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引きこもり女がユニークスキル「セルフュージョン」でダンジョン配信やってみた!

ダンジョンと呼ばれる異界への入り口が地球上に乱立してから二十年。今や門戸は一般人にも開放されて、ダンジョンへ行くことはすごい人間、イケてる人間であることを保証するステータスにもなりつつある。中には地球上に存在しない危険な生物……なのかもわからない存在が蠢いていて大変危険なんだけど、だからこそ行って帰ってこれる人は一目置かれることになる。地球上にはないものを回収することができるので、金稼ぎの場にもなっている。中で取ってきたものは国に買い取ってもらえるのだ。成り上がりを夢見てより危険な階層へ潜っていく人も多い。深い階層ほど危険で敵が強くなるが、見返りも大きくなる。そんな危険な場所が何故一般人に開かれるようになったかというと……ダンジョン内はステータスやスキルと呼ばれる、地球上とは異なる法則に支配されているからだ。ステータスと呼ばれる数値が高ければ地球上よりだいぶ頑丈になるし、体力も上がる。特にスキルは魔法としか呼べない現象を起こせるので瞬く間に人々の興味を惹いた。人気配信者の多くは見栄えのいいスキルを習得していて自身のキャラ付けと配信の盛り上げに活用している。……そう、ダンジョン内での活動はネットに配信することができる。元々は内部の記録と監視、緊急時の連絡のためにくっついてきていたカメラモンスターが一般人の流入と共に転用されるようになったのだ。人気配信者は中での拾得物より配信で稼いでいる。中でも世界で一人しか持てないとされるユニークスキルの所持者は今やスターであり、人気者になるにはユニークスキルが必要と言われるほどだ。 ずっと引きこもりしていた私は、ある日近所のダンジョンに赴き、管理施設で「鑑定」を行ってもらった。親に家を叩きだされてハロワ行くよう言われたのだけど、嫌だったので何となくこっちに来た。目の前のことから逃げただけでダンジョンに潜ろうなんて微塵も思っていなかった。運動できないし。体力ないし。でも……。 「鑑定結果出ました。こちらが材本さんのステータスとなります」 窓口の人が広げた紙切れにはレベル1の名のもとに貧弱な数値が並んでいた。落胆も驚きもない。何も言うことがない。しかし、窓口のお姉さんはやけにニコニコで、何か言いたげにウズウズしてるように見えた。 「こちらがスキル一覧になりますが……」 彼女が指した欄にはこう記されていた。セルフュージョン【ユニークスキル】と――。 「あっ……これもう流れてます? えっと……ぶへへ、わた、私……材本融子……でしゅ。今日から……ここ、えっと、ダンジョン……行ってみようかなっ……て」 望遠レンズみたいな大きな目を突き出して宙に浮く銀色の生物に向かって私は久々に家族以外に向けて声を出した。私はダンジョン探索者になって……みようとは正直まだ思いきれてないけど、配信者やってみようかと思い立ち、勢いで配信開始した。だってユニークスキルだし。人気者全員持ってるし。全員ではないけど。でも布団の中で有名配信者になってチヤホヤされている自分を想像しないわけにはいかなかった。ユニークスキルあるって言われたら妄想しない方が無理だと思う。きっとみんなやる。 告知もクソもない、実績知名度ゼロの陰キャ女のぶっつけ本番配信にも関わず何人か人がすぐに来た。”ユニークスキル持ちの初ダンジョン”はやっぱそれなりに目を惹くんだ。 「三日前にね、鑑定受けたんだけど、ユニークスキルあるって言われて……へへっ、だからですね……」 『どんなスキル?』 「ひょっ」 初コメントに変な声がでた。今は薄暗い中に自分とカメラモンスターだけなのに、配信先に誰かいる、私の死にたくなるくらい恥ずかしい下手な喋りを見ている人がいるのだと実感し、緊張でしばらく声が出なかった。 