヤダ。 「ほらー二人ともそっくりじゃん、絶対バズるって」 「バズったら困るの!」 メイドロボとそのそっくりさんがコンビだと面白いだろうという、たったそれだけの思いつき。馬鹿にしてんの? 帰ろうとした矢先、 「バイト代出すから!」 私は足を止めた。正直言うと、私の懐事情は良くはない。プライドを台所事情が抑えつけた。 「……どれぐらい?」 「……ん。これでどう?」 (はぁ……) 当日、私は部屋の中でため息をついた。まさか金欠とはいえ引き受けてしまうとは……あんなに毛嫌いしていたメイドロボと同じ服っていうか……そのものの服を。人前で。 しかし引き受けてしまったものは仕方ない。これはあくまでお祭りの呼び込みだから大丈夫……「メイドのコスプレして大学に来てる頭おかしい女」にはならない。私はそう自分に言い聞かせながら、下着まで脱ぎ捨て全裸になった。落葉さん、何故かメイドロボ用の下着まで持ってきたから着ることになってしまった。別にそこまでやる必要ないと思うんだけどなあ……。上から着るだけでさ。まあバイト代高いから文句は言えない。私は内心愚痴りつつも、樹脂ともゴムともつかない不思議な素材のレオタードに袖を通した。すると、さっきまでの嫌悪感は一瞬で消え失せた。 (すごい) 内側はとても滑らかで肌触りが良く、とても着心地が良かったのだ。ソフビ人形の胴体パーツみたいだった白いレオタードは伸縮性が高く、スルスルと着ることができた。 (おお……) 着込んでしまうと、まるでその時を見計らっていたかのように、純白のレオタードはキュッと締まる。まるで私の肌に齧り付くかのように、ピチッと一ミリの空白も生まずしっかりと密着してくる。それでいて苦しくはなく、とても心地よい癖になる圧迫感があった。変な気持ちになりそう。しかも腰を捻っても一切突っ張ることがない。まるで私の皮膚そのものになったかのように、スムーズに伸縮して追従するのだ。どれだけ胴体を動かしても皺一つ生まない。すごいなあ。 何だかノッてきちゃった私は、続けて白いニーハイソックスも履いてみた。レオタードと同じ素材らしく、これも紙一枚差し込めないほどに私の両脚に沿うように張り付き、滑らかな肌触りをこれでもかというほど押し付けてきた。 (うわっ、やばっ) 一生着てられるこれ。ていうか脱ぎたくない……かも。何でメイドロボの服なのにこんなに着心地いいわけ!? これ人用の服にも使えばいいのに。私は肘まである長い白手袋も急いで嵌めた。期待通りの密着感。意識的に私の身体を封じようとしているかのように皺一つ作らず肌にくっつく。ひゃー、すご。指まで全部白い樹脂のような質感に置き換えられた私の両手は、まるでフィギュアのお手手みたいだった。指を曲げても手袋は問題なく追従。突っ張らない。そして皺もできず、常に肌と手袋の間に空間は生まれない。どうやってるんだろう。 とはいえいくら着心地が良くても見た目がね。太腿と上腕を残して全身白いフィギュアみたいになった自分の姿は、かなり恥ずかしかった。のですぐメイド服を着た。これで少しは格好がつく。メイド服もメイド服で、肌と直接接触はしないものの、同じような心地よい圧迫感を生みながら私の身体のラインにピタリ沿いながら密着した。 (ん……でもデザイン恥ずかしいな……) スマホのインカメラで自分を確認すると、そこには金髪ミディアムのメイドと化した自分がいた。しかも、メイド服はミニスカで、フリルとリボンが多いアニメチックな代物。パニエもないのにスカートが膨らみを維持している。こんな格好で人前に出るのかぁ……。しんど。 着替えが終わったことを告げると、皆が部屋に入ってきた。ケイトも。私はショックを受けた。内心結構イケるじゃんとか思ってたのが死ぬほど恥ずかしい。リボンやフリルの少ない、落ち着いたメイド服に身を包んだ黒髪のケイトは、今の私よりいたって常識的な存在に見えた。並ぶとますますその差は顕著だった。金髪とミニスカが相まって、まるで私の方が非現実的な存在に、コスプレ女に見えてしまう。顔が同じだから尚更、まともバージョンとそうじゃないバージョンみたいで対照的だった。 「藤原さんかわいいー」「似合ってるー」 「あ、はは……」 私も普通のメイド服が良かった。