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TAKO UNAGI
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ロボメイドカフェ

紅葉真っ盛りの峠を降りて、まっすぐ伸びた国道をしばらく走ると、開けた土地に巨大な建物がぽつんと現れた。 「ほら、あれが工場で、奥の建物がミュージアム。やっぱ平日だし混んでないな。」  長時間運転した疲れなど微塵も感じない口調で独り言を言いながら、アオは駐車場に車を停めた。よく晴れた景色とは裏腹に秋風が冷たい。 「さて、行きますか。」  すたすたとミュージアムの方に歩いて行くアオを追いかける。二重の自動ドアを抜けて入った明るい室内は、暖房がよく効いていて、僕はすぐにコートを脱いだ。 「予約、何時だっけ?」  アオに尋ねる。 「えっと、13時の回だから、多分そろそろ入場待機列ができるはず。」  リブドール社。ロボットメーカーのトップランナーの中でも、エンタメや愛玩用ロボットといった方向性の強い会社だ。最先端のロボット技術を、工場に併設されたミュージアムで展示している。休館日を除けば毎日、工場見学やミュージアムを訪れる客で、この山間の辺鄙な土地が賑わうのだった。  今回僕とアオがここを訪れたのは、ミュージアムに併設されたロボットメイドカフェの抽選に当たったからだった。席数が少なく、平日とはいえかなりの倍率だったと、アオは言う。  そこでは、人間ではなく、メイド型のロボットが、カフェのスタッフを担っているのだそうで、密かな人気を博しているのだという。ここのところ、アオは会うたびにその話ばかりで、生で見たいと、ことあるごとにこぼしていた。だから、チケットがとれたときは、それはもう大層な喜びようだった。頼み込まれて、半ば強引に会社を休み、男二人のドライブに来たのだった。 「ほら、案内始まったぞ!」  興奮気味のアオは、さながら子どものようで、僕はやれやれとその後ろについて列に並ぶ。 「そんなに急がなくても。」  つぶやいた僕のような人間は少数派のようで、ぞろぞろと列に並んでいく人たちは、期待が顔に滲み出ている。20人もいないくらいだろうか。子どもは一人もいなかったのを見て、いい大人がと、周りの目を気にしていた僕は少しほっとする。平日で皆学校に行っているのだろう。 「みなさま、本日はリブドール社のミュージアムにお越しいただきありがとうございます!皆さまは、ロボメイドカフェの抽選、13時入場回のお客さまでお間違いないでしょうか。これから、チケットの確認をさせていただきますので、よろしくお願いします。」  列を整理していたスタッフが、挨拶をして、列の前の方から、チケットを確認していく。アオから渡されたチケットを見せて、全員の確認が終わるのを待つ。 「それでは皆さまおそろいのようですので、間も無くカフェにご案内します。入場に先立ちまして、お守りいただきたい注意事項をお話しさせていただきます。」  スタッフの説明が始まった。席は指定席で、チケットに示された色のテーブルに、テーブル専属のメイドが案内をしてくれるのだという。他の注意事項としては、撮影や録音の禁止、乱暴な行為の禁止くらいだ。 「緑だ。おんなじだよね?」  チケットを見せながらアオがこっそり聞いてくる。僕は黙って頷いた。 「最後に、皆さまにお願いがあります。カフェで働いているロボットは開発中のAIを搭載しております。当社としましては、皆さまとの触れ合いを通して、ロボットが学習を深化させることを期待しております。そこで、皆さまの満足度をロボットたちに認識させるために、ロボットのサービスがいいな、と思ったときには、テーブルの上に設置しておりますハートの形のコインをロボットにあげてください。」  なるほど、展示と同時にAI学習をさせるというメリットがこのミュージアムにあるのか、と感心する。 「お待たせしました。それではご案内となります。前のグループの方から順にお進みください。」  白を基調にした可愛らしいデザインの扉が開き、僕たちの前に並んでいたグループが迎え入れられた。背中越しにちらりとロボットメイドが見えた。アオほどではないが、少し緊張と興奮が込み上げた。  いよいよ僕たちの番になり、扉が再び開く。 「おかえりなさいませ、ご主人様。」  パステルグリーンの機体が姿を現した。声色には機械っぽさがあるものの、かなり人間の声に近いと感じた。さっき前のお客さん越しに聞こえた声は、クールな印象を受けたが、目の前のロボットから聞こえてきたのは、少しのんびりした優しげな声だった。