「……せ、セルフュージョンっていう……あの、私ほんとにダンジョンとか初めてでよくわかんない……ですけど……」 『はよ試して』 ひぃ。なんか怖いよ。 『説明あるよステータス開いて』 え? そうなの? 「す、ステータスオープン……」 目の前にウィンドウ画面みたいなものが表示された。ダンジョンってすごい。レベル1の貧弱ステータスとセルフュージョンの文字が見える。……説明どこ? 『スキル名タップして』 あっはい。セルフュージョンの文字を指先で触れると、説明文が出てきた。 「敵一体と自分を融合……だそうです」 『なにそれ』『知らん』『そんなことできるの?』『ヤバそう』 急に複数のコメントが流れて、また私は息がおかしくなりそうだった。プレッシャーすごい。怖い。 『はよ試せ』 「じゃ、じゃあ……せ、セルフュージョン!」 ダンジョン内に私の不安定な声がこだました。何も起こらない。 『敵いないとダメだろw』『アホ』『対象にできる敵が最低一体いるのでは?』 私は真っ赤になって両手で顔を覆った。 薄暗いダンジョンをおずおずと歩き、奥へ向かった。この辺は入り口近くだから整備されているのもあるだろうけど、虫とか蝙蝠とかを全く見ない。設置されている明かりとは無関係に光があるような気もする。ほんとに地球じゃないんだな……と肌で感じる。と思っていると目の前に影が。思わず硬直する私。影は次第に近づいてきて、本体のシルエットが浮かび上がった。ブツブツした緑色の肌に覆われた、小柄な二足歩行のモンスター。ゴブリンだ。そいつは黄土色に汚れた瞼を薄め、低い笑い声を発した。右手にこん棒を持っている。 「ひっ」 私は怖気づき、動けなかった。ゴブリンは犬ぐらいの大きさだけど、こっちに悪意を持った人型の人間ではない生物というのがとにかく恐ろしくて、身体が動かなかった。両手に握った金属バットを動かすことができず、私は顔に恐怖を張りつめたままゴブリンから目を離せなかった。 自分がにらみ合いに勝ったと思ったのだろう、ゴブリンは口角を上げて近づいてくる。私はパニックになった。逃げ……逃げても駄目だ私の足じゃ。ろくに準備もせずいきなり来るんじゃなかった。馬鹿。私のアホ。 『セルフュージョン』『スキル使え』『はよ殴れ』『両手上げて威嚇』『ここどこのダンジョン?』『死にそう』 カメラモンスターの力で視界に映し出されるコメントが私の硬直を解いた。私は闇雲になって叫んだ。 「せっ……セルフュージョン!」 眩い白い閃光と共に、身体が前方にすごい勢いで引っ張られた。ゴブリンの方へ。ゴブリンも私に向かって飛んできた。ぶつかって死ぬと思った瞬間、全身の感覚がなくなった。何も見えない。わからない――。 煙が勢いよく噴き出すような変な音と共に、身体の感覚が戻ってきた。私は変わらない場所に突っ立っていた。意識と感覚が明瞭になるにつれて、さっきまでと何かが違うことに気づく。なんか……背骨が曲がってるような。猫背というか……。そして、目線が低い気がした。さっきよりちょっとだけダンジョンの天井を高く感じる。 『やば』『すげー』『エッッッ』『これ意識ある?』『キモくて草』『融合マジ?』 視界に映るコメント群で、私は動き出した。あっそうだ。ゴブリンにスキルを……セルフュージョン発動したんだ。どうなったの? 周囲を見渡すと、ゴブリンがいなかった。こん棒と金属バットが落ちている。あとは私を映し続けているカメラモンスターだけだ。 『鏡みて』『自分』『配信画面を目に映させて』 複数の指示コメが飛び、私は段々状況を理解できた。見たくない。けど……。カメラモンスターに念を送って配信画面を私の目に映させた。すると……そこには、ブツブツした緑色の肌を持った、ゴブリン……の少女が映っていた。肌と骨格はまごうこと無きゴブリンであるが、顔つきは人間の……私のもので、黒い髪の毛が生えている。身長は低く、小学生高学年ぐらい。