SamuKata
TAKO UNAGI
TAKO UNAGI

fanbox


ロボメイドカフェ(中の人編)

 チョコレートソースがこびりついた皿を目の前のトレイに載せてついたため息は、目の前の壁にぶつかって跳ね返り、そのまま私の顔にまとわりついた。吐息に含まれる水分と汗が混じり合って、顔中に粒をつくっている。外は今どんな状況なのだろう。私がここに来てから過ぎた日を数えてみるが、途中で諦めた。もう秋になっているのだろうか。透き通った空を流れる風が恋しい。  テーブルの上を片付け終えると、額から汗が鼻のそばを伝って顎へと流れていった。首を包んだタイツがどんどん濡れていく。早く次のお迎えの準備をしなくては。次は、13時の回、今日3組目のご主人様がそろそろ列に並び始める頃だ。少し外がガヤガヤしているのが聞こえる。  リブドール社。ロボットメーカーのトップランナーの中でも、エンタメや愛玩用ロボットといった方向性の強い会社だ。最先端のロボット技術を、工場に併設されたミュージアムで展示している。私はこのミュージアムの中のカフェでロボットとして働くことになった。憧れの会社に何とか就職できたは良かったのだが、エリートだらけの周囲に、私は到底ついていくことはできなかった。仕事の要領も悪い私にも、皆優しかったが、それに応えようと一生懸命努力しても、いつも空回りするばかりだった。とうとう庇いきれないミスがたたり、季節外れの人事異動となった。クビじゃないだけありがたい。  ミュージアムに併設されたロボットメイドカフェは、私も存在は知っていた。席数が少なく、平日でもチケットはかなりの倍率だと聞いていた。そこでは、人間ではなく、メイド型のロボットが、カフェのスタッフを担っていて、その様子が動画サイトなどでも配信されていた。  そのロボットメイドがまさか人間が中に入って動かしていたなどとは、ここに来るまで知らなかった。過酷な仕事だが、行き場のない私には、すがりつくしかない。私は意を決して、体重を左に傾けながら右足のペダルを踏んだ。  身体が180度回転した。それと同時に、股間に何度となく味わった快感が走る。思わず太ももを閉じて跨ったサドルを挟むと、ぴたりと車輪の動きが止まった。  木馬。初めてロボットの中に入った時に出たのはそんな感想だった。ロボットの着ぐるみに身を包んで、木馬のサドルに座る。足は後ろの方にあるペダルに固定する。その上からロングスカート状のパーツで中を隠せば、見た目はファミレスでもよく見かける運搬ロボットとそう変わらない。  小さく息をついて、今度は左のペダルを踏む。サドルには、シリコン製の円盤が付いていて、ちょうど私の股間に当たっている。ペダルを踏むたびに、人間の歩幅で一歩くらい進むのだが、それと同時にこの円盤が半回転する仕組みだ。表面のゴツゴツとした突起が前進するたびに、私の気持ちいいところを責め立てる。完全にロボットの着ぐるみを着ているから、直接こすられているわけではないのだが、そこの布素材だけはツルツルとした素材になっていて、そこにローションも塗るものだから、動けば動くほど容赦なく快感に苛まれることになるのだった。  いったいどんな設計思想でつくられているのか、責め具はそれだけでは済まなかった。固い六角形のパーツに詰め込まれた膨らみにも、ギミックが施されている。ちょうど先端に当たる部分に、回転するアタッチメントが付いていて、そこについているいくつかの柔らかい鉤爪のような部分が、私の乳首をゆっくりと掻きむしっている。少し大きめの胸を無理やり詰め込んでいるから、どんなに体を捩っても優しくカリカリと私をいじめるそれから逃れることはできなかった。 「みなさま、本日はリブドール社のミュージアムにお越しいただきありがとうございます!皆さまは、ロボメイドカフェの抽選、13時入場回のお客さまでお間違いないでしょうか。これから、チケットの確認をさせていただきますので、よろしくお願いします。」  