ケイトが着てるような奴。ていうかなんでロボットがまともな格好して、人間の私がアニメみたいな方着ないといけないわけ……。メイドロボは服が体と一体化してて脱がせないからしょうがないんだけどさ。 (……ん? じゃあこの服どっから……) メイド服の服だけって普通の人手に入るっけ? 私は今更ながら落葉さんに訊いてみたが、ネットで買ったとだけいわれ、それ以上の情報は開示してくれなかった。売ってるもんなのかな。工場の人が売っちゃいけないやつ売ってるパターンだったりしない? ちょっと心配……。 「いらっしゃーい、こちら郷土史研究会ですー」 呼び込みは流石に恥ずかしかったが、屋内なのがせめてもの救いだった。そして、着心地の良さが私の羞恥心をほどほどに相殺してくる。恥ずかしいのにもっと着ていたいと思っちゃう。手足を動かしレオタードやニーソが肌にツルツルした心地よい感触を提供するたび、そう思わされる。脱ぎたくない。てか欲しい。室内で、家で着るだけなら……。寝間着や部屋着にこれ、欲しい。 ただ、ケイトと横に並ぶと流石に劣等感が刺激される。私の方がアニメっぽい格好なことと、肌の差だ。私だってまだギリ十代なのに、メイドロボの肌は人形のように綺麗だった。一切の染みも皺も黒子もなく、肌色一色の均質なお肌。人形だから当たり前といえばそうだけど。今は同じ土俵で並んじゃってるわけで……。私がとてつもなく汚い肌を持っているかのように感じてしまい、どうにもいたたまれなかった。 来た人は全員、メイドロボとそっくりさんのコンビという名目で私たちを見るから、並んでほしいと来る人来る人に言われる。写真も動画も撮られるし、もー恥ずかしくてダメ。晒し者みたい。 「どっちがメイドロボだと思いますか~?」 「う~ん、こっち!」 落葉さんの問いに、大体のお客が私をさす。 「ざんね~ん。私が人間でーす」 「あちゃー、騙されたか」 騙してませんが。……ひょっとして格好のこと言ってる? 確かに私が金髪でケイトが黒髪で、メイド服も私がコスプレ風味だけどさあ……。立ち居振る舞い見てたらわからない? と思いつつ、ケイトの「私」風の振る舞いのうまさに舌を巻く。そっちの方が面白いからと、落葉さんはケイトに私のように、つまり人間っぽく振る舞うよう指示したのだ。 「いらっしゃいませー。郷土史研究会にようこそー」 ロボットとは思えないにこやかな笑みに、私はいたたまれなさとすごいと思う気持ち、自分が自分勝負に負けているような敗北感、三つの感情を同時に抱いた。「私」がアイドル気取りかと思うような媚びをしているのを目の前で見ているのが辛いし、私よりあっちの私の方が可愛く振る舞えているのも悔しい。そして、ロボットなのにああも人間らしく振る舞える学習の進み具合に感心する。十年以上使ってる個体だもんね……。 そんなこんなしているうちに、初日が終わった。私は部屋でメイド服を脱ぐ際、ちょっと窮屈で脱ぐのに苦労した。肌に張り付いて中々とれないし、何故か着た時より伸縮しない。ケイトにも手伝ってもらって何とか全部脱いだ時はだいぶ疲れてしまった。どういう仕組みなのか知らないけど、まあ人用の服じゃないんだなと思い知らされる。メイドロボの服は体とくっつけしまうから、「脱ぐ」ということは想定外なのだろう。 二日目。今日も私はメイドロボに扮した。昨日の様子が広まったらしく、評判を呼んだので緊急登板を請われた。今日は見て回るつもりだったんだけどなあ。でもバイト代の前に私は屈した。それに、またあの異常な着心地の良さを体感したいという欲望もあった。普通の服じゃ満足できなくなるかも。でも脱ぐの大変なんだよね。着るのはスムーズなのに。 「どっちでしょ~?」 「金髪!」「あっち!」 「ぶっぶー、私が藤原でしたー。ではごゆっくりどうぞ」 良くも悪くも昨日より吹っ切れて、今日は肩の力を抜いてメイドロボごっこも演じられた。ケイトは人間を模していても体幹にブレがなさすぎるのに私は気づいたので、ちょっと真似してみたのだ。……できてないと思うけど、大体の人はそれで騙せるらしい。昨日より誤答が増えた。ケイトも私の様子を昨日学習したのか、より私っぽくなっている。何だか入れ替わってしまったみたいだ。 