人間とゴブリンの子供がいたらこんな感じだろうかと一瞬思った。……遅れて、これが自分だと理性がようやく受け入れた時、私は悲鳴を上げて倒れた。 「ステータスオープン……」 数分間パニクったあと、私は自分の状況をようやく受け入れた。視聴者数はだいぶ増えていて、十五人を超えた。私はむき出しになっている自分の胸を腕で覆い隠しながら、自分のステータスを眺めた。おそらくゴブリンがパンツしか履いてなかったせいで私の胸は丸見えだった。ううう……。私の服は反映されないわけ? イボみたいなブツブツの多い緑色の肌は私の本当の胸じゃないと言い張れないこともないけど、私が半裸で胸を……それも配信で晒したことに変わりはない。しかも異形のモンスターみたいな姿になって。最悪。ダンジョン慣れしてからで良かったかな……配信。いやでもそれだと死んでたかな……。 ステータスを見てまたビックリ。そこに私のステータスは記載されていなかった。「ゴブリンガール レベル3」のステータスが表示されていたのだから。 「えーっ何これ!」 『何?』『見せて』『融合後のステ出てる?』『みせろ』 ステータス画面って映るのかな? 私はカメモンに念を送ってステータス画面を映させた。視聴者たちの推測のおかげで素人の私にも内容がわかった。これはゴブリンと融合した私のステータスであり、今の私はゴブリンガールという種族というか存在になっているらしい。 「嫌だ~っ、こんなんヤダぁ~っ」 モンスターになるなんて聞いてないよぉ。 『いやわかるだろw』『セルフ・フュージョンだぞ』『想像つくやろw』 コメントのツッコミに私は返す言葉もなく、黙りこくった。そこに新たなゴブリンがやってきた。さっきのやつと同じだ。見分けつかない。こん棒を持っている。 さっきとは違って比較的落ち着いていた。私はゆっくりと金属バットを手に取り、敵と目を合わせた。恐怖がないわけではなかったけど、身体は相手を見つめて威嚇しつつ、脳は冷静に攻撃タイミングを図っていた。そんな自分に驚いてしまう。レベルが上がったからだろうか? それとも……ゴブリンになったから? 私が仕掛けた。自分でも驚きながら、私は生まれて初めての戦闘を行い、ゴブリンの頭をぶっ叩くことに成功。ゴブリンは倒れ、身体は泡になって消えていった。後には宝石のようなものが残り、私はそれを回収した。魔力の結晶……だっけ? モンスター倒したら手に入るやつ。ダンジョン出たら買い取ってくれるやつ。 『やった』『初勝利おめ』『ゴブリン化してね?』『おめ』『胸見えた』 コメントが揶揄と祝福で溢れる中、人生で久々の成功体験に気を良くした私は大胆に奥へ進んだ。身体がモンスターになったせいもあるかもしれない。私は揚々と三匹のゴブリンを撲殺した。そして自分が怖くなった。モンスター化してない? 精神も。ていうか、これって元に戻るの? まさか一生ゴブリン女のままじゃないよね? 休憩所を見つけたので、私はそこで融合解除を試みた。これは念じるだけで簡単に成功した。また白い閃光と共に私とゴブリンが分離し、元通り人間の女になった私が突っ立っていた。両手を見つめる。肌色の、人の手。良かった。あ~良かった。 『後ろ』『まずい』『逃げろ』 しみじみしていると、コメントに気づく前に脚に痛みと衝撃が走った。こん棒で殴られたのだ。 「おぅっ」 私は牛みたいなうめき声を出して体勢を崩した。闇雲に金属バットを振り回すとゴブリンが私から離れた。殴られた右脚を擦りながら、私はゆっくりと立ち上がった。痛い。怖い。また恐怖で体が硬くなっている。でもやらなきゃやられるという状況下で生物的な本能が呼び覚まされたのか、はたまたさっきまでゴブリンしていた経験が生きているのか、私には「攻撃」の選択肢があった。 「んんんーっ!」 それからグダグダな酷い戦いを経て、私は自力で……人間として初めてモンスターを討伐することに成功した。