外で列を整理しているスタッフの声がかすかに聞こえる。もう間も無くご主人様が入ってくる。なんとかバックヤードに皿を片付け終えた私は、テーブルの上の拭き掃除をしているところだった。胸のギミックは、一定の速さで回転しているのだが、こうして腕を伸ばしたりするたびに、装甲に胸が押しつけられて、刺激が強くなる。びくんと跳ねそうになる体をなんとか宥めて、拭き掃除を終え、バックヤードに戻って整列する。  今日、私が担当するロボットはワカナという緑色を基調にしたデザインの子だ。全部で5体いるロボメイドは色こそ違うが、皆同じつくりだ。もちろん、中身のギミックもだった。私よりも先に掃除を終えていたピンクと青のメイド、サクラとルリはもう整列していた。 「遅かったじゃない。ご主人様のお迎えに遅れたらどうするの?」  クールな声がルリから発せられた。当然、中の人の声ではない。AIがその場の状況を判断して話している、という設定だが実際は違う。別室でオペレーターが声を当てているのだ。オペレーターは、ロボットに内蔵されたカメラとマイクから状況をみながら、キャラクターにあったセリフを当てていく。 「ふえぇ。ごめんなさい!すぐ並びますぅ!」  右耳からワカナのオペレーターの声が聞こえた。私は、体を縮めてぺこぺこと頭を下げると、ちょうどその動きに合うタイミングでワカナのスピーカーから同じセリフが流れた。 「まぁまぁ、時間通り集合できたんだからいいじゃない。ね、ルリ?」  サクラがフォローする。 「そうそう!ツンツンしてるとご主人様に嫌われちゃうよ〜。」  後ろからレモンの元気な声がした。車輪が動かないように振り向くと、黄色のメイドがこちらに向かって歩きながら喋っていた。移動中の快感に耐えながら動いているとは思えない自然な演技だった。 「ルリちゃんは心配してくれているのです。ユキはルリちゃんが優しいの知ってるのです。」  この透き通った声はユキだ。 「も、もう!余計なこと言ってないで早く並ぶ!」  照れたような様子で誤魔化すルリの言葉に、一同は『はーい』と返事して、笑いながら登場順に並んだ。側から見れば微笑ましいメイド達の談笑だが、その裏側が悩ましい苦悶に溢れていることなど、オペレーター達は知る由もない。  オペレーターの仕事はセリフを当てるだけではない。ロボットはAIである程度自動で仕事をこなすが、細かなサービスの指示はオペレーターが口頭でロボットに指示する。その指示は、私の左耳のスピーカーから聞こえてくることになっている。外に漏れないよう囁き声で指示するように言われているらしく、指示されるたびに、毎回くすぐったい吐息の音が左耳を撫でる。  最初の2組の案内にサクラとルリは先に出ていった。席について、ご主人様と談笑している。 「ゲートでお迎えして。」  左耳にオペレーターの囁きが吹き込まれる。このくすぐったいのにはなかなか慣れない。白を基調にした可愛らしいデザインの扉の前に向かう。しばらく止んでいた股間への刺激が再開するが、次もつかえているので、止まるわけにはいかない。正面に辿り着いて息を整える。  扉が開いて、右耳からオペレーターのセリフが聞こえた。 「おかえりなさいませ、ご主人様。」  丁寧にお辞儀をする。こんな動作ひとつでもまた敏感なところが擦れてしまう。 「本日、ご主人様方のお給仕を担当いたします。メイドロボットG03ワカナと申します。どうぞよろしくよろしくお願いします。」  胸に手を当てて少し首を動かしながら話しているような動きを演じる。今回の担当は、この男性2人か。変な人ではなさそうで良かった。 「うわぁ、可愛い!よろしくね。」  すかさずおちゃらけた印象の方の男が反応した。こんな状況なのに、それに可愛いと言われているのはワカナなのに、面と向かって言われると嬉しくて少し恥ずかしい。 「くるっと回ってもう一回お辞儀して。」  左耳から指示がきた。