やっぱ見て回りたいということで、私は昼過ぎに止めることにして空いてる部屋を借りて着替えようとした。が、脱げない。うーん、肌に張り付いて……どうにもこうにも。服を引っ張ると皮膚も引っ張られて痛い。……なんか変だ。昨日より貼りつきが激しい気がする。手袋を脱ごうにも、髪の毛一本入る隙間も生じないぐらい、どれだけ引っ張っても一ミリもずれないし浮かない。皮膚から離れない。 (あー、どうしよう……) ニーソも同じように脚にピチッと張り付いたまま、頑なに動かない。メイド服でさえ、レオタードの上からピッチリと胴体に這うように張り付いたままピクリともしない。昨日より酷いや。ケイトはまだ呼び込みしてるし……誰かヘルプ呼ぼうかな。 メイドのまま部屋を出た時、「あっ」と声がした。知らない男性が廊下を通り過ぎようとしたところで私を見て止まっている。彼はダンボール箱みたいに大きなサイコロを抱えていた。 「ちょうどよかった。ケイトさん、これ手品サークルに届けてくれない? 401講義室」 男は大きなサイコロを私に差し出した。どうやら私をケイトだと思ったらしい。失敬なと思ったが、この格好じゃ怒る方が筋違いかな……。 (すみません、私はケイトじゃなくて藤原です、人間です) と説明しようとした瞬間、思わぬことが起きた。 「かしこまりました」 急に背筋がピッと伸び、私はスッと白く染まったままの両腕を差し出し、サイコロを受け取ったのだ。 (えっ!?) 突然起きた摩訶不思議現象に、私は対応が遅れた。男はそのままお礼も言わず立ち去り、私の身体は動かなかった。次の瞬間、身体がサイコロを抱えて勝手に歩き出す。 (えっ、えっ、ちょ、ええ!?) 困惑……いやパニック寸前だった。わけがわからない。身体が自分の意志を差し置いて勝手に動くなんて。 (ま、待って……) 私は自分を止めようとした。しかし止まらなかった。足が言うことをきかない。いや足だけじゃない。手も、腰も、首も……そして声も出せないことに気づく。 (どうなってるのっ) 身体が……勝手に。郷土史の部屋から離れていく。すれ違う人皆が私を見てる。ミニスカメイドと化してお使いさせられてる私の姿を。 (ちょちょちょ、見ないで―) 今、私がやっているのは呼び込みじゃない。じゃ……何? 単なる……コスプレ? 大学で? メイドの? (いやー、いやー、待ってー、誰か……) 声が出せない。一切表情筋を動かせず温和な微笑みを顔に張り付けたまま、綺麗な歩き方で私は自分を堂々見世物にしながら、四階の講義室へ足を運ばされた。 「失礼します。お届け物です」 「あ、きたー」「えー誰のメイド?」「落葉さんだよ」「俺見たことあるー」 講義室にいた手品サークルの面々に巨大サイコロを渡すと、私はスカートの裾を軽くつまんでお辞儀した。 「失礼します」 (って、えぇー! ちょっとぉ!) 顔が耳まで赤くなる。私何してんの? これじゃあもう完っ全に、メイドロボごっこしてる痛い人じゃん! やめてよ! ていうか本当になんなの!? どうして体が……動かせな……。 部屋を出ると、急に解放された。身体がまた自分の意志で動かせるようになったのだ。 (……あれ?) しかし周りからジロジロ見られるので、慌てて立ち去った。 「落葉さーん」 メイド服のまま戻ってきたので、気に入ったのかとからかわれる。私は何となく嫌な予感がしたというか、なるべく人に知られたくなかったので落葉さんだけ呼び出した。 「どしたの? その服気に入っちゃった?」 「いや、そうじゃなくて……」 私は一人じゃ服が脱げないから手伝ってほしいことと、さっき起きたこと……急に体が勝手に動き出して強制的にお使いさせられたことを話した。 「えー何それ、うける」 「本当なの。信じられないかもしれないけど、身体が」 「じゃ、気をつけして」 「かしこまりました」(えっ!?) また不意に体が何者かに奪われ、私は強制的に気をつけの姿勢をとらされた挙句、そのまま体を動かせなくなってしまった。まるで魔法で石にされたみたいに、指一本動かせない。その場で震えることさえできず、マネキンのように突っ立っていることしかできなかった。 (落葉さんっ! なんで……じゃなくて、コレ! コレなの! さっきも……) 「マジ?」 