散々こん棒で殴られて痛いけど、血は流れていないし骨も折れていない。地球上だったらありえないほど自分が頑丈だ。ビックリしちゃう。レベル1でもこんなに丈夫になるんだ……と思いつつステータスオープンすると、いつの間にかレベル2になっていた。こん棒に耐えたことから見るに、恐らく融合中の戦闘で経験値が「私」に入ってきていたのだと思われる。……コメントの受け売りだけど。 翌日、私はまたダンジョンに潜った。配信もする。ソロ初心者だからコメントないと死ぬし。二回目ということ、そして一晩寝て頭が整理されたのか、そこまで怖がることなくサクサク進めた。最初に遭遇したゴブリンと融合すれば一時的ステ上げになるし、モンスターの戦闘本能を得られる。戦略というやつが決まった。昨日ベッドの中で見た配信終了後のコメントを採用したのだ。『その階層のモンスターと融合すればすぐ適正レベルになるんだから永久に進めるやん、強くね?』という。 (うひひひ、もしかしたら私……強いのかも。当たりスキルなのかも。有名になれるのかも。人生逆転できちゃうのかも) という下世話な妄想は広がった。私はまるでゴブリンみたいにグヘヘと笑いながら次の階層へ進んだ。ただ一つ欠点があるとすれば……解除後に融合素材と自力で戦わないといけないってこと……かな。レベル3になったからだいぶマシになったけど。 次の階層はなんか宇宙人の基地みたいな白い迷路だった。少し進むと新たなモンスターと遭遇。犬くらいの大きさをした魔導士……のようなやつ。紫色の円錐形の帽子と紫色のローブ。軽い金色の刺繍で模様がつけられている。しかし服の中身は人じゃなく、黒い球体だった。それが帽子、ローブ、手袋、靴を身に着け、右手に杖を握っている。帽子の下から黄色く光る目が見える。 「ええと……あれなんですか?」 『マジックモンスター』『下級のマジモン』『魔法使う』『雑魚』 コメントに気を取られている間に、火の球が飛んできていた。直撃し、軽い衝撃と共に私の上着に火がついた。 「あばばばば」 私はパニクって火をバンバン手で叩いた。幸いすぐに消えたけど、マジモンは杖を構え、二発目の発射体勢に入っている。遠距離とかないよどうしよう。スキルもまだアレだけだし……アレだ! 「セルフュージョン!」 私とマジモンが互いにすごい勢いで引き寄せられ、白い閃光に呑まれた。直後、私は白い床の上に立っていた。前傾姿勢ではない。身体の感覚は変わらない。あれ? 失敗? いや、目線低いよ。天井高くなってる。 『新形態きたー』『可愛い』『コスプレw』『強くねこのスキル』『魔女っ娘w』 両手を見ると、紫色の手袋をしていた。私は配信画面を目に映した。すると……そこにはある種、ゴブリンガールより恥ずかしいかもしれないものが映っていた。紫色の魔女のコスプレをした私だった。ローブの下は全身黒タイツだ。見る間に私の顔が赤くなっていく。 「えっ、わっ、わっ、何これ何!」 思わずローブを脱ごうとすると、脱げない。身体にくっついている、というか何かの力で体から離れないようになっている感じ。コスプレではなく、やはり融合らしい。 「ステータスオープン」 そこにはマジックガール レベル4と記されていた。ううう……二十過ぎてるのに。すっぴんでこの格好強制なの……。でもスキル欄にファイヤーボール レベル1とテレキネシス レベル1が増えている。 「あっすごいすごい!」 私はステータス画面を視聴者に見せた後、意気揚々と生まれて初めての魔法を使った。 「ファイヤー……ボール!」 杖の先から火の球が出て、飛んでいく。すごい。魔法じゃん。魔法だよ。魔法使いになった私。 『無駄打ちするな』『MP見ろ』『かわいい』『回数決まってるの知らんの?』 「……はい、すみません……」 2階層は楽に進んだ。ゴブリンじゃなくて人間のまま(違うけど)なのと、金属バットが強かったからだ。……はい、ファイヤーボール打つより急いで近寄って撲殺する方が強くて楽でした。