こういうところで個性を出しているのだろう。丁寧にお辞儀をする動きは、ロボットとは思えないほど滑らかだ。 「本日、ご主人様方のお給仕を担当いたします。メイドロボットG03ワカナと申します。どうぞよろしくよろしくお願いします。」 「うわぁ、可愛い!よろしくね。」  すかさずアオが反応する。すると、ワカナはその場でくるりと回ってからもう一度お辞儀をした。ロングスカートが広がったような円錐状になっている下半身は、硬い素材でできているらしく、ふわりと膨らむことはなかった。ファミレスのロボットみたいに、車輪で移動する仕組みのようだ。 「ありがとうございます。それでは早速お席にご案内いたしますね。」  くるりと後ろを向いて進み始めた。腰のところにはリボンの形の飾りがついている。背中にはリュックのような大きなパーツが背負うように付いている。ウキウキで付いていくアオを僕も追いかける。  既に先に入った2組が席について、メイドと談笑している。ワカナとは色違いのピンクのメイドは、少し高い声で明るい感じの印象だ。隣のメイドは、青のパーツで構成されていて、落ち着いたクールな印象だ。 「他のメイドもご紹介しますね。あちらのピンクの機体がサクラ、青い機体がルリです。今ご主人様を席にご案内している黄色い機体がレモン、扉のところでお迎えしている白の機体がユキです。」  席についてそわそわと辺りを見渡す我々の様子を察したのか、それぞれのメイドを紹介してくれる。 「ご主人様方はなんとお呼びいたしましょう?」 「おお、すげぇ。名前呼ぶのも対応できるんだ!」  アオが声を上げた。 「はい。発音がむずかしいものでなければ対応可能です。」 「じゃ俺はアオで。お前どうするの?」  人間とロボットが同時に僕をみた。 「じゃあ、コンで。」 「かしこまりました、アオ様、コン様。それでは、こちらがメニューになります。ご注文はいかがいたしますか?」  テーブルにメニューを広げて首を傾げる様は、人間さながらだ。アーモンド型の目のパーツにはカメラのようなものがついているようだが、どこから周囲の様子を認識しているのだろう。胸のパーツは六角形の形で二つの膨らみを再現していて、緑のライトが点滅している。よく見ると肩が呼吸するように上下している。こんなところまで人間らしさを再現している芸の細かさに驚かされる。  腕はダクトのホースみたいなジャバラの素材でできていて、肘にはプロテクターが付いている。首元は、伸縮性のありそうなダークグレーの素材で覆われている。鎖骨が浮き上がっているのがまた人間らしいが、きっと何かの配線をそれらしく見せるためにそこを通しているのだろう。 「ほら、見つめてないで早く決めないと。」  はっとして、顔が熱くなる。 「俺は、スペシャルオムライスセットで、デザートはミニパフェ、ドリンクはコーヒーでお願いね。」 「かしこまりました。」  慌ててメニューを見る。アオが今注文したのは、一番大きく写真が載っている看板メニューのようだ。 「僕も同じので、デザートはミニパンケーキ、ドリンクは、えーと、コーヒーで。」 「かしこまりました。それでは、少々お待ちくださいませ。」 「あ、コインあげなきゃ。ワカナちゃん、はい。」  テーブルの脇には、コインケースが据え付けてあり、アオは早々と使いこなしていた。 「わぁ!ありがとうございます!」 「あ、僕も。」  僕もコインを手に取ってワカナに差し出す。 「ご主人様もありがとうございます!」  ワカナは、両手を皿のようにして恭しく差し出した。僕らはその上にコインを置いた。硬そうな装甲に覆われた手の甲とは裏腹に、手のひらは、表面が布で覆われた柔らかい素材でできているようだ。 「それでは厨房に伝えてまいりますね。少々お待ちくださいませ。」  受け取ったコインをワカナがスカートを模した装甲の一部をパカっと開けて中に入れた。そして、綺麗に一礼すると、くるりと翻って、バックヤードへと滑らかに滑り出した。  他のテーブルも同様に、注文を取り終えたらしく、ワカナ以外のメイドたちも同じ方向に動いている。それぞれのメイドは、一様に動いているように見えて、少しずつ移動にも個性があるようだ。進んでは少し減速するのを繰り返しながら、時折止まったりする。ぶつからないように調整しているのだろうか。一定のスピードで動いているメイドは一体もいなかった。車輪で動いているはずなのにどこか人間の歩みを思わせる。


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