落葉さんは動けなくなった私の周りをグルグル回り、つついたり軽く押したりして私が動きたくても動けないらしいことを確かめた。 「あはは、完全にメイドロボじゃん、やったね」 (やってないっ!) 張り倒してやろうか。そもそもあなたのバカみたいな提案に乗ってこの服を……待って。メイドロボの服って脱げないんだよね。身体と一体化してるから……まさか。 (早くっ、早くこれ脱がして! お願い!) 喋れないので心の中で叫んだ。冷や汗が流れる。もしかしたらひょっとしたら……思い過ごしだといいけど。 落葉さんは中々命令解除してくれない。私はマネキン化したまま焦ることしかできなかった。落葉さんは手袋を軽く引っ張ったりニーソをずらそうともしたが、まるで歯が立たない。 (だから言ったでしょ、脱げないって。それにもしかしたらこれ、現在進行形で……) メイドロボには自動修復機能があった気がする。もし、その機能の主体が服の方にあるんだとしたら……。私の皮膚は、「修復」されているのかもしれない。独りでに動く理由ももしかしたら……。 「しょうがないねー。じゃ、今日は着たままで。返さなくてもいいよ」 「かしこまりました」 落葉さんに向かって自動的に首を垂れる屈辱。それでやっと体が自由になった。 「もー。何するの」 私は改めてメイド服を脱ごうとした。が……手が動かなかった。固まっているわけじゃない。何かに身体を乗っ取られているわけでもない。手足は自由に動く。しかし……。 (あ、あれ……) 脱ごうとすると、何故かその指示だけ手が拒む。それ以外は自由なのに。もしかして、さっきの落葉さんの言うことを……きかされてるの!? (な、なんでそんな……メイドロボじゃないっ!) 私は出ていこうとする落葉さんを呼び止め、脱ごうとする行為ができなくされていることを伝えた。そして、ひょっとしたら自分はこの服に「修復」されてメイドロボ化しつつあるかもしれないことも。 「あ、やっぱそうなんだ」 「やっぱ……って、こうなることわかってたの!?」 「いやー、人間でもそうなるとは思ってなかったー。ごめん」 「ごめんで済まないでしょ! 何とかしてよ!」 「んもーそー怒んないでよ。悪かったって。そうだなー……んーと」 落葉さんはしばらく考え込んでから言った。 「じゃ、ウチ来なよ。ウチでメイドロボとして使ったげる」 「……は!?」 私は目を見開いて驚愕した。何を……何を言っているのこの女? 病院連れてくとかメーカーに連絡するとかじゃなくて……自分の失態が大ごとになるのが嫌? いや違う。あのアホ面……マジで何も考えてない。普通にマジで解決策のつもりでそう言った。多分、深く考えてない。軽く言ってる。 しかし、軽いノリで発せられたその言葉が、全てをあっけなく終わらせてしまった。 「かしこまりました」 私はスカートの裾を軽くつまんでお辞儀させられ、自由を奪われた。 「所有者登録を行いますか?」 「ぶはっ、マジでロボットじゃん、やば」 落葉さんは馬鹿にしたような口調でそう言うと、慣れた感じで次々設定を口頭で進めていった。 「所有者わたし。あなたの名前はメイで」 「かしこまりました。以後、メイとお呼びください」 (ちょっとぉ! 私はメイドロボじゃないよ! 勝手に何してんの!?) 「落葉さーん、話終わったー?」 「終わったー」 (終わってない!) 「じゃ、メイはちょっと家帰ってて」 「かしこまりました、お嬢様」 (あっ、馬鹿!) 私はお辞儀して、一人部屋に取り残されるのを待った。落葉さんたちが出ていったあとも体は自由にならず、勝手に歩き出して部屋を出て行ってしまう。向かう先は郷土史研究会の部屋でもなく、病院でも警察でもない。おそらく……落葉さんの家。 (ま、待って。ちょっと、嘘でしょ……) 校舎から出て屋外へ。私はミニスカメイドのコスプレをしたまま外へ出てしまった。止められない。歩みが止まらない。顔をそむけることも、視線を下に向けることも。注目を一身に背負いながら、私は柔和な笑みを凍り付かせたまま、大学構内からさえ飛び出そうとしていた。 (やめてっ、お願い、止まって!) 願いむなしく、私はとうとう大学から踏み出してしまった。メイドのままで。この瞬間、私は金髪ミニスカメイドのコスプレイヤーと化してしまった。