はい。そのたびにコメントで『魔法使えw』『撲殺魔法』『マジカルバット』『その格好で金属バットw』と煽られるのがウザかった。お前ら魔法使ったら無駄打ちするなって言うくせに。勝手なんだから。 調子に乗って3階層に行くと、今度はまた洞窟。ゴブリンが再出現したけど、私はマジックガールのまま戦った。モンスターにならなくていいならその方がいいや。コスプレでダンジョン進むのもそれはそれでだいぶ恥ずかしいんだけど。でも配信しながらだと何だかアイドルになったみたいで悪い気分じゃないかも……しれない。 が、4階層へ進むと次第に苦戦するようになってきた。敵がゴブリンとマジモン交えて複数でるのと、後は……。レベル不足かもしれない。私は自分が特例であることにコメントで指摘をもらうまでわからなかった。レベルが上がらないというか、経験値が入っていないのだ。「マジックガール」には。 周りに敵の気配がないところで融合を解く。白い閃光と共に天井が少し低くなる。今度は慌てず……私は金属バットで困惑しているマジモンくんを殴った。ごめんね。 ステータスを見るとレベル4になってる。私も。そして次にあったゴブリンと融合するとゴブリンガールレベル5になった。はぁ……またモンスター化か。やだなぁ。しかし金属バットで殴る際の威力が上がった。マジックガールだと物理攻撃力は低くなっていたのかもしれない。階層によって融合相手を上手く変えるような戦略も必要になってくるのかも。探索者としての経験や力量を積むのが踏破スピードに追い付いていないかも。でも……逆に言うとすごい攻略速度ってことだよね。こんなに早くダンジョン進める人も珍しいんじゃない? 視聴者も20人超えたし。ひょっとしたらひょっとするかも……引きこもりがダンジョン兆速クリアでバズって人生大逆転とか……グヘヘへ。 5階層。コメントによるとボス戦らしい。大丈夫かな……レベル5のゴブリンで。 『やめとけ』『まだ無理』『ソロはやめろ』『ボスと融合ってできんの?』『金属バットじゃ流石に無理』 うーん。コメントは概ね否より。でも……ここまですごいスピードで来たし……戻るのも怠いし……セルフュージョンもあるし……何とかなるっしょ! 気が大きくなっていた私はボス部屋の扉を開いた。中に入って扉が消滅し、ボスが姿を現した瞬間、私は死ぬほど後悔した。文字通り死をもって後悔することになりそう。本能的に直感した。 青い肌をもった逞しい巨人が闇の中から現れた。巨大なこん棒を握りしめ、私を見下ろしている。3メートルはあるだろうか。私の金属バットは……うん、無理! 『あーあ』『オーガだ』『終わった』『グロ配信注意』『やめろって言っただろ!』 順調すぎて忘れかけていた恐怖が蘇り、私は動けなくなってしまった。ゴブリンの精神もすっかり屈している。どうしよ……死ぬの私? ここで人生終わり? 馬鹿……私のアホ……。引きこもってればよかった……。 何だかデジャブを感じた。前にもこんなことがあったような。そうだ、初めてモンスターと……ゴブリンと遭遇した時もこんな気持ちだった。つい昨日のことが遠い昔に感じる。あの時は確か……セルフュージョンで……。 『救難打て』『救難』『カメモンの救難』『コメント見ろ』 静かに錯乱状態になっていた私はコメントのことなんかすっかり意識の外だった。オーガに向かって「セルフュージョン!」と叫んだが何も起こらない。あっ、ゴブリンと融合済みだった。パニックが加速した私は更に愚かな行動に出た。融合解除したのだ。 『は?』『何やってんこいつ』『馬鹿』『これもう自殺だろ』『救難打て』 白い閃光と共に私レベル4とゴブリンレベル5が現れた。そして……オーガがこん棒を握った腕を振り上げた。私の隣でゴブリンも私を睨みつけた。 「……あ」 私はさっきまで融合していたゴブリンと反対方向に向かって走った。学生時代以来の本気ダッシュだった。