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〈妄想〉青の剣士と赤の拳士

ついにここまできた。 山奥深く、あたりは緑色で覆い尽くされている。木々の間からわずかにみえる空は蒼く、茜色に染まる日暮れまでには、しばらく時間がありそうだ。 青の剣士と赤の拳士は、朝早くから宿屋を出立し、この扉を求めてやってきた。ここまで多くの魔物と闘い、すでに疲労困憊だ。 「どうする? このままこの扉を開くか? 開いたら最後、休みなく闘うことになるぞ。その覚悟はあるか?」 赤の拳士が周りに潜んでいるかもしれない魔物の気配を伺いながら、青の剣士に訊ねる。 青の剣士は、近くにある苔むした古びた井戸を覗き込みながら考え込んでいる。足元にある小石を拾い、古井戸の中へ放り投げた。 「・・・昨日の夜、占師が言ったことは本当だろうか?」 「あ?」 古井戸に身を乗り出し覗き込む剣士を、拳士は見つめる。古井戸の中から、ポチャーンとかすかに音が響く。 拳士は占師の言葉を思い出す。 『火ノ手下ノ持ツ剣(つるぎ)カラ ホトバシル光 水ノ手下ノ中二注ギ込ム時 剣士ト拳士ノ魂 交ジリ合ウ ソノ精力 尽キ果テルコトナキ。』 再び足元の小石を拾い、古井戸に放り込む剣士のフンドシを締めたお尻、そして拳士に比べて細い足を見つめながら、 「この旅を始めた時よりも背が伸びたな・・・」 と拳士は思った。 頭上でカサカサと音がする。小さな動物が長く訪れることなかった侵入者を見物しにきたようだ。 「ぽちゃーん」 かすかに響く古井戸からの音に、しばらく剣士のお尻を見つめていた拳士が目をあげる。剣士は振り向き、古井戸に腰をかける。裾の短い衣の間から覗くフンドシと二本の足に目が向いてしまう。それを見てしまったことに気づかれまいと、拳士は頭上にいる小動物を探すフリをする。 「あの占師の言ってたことって、やっぱりそういうことなんだろうね」 剣士は、拳士の大きく逞しい胸を見つめながら言った。 「そういうこと? 我は頭が悪いからよくわからねぇな」 わからない?うそだ。“そういうこと”が“どういうこと”か、占師に言われてすぐにわかった。十分にわかっている。それはずっと拳士が思い続けていたことと合致するからだ。拳士は、剣士と出逢った時から感じていた思いを押し殺していた。それを望んでいない剣士に押し付けることはできない。 “拳士は剣士の手下。剣士を支えることが拳士の使命” それ以外のことは望んではいけないのだ。望んではいけないことだけれど・・・。我々の使命を果たさんがために、剣士と拳士は共に旅をし、共に闘ってきた。同じ部屋に眠る剣士を見つめながら、拳士はいつも同じことを夢想していた。 「この剣士を、我が腕の中に・・・」 小さな動物が木の間から覗いているのを見つめながら、拳士は自分の股間が膨らんでいくことを感じていた。剣士に見つからないよう、小動物を探すフリをしながら、拳士は剣士に背中を向けた。 「拳士はボクのことをどう思っているんだろう?」 足元の小石を拾いながら、剣士は思う。 常に自分のことを庇い、守ってくれる拳士。共に旅をしながら、拳士に対する想いは、“憧れ”から違う想いへと変わっていった。それは川の水のようにさらさらと自然に流れていった。夜眠る時、手を伸ばせば触れることができる距離にいる拳士の息遣いを感じながら、時々息苦しさを感じることがあった。そして、朝目覚めた時、拳士は背中を向けて寝ているのだ。 拳士のことを考えると自然と膨らんでくる股間を隠しながら剣士は古井戸の中に小石を放り込んだ。 「拳士の胸の中に・・・」 ガサっ! カサカサカサ・・・。 樹の上にいる小さな動物が、なにかを察して慌てて逃げていく。 遠くの樹が大きく揺れている。何か大きな者が近づく気配がする。敵か味方か? どちらにしろ、朝から休みなく闘い続けた二人の体力は残り少ない。 バサッ! バサッ! 反対側の空から、風に乗って羽音が聞こえる。 「清時待水!」 「火止刻燐!」 剣士と拳士が同時に叫ぶ。一瞬の間を置いて、辺りの気配が一変する。先ほどまで弱く吹いていた風は止まり、揺れてさわさわと音を立てていた木々の葉も静かになった。小さな動物の動く気配もなくなり、結界を張り巡らした剣士と拳士の周りは静けさが漂っている。 「さあ、どうする? あまり時間はないよ」 剣士は拳士の前に立ち、拳士の目を見つめる。怯んだかのような目をした拳士は、慌てて背を向ける。 「さあ、ここで二人とも死ぬか、それとも生き残るか。どうする?」 「そ、それは・・・」 「ボクら二人は共同体なんだ。どっちかが生き残るなんて選択肢はないよね? だったら占師の言葉通りに・・・」 剣士は再び拳士の前に立ち、拳士の腕を掴む。拳士は拳士の手を解こうと身動きするが、剣士の真剣な表情にうまく動くことができない。 「ボクはもう成人したんだ。どうしてそんなに拒む?」 「・・・コドモ、オトナの問題ではない」 「じゃあ、なにが問題?」 「我は主の手下。手下が主を貫くことなどできぬ。それに、占師の言霊だからといって、それに従って行うような軽々しい行為ではなかろう」 「なにを言ってんだよ。拳士はボクの手下なんかじゃない!」 剣士がさらに強く拳士の腕を握りしめる。 「さっきも言った通り、ボクらは共同体なんだ。ひとつにならなきゃいけないんだ。ボクは、ボクは・・・」 ドンっ! 結界の外に何者かの気配を感じる。向こうからこちらの様子を伺うことができないが、なにかを感じているようだ。 「ボクは拳士とひとつになりたいっ!ずっと、ず〜っと願ってきた。拳士とひとつになりたいと願ってきた」 剣士は込み上がってくる涙を堪えながら必死に拳士に訴えた。 「主が我とひとつに? そう望んでいると?」 拳士は戸惑いながらも、剣士の腕を掴み、涙で潤んだ剣士の目を見つめる。 「望んでいるっ! 拳士は望んでないのか?」 「・・・我も望んでいる。主とひとつになりたい。主と交わりたい」 拳士は、必死になって涙を堪えている剣士の背中に腕を回すと、力強く抱きしめた。剣士の目から涙が一筋溢れでる。 「あまり時間がない。主と我、二人とも生き残る。それでいいか?」 「それしかないんだ。ボクらは二人でひとつだから」 「・・・では、いざっ!」

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