どんどん大学から離れていく。メイド服着ててもおかしくなかった学祭空間から。日常の、常識が支配している町中へ……。 (うっ……うっ、ま、待って……私、違くて……体が勝手に動くの、止められないの) 脳内で必死にそうわめきながら、私はまっすぐ前を見据えて歩き続けた。最悪だった。私……とうとうメイド服で出歩く頭おかしい人になっちゃった。されちゃった……落葉さんのせいで。 せめて……せめて周囲の人たち全員が私をケイトだと思ってくれますように。いやそれでも私の顔した女がメイド服で出歩いている事実は変わらな……いや、それは前からか……。あいつ、こんな恥を振りまき続けてたの!? いや待った。私だと、藤原芽衣だと思ってもらう方が助かるかも。そうじゃん、誰かに気づいてもらって警察とか通報してもらえた方が……死ぬほど恥ずかしいことになるけど、このまま……あいつのメイドロボにされてしまうよりは……。 しかし、誰一人私を病院や警察へ連れて行こうとする人はいなかった。空気を読まないコスプレイヤーに顔をしかめる人さえ、ゼロだった。つまり……私は、今の私の存在は……この町にとって普通のことなのだ。この顔の女がメイド服で歩いていること……は……。 (そ……そんな) 私は絶望しながら歩き続けた。知らないはずなのに自信をもって歩き続ける目的地目指して。 落葉さんは地元出身なのに、一丁前に一人暮らしさせてもらっているらしく、私の最期の望みは砕け散った。流石に家の人が気づいて助けてくれるだろうと。高級そうなマンションの上階にエレベーターで移動する。こんなところをミニスカメイドで闊歩させれるのが場違いすぎて一層恥ずかしかった。 落葉さんの家らしき部屋につくと、認証が通って勝手にドアのロックが外れた。私、もうあの人の所有するメイドロボになってるの!? 手続き早すぎる。アホなのにこんな時だけあいつ……! 整然とした落ち着く広い何部屋もある空間に、私はお邪魔した。いいとこ住んでるなあ……。私の安アパートとはえらい違いだ。 メイドロボ用の充電台がリビングに一機置いてある。ケイトのものだろう白い円形の台座。そこに向かって私は歩いていく。 (待って。私、メイドロボじゃな……あれ?) てっきりそこに乗せられるのかと思いきや、私の身体はその隣の、何もないスペースに立ってリビングの方を向きなおした。 一瞬、何が何だかわからなかったが、これが「ケイトの充電台」だからだと察すると、怒りと屈辱が湧きおこった。メイドロボの充電台に乗りたかったわけじゃないけど……これじゃまるで私がケイト以下みたいじゃない! 酷いよ! 私は人間なのに……なんでこんな扱いを……されなくちゃいけないの。 (んっ……動け、動いてぇ……) スカートの前で両手を重ね、背筋を伸ばしてマネキンのように固まったまま、私は何もできなくなってしまった。落葉さんの所有するメイドロボになってしまったのだ。信じられなかった。人間がメイドロボになっちゃうことがあるなんて……。しかも、こんな馬鹿げた経緯で。悪いやつに攫われて改造されたとかの方が正直納得はいったかもしれない。こんなの絶対、死んでも受け入れられない。よりにもよってあの女の……しかもあいつのアホのせいで……。 落葉とケイトが戻ってきたのは深夜だった。大層お楽しみだったようだ。私から人権を奪ってマネキン人形にしておいて。 「ごめんねー。色々買ってきてあげたから、許してね」 彼女はケイトが抱えていた荷物を開けさせ、中から白い充電台を取り出し、設置を始めた。……冗談でしょ。もしかして貴方、本気で私を……これからメイドロボとして使うつもりなの!? (馬鹿ぁ! 助けてよ、私をメイドロボにしないで!) 病院とかメーカーとかに連絡するという発想はついぞ浮かばなかったらしく、私は新品の台座に上らされた挙句、お礼まで言わされる始末。 「いいよお礼なんて。私のせいでもあるしねー」 (そうよあなたのせいよっ! ……じゃなくて誰かどっかに通報してよ! 責任の取り方が……おかしいのっ……!) しかし私はもう一言も文句を言うことはおろか、嫌がっているという意思すら示せない。微笑んだまま充電台の上でしおらしくしていることしか。 そして、隣の充電台にケイトが並ぶ。