巨大なこん棒が地面を叩き、世界を揺らした。まるで地震だ。 「あああああああ」 馬鹿馬鹿馬鹿ばか私のアホ、なんで融合解いた? ああそうだあれと融合して……。オーガに向かって叫んだ。 「セルフュージョン!」 しかし何も起こらない。私はセルフュージョンにクールタイムがあったことを初めて知った。 「あああああごめんなさいごめんなさい許してえええええ!」 私はみっともなく泣き叫びながらボス戦エリアを走り続けた。本来いない敵をわざわざ連れ込み一対二にしてしまったのも馬鹿すぎるし一人でボスに勝てると思ったのもわからない。なんで私はこんなアホな真似しくさったんだろう。迫りくる死の脅威から体力以上の体力で走り続けながら私は自分の愚かさを呪った。引きこもり女がダンジョンとかいきなり来てよかったわけないじゃんしかも一人ででも知り合いの探索者とかいないし声とかかけるの無理だったしぃー! 『救難』『誰か行け』『どこダンジョン?』『知らん』『グロ注意』『カメモンで救難出せる』 その時、感じた。クールタイムが切れた。間違いない。使える。私はオーガに向かって叫んだ。 「セルフュージョン!」 勢いよくオーガに向かって私の身体が飛んだ。ぶつかる瞬間に白い閃光と共に体の感覚が失せ、直後に私はだいぶ狭くなった空間に突っ立っていた。 (……お?) ジッと自分の両手を見る。男のように逞しい、ゴツゴツした青い肌。さっきより床が遠く天井が近い。周りに誰もいない。いや……小さいゴブリンが私を見上げている。 「ステータスオープン!」 オーガウーマン レベル8。見たこともない高い数値が並んでいる。お……おおお! やったー! できた! 通じたー! セルフュージョン! ボスにも! 流石ユニークスキル! 最強! 生きた! 死なずに済んだ―! 『すげ』『ボス貫通かよ』『強すぎて草』『丸見えで草』 生き延びた安堵で、胸が丸見えなのも忘れて私ははしゃいだ。しばらくしてから、ボス討伐の証である宝箱もワープゲートも出現していないことに気づく。 「……今日から! 私がこのダンジョンのボスでーす! ……あはははは!」 ヤケクソ気味に笑ってから、私は視聴者に相談した。どうすればいいか。そしてようやく、カメモンくんから救難を出せることを知った。……そういえば講習会で言ってたような気もする。つくづく自分の馬鹿さ加減に呆れながら、カメモンに救難を頼んだ。……が、出ない。救難が出せない。 「あれぇ? なんで? 壊れた?」 『故障?』『嫌われた』『モンスター扱いなんじゃね?』 「えっ。あっ」 そういえば、私は今……オーガウーマンレベル8なんだっけ。もしかしたらそうかもしれない。今の私は「このダンジョンモンスター」になっているから、探索者としての救難が出せない説。だとしたら……ヤバいじゃん。融合解かないと助けを呼べない。けど、解いたら……オーガと、ついでにゴブリンにも……また殺されそうになる。でももう逃げ続けるの無理だよ。限界。え、どうしよう。誰か来るまで待つ? ……いつまで? 『場所言え』『自傷してから融合解けば?』『どこのダンジョン?』『ゴブリン殺しとけ』 一つのコメントに目が留まった。 「え、天才いるじゃん。それいいかも」 ひたすら自分にダメージ与えてから融合解除すれば救助来るまで耐えられるかも……いやそれどころか単独討伐できちゃうかもしれない。私はその案を採用した。足元のゴブリンに徹底的に自分を攻撃させた。脚だけじゃなく、屈んで腕や顔にも。……痛い。けど耐えるしかない。 『草』『なんだこれ』『閲覧注意』『自傷配信』『ええ……』 ステータス画面を開きながら、自分のHPを確認する。ちょっとずつだけど減っていく。残り5くらいになった瞬間で解除すれば何とかなるかな……。 一時間近く不毛で惨めな時間を過ごした後、ようやく私の身体は……オーガウーマンの体はボロボロになった。全身痛い。残り体力僅か。死ぬ……。 『このまま死にそう』『モンスターのまま死んだらどうなるん?』『消えたら笑う』『そろそろ解け』 (……ここ!) 用済みのゴブリンを叩き潰した直後、私は遂に融合を解いた。後にはボロボロのオーガが残り、私がとどめを刺すか救難まで待てる……はずだった。白い閃光の後に現れたのは……。 「……っぎゃあああああ痛い痛い痛い死ぬううぅぅーっ……ゴホッ!」 口から血を吐き出して床に倒れる、血まみれで骨をバキバキに折った私と……無傷のオーガさんであった。 「お……ぶっ」 声が出ない。ちょ……ま……なんで……いやそうか……そりゃそうだ……経験値私持ちならダメージ私持ちに決まってんじゃん……アホか……私……馬……鹿……。 動けない。全身が突然現れた激痛にもがき苦しんでいる。私は虚ろになっていく瞳で死を待つしかなかった。誰よ自傷しろってコメントしたやつ……呪ってやる……絶対特定して化けて出る……。オーガに攻撃されても死ぬしほっとかれても死ぬ。終わった。本当に終わった。地響きが近づいてくる。私は小声でセルフュージョンを唱えようとしたがもううめき声も出ない。出てもクールタイムだから無理だし……。 『グロ注意』『終わった』『死』 視聴者が減っていく。逃げていく。誰も責任なんて取りやしない。念でカメモンに救難を出させることはできた。けど、間に合わないのは数秒後にこの身をもって知ることになるのだろう。地響きが止まった。すぐ近くにオーガの巨体の気配を感じる。死ぬ。終わった。目をつぶることもできないまま、私は感覚が薄れつつある全身が砕け散るのを待つだけだった。 が、私の身体がグロ注意になるより先に、何かが起こった。ものすごい熱が近くを通り過ぎると共に、爆音が響いた。私の身体にはいつまで経ってもオーガのとどめの一撃が加えられることなく、そのまま放置されていた。 (……何、どうなったの……) 苦しい。もう早く殺してほしい。しかし、オーガの気配を不思議と感じない。代わりに、もっと小さな気配を感じる。足音だ。私に近づいてくる。 「ヒール」 優しい声色の、でも力強い男の声だった。全身が暖かい感触に包まれ、痛みが和らいだ。変な方向に曲がっていた手足や潰れていたらしいところも元に戻っていく。一分もしないうちに、全身の苦痛が一切消えた。 「大丈夫? 立てる?」 何が起きたのかわからない。私はもう死んでここは天国なのだろうか。私は起き上がった。さっきまで死にかけていたなんて嘘みたいに身体がんんんんーっ!? 「……っ!」 私は恐ろしい光景に悲鳴も出なかった。引き締まってそうな身体の見知らぬお兄さんの後ろに、オーガの両足と……全身に炎を纏った巨大なドラゴンがいたのだ。オーガの両足の切断面は焼け焦げ、真っ黒だった。ドラゴンがオーガを消し飛ばしてしまったらしい。何で……こんなところに……ドラゴン……ドラゴンがこっちを見た。終わった。ていうかお兄さん後ろ……死……。 「ああごめん。驚かしちゃったね」 お兄さんは後ろを振り返ると、ドラゴンに向かって手をかざした。すると炎のドラゴンは瞬く間にシュルシュル縮んでいき、まるでフィギュアみたいに固く小さくなってしまった。吸い寄せられるようにしてお兄さんの手に収まり、お兄さんはそれを自身の鞄に仕舞った。 こうして、私は死ぬことなくオーガのボス戦を突破して家に帰ることができた。SNSを見ると、超大盛り上がりだった。今まで表舞台に知られていなかったユニークスキル持ちの登場に世間が湧いている。 (バズっちゃった……) ……私を助けたお兄さんが。

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融子ちゃん、チャンスだよ! 強くて可愛いモンスターと融合して、人気フィギュア使い魔としてバズっちゃおう!

弥生萌えよう


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