これがまたたまらなく不快で衝撃だった。私が本当に、メイドロボとして並べられているのだと実感させられてしまう。同じ顔のメイドロボ二体。片方はシックなメイド服の黒髪ショート。もう片方は金髪ミディアムにリボンいっぱいのミニスカ。 (……なんでぇっ! なんで私がこっちなのぉっ!) 心の中で叫んだ。どうして人間のはずの私が、元々メイドロボだったケイトより非常識な格好しないといけないの。せめて逆だったら……いやそれで何も解決しないけど! (元に戻して、お願い、助けて……) 「あ、そうそう、明日からの大学なんだけどね、その格好のままじゃいけないでしょ」 (だからぁ、私を解放してくれれば……) 「だからね、代わりにケイトを行かせたらどうかなって考えたの」 (は?) 「今日のケイト見たでしょ? まるで藤原さんみたいだったでしょ。あれなら替え玉イケるって思わない?」 (……あのさ、ちょっと) 「だから安心してねメイ。ちゃんと私が責任とるから」 (ちょっとぉー!) 「それじゃ、家事の方はよろしくねー」 「いってらっしゃいませ、お嬢様」 (待って! 行かないでよ、そんな格好で!) 私は玄関で落葉とケイトを見送った。彼女の馬鹿げた提案に、私は一切異議を唱えることも、ムッとしてみせることさえできない。何もできず、自分の評判が地に落ちるであろう悪夢を自ら送り出させられるだけだった。 落葉の奴はケイトに何も着せずに出かけていった。つまり、私は……藤原芽衣はこれからメイド服で大学に行ってメイド姿で講義に出席するのだ。最悪だ。一番恐れていたことがとうとう現実に……。しかもその間私は家で家事をさせられる。あいつの、落葉のメイドロボとして。腸が煮えくり返る思いだった。大体、ケイトをメイドの姿のまま行かせる必要がない。そんなことするくらいなら普通に私を行かせれば……いや無理。こんな格好で。フリフリミニスカの私よりはまだケイトの方がマシ……? いや問題そこじゃない。上着なりなんなり着せればよかったじゃない。私に恥をかかせたくてわざとメイドのまま連れてったとしか思えない。けど……あいつの馬鹿っぷりからすると、本当に何も考えてない可能性が大だろうか。ケイトに上から何かを着せるという発想がないのかもしれない。小さいころから連れ添ったメイドロボで、いついかなる時もあの格好でいるのが当たり前だったから。だと……したら、私もこれからそういう存在として徐々に受け入れられて……いく……わけ……? 冗談だと思いたい。でも、身体は家事を開始してしまう。従順なメイドロボとして。昨日までケイトがやっていたであろう仕事を、私が。そして私がやっていた人としての営みは、今後ケイトが代行する……。 (何でよっ! 逆……でしょ!) 頭の中であまりの理不尽な扱いに怒り狂うも、私の身体はもはや私の意志など必要としていない。家の中の家事が終われば、きっと買い物に外へ出されてしまう。メイドのまま……フリフリのミニスカメイドロボとして……。 (う……うぅ) なんで……どうしてよ。逆。逆でしょ……。私が上着着て大学に行って、ケイトが家事すればそれで……何とかなるのに……いやそれ以前に病院とかに……。 あまりに馬鹿馬鹿しい成り行きに、私はこれが現実だとどうしても認められなかった。誰かが気づくでしょ。こんな馬鹿げた入れ替わり。大学の誰かがケイトをケイトだと見破るはず。……いや……でも。 私は昨日のケイトの振る舞いを思い出した。まるで本当に私みたいだった。十年以上蓄えた学習結果に裏打ちされた「人間の真似」は私でさえ舌を巻いたし、そういえば……お客さん皆……私の方をメイドロボだと思ってたっけ……で、でもそれは私がノリでメイドロボっぽく振る舞ったからであって……。 (私……私が人間よ。ケイトは……あっちがメイドロボなの……。お願い気づいて。誰でもいいから……。このままあいつのメイドロボになっちゃうだなんて、絶対、それだけは……嫌) 買い物をするべく、いつか見たあのスーパーへ向かいながら、私は誰かが自分とケイトの正体を見破ってくれることを願い、いそいそとケイトの代行を務め続けた。


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