できるだけ動きたくないのだが、すぐに対応しないと不自然になってしまう。少し歯を食いしばって、左に体重を傾けて、連続してペダルを踏んだ。すると、体はその場でくるりと回る。それと同時に素早く回転した円盤の突起がぐりぐりと私のそこをいじめる。正面を向いて、もう一度お辞儀をした。ロングスカートが広がったような円錐状になっている下半身は、硬い素材でできていて、ふわりと膨らむことはない。ご主人様達にその中身が窺い知れることはあり得ないのだ。 「ありがとうございます。それでは早速お席にご案内いたしますね。」  くるりと後ろを向いて案内を始める。スムーズに動くほどに私の股間はどんどん責め苛まれる。太ももを閉じて耐えようとするとブレーキがかかるので、力を抜かなくてはならない。容赦なく込み上げる快感を堪えて進むメイドの後をご主人様達は離れない。羞恥心が快感に拍車をかけていく。 「他のメイドもご紹介しますね。あちらのピンクの機体がサクラ、青い機体がルリです。今ご主人様を席にご案内している黄色い機体がレモン、扉のところでお迎えしている白の機体がユキです。」  席に着くと、辺りを気にする素振りが見えたので、他のメイドを紹介する。体を捻って声に合わせながら手のひらで、それぞれのメイドを指し示す。動くたびにぐりぐりと食い込む突起が、どうしても腹筋をひくつかせてしまうが、エプロンの帯も固い素材でできているからご主人様達にはバレずに済んだだろう。 「ご主人様方はなんとお呼びいたしましょう?」 「おお、すげぇ。名前呼ぶのも対応できるんだ!」  ご主人様が声を上げた。素直なリアクションが少し可愛らしい。歳は私と同じくらいだろうか。 「はい。発音がむずかしいものでなければ対応可能です。」  私は深く頷く。 「じゃ俺はアオで。お前どうするの?」  アオ様が目線を向けたもう一人のご主人様をみた。 「じゃあ、コンで。」 「かしこまりました、アオ様、コン様。それでは、こちらがメニューになります。ご注文はいかがいたしますか?」  テーブルの裏側のスペースか、メニューを取り出してご主人様に向けて広げる。少し首を傾げて質問する仕草をとる。ロボットらしく、動いた後はぴたりと止まるのだが、どうしても息苦しくて、呼吸と共に肩が動いてしまう。それに、ゆっくりと両胸の先端をカリカリと擦られていて、じっとしているとこれがなかなか辛い。よく見ると肩が呼吸するように上下している。  ダクトのホースみたいなジャバラの素材と装甲で包まれた内側は、全身タイツのような素材でさらに覆われていて、生身の部分は一切露出しない。コン様はメニューそっちのけで私の体を観察しているようだった。人間であることが、そして、裏側で恥ずかしいところを弄られていることがバレてしまわないか。そう思うと、ただでさえ暑いのに体がどんどん熱くなる。 「ほら、見つめてないで早く決めないと。」  はっとした様子のコン様の顔は少し赤い。 「俺は、スペシャルオムライスセットで、デザートはミニパフェ、ドリンクはコーヒーでお願いね。」 「かしこまりました。」  オペレーターも聞いているのだが、私もちゃんと覚えておかないと、あとで配膳するときに困ってしまう。コン様が慌ててメニューを見ているすきに、何度も注意を反芻するが、気持ちいいところがジンジンとうずくせいで集中できない。 「僕も同じので、デザートはミニパンケーキ、ドリンクは、えーと、コーヒーで。」 「かしこまりました。それでは、少々お待ちくださいませ。」  深くお辞儀をする。 「あ、コインあげなきゃ。ワカナちゃん、はい。」  テーブルの脇には、コインケースが据え付けてある。そこにはハート形のコインが入っており、ご主人様はチップのようにメイドに心付を渡すことができるのだ。 「わぁ!ありがとうございます!」  両手で嬉しさを表現する。少し大袈裟な方が、次もコインをくれる人が多かった。 「あ、僕も。」  コン様もコインを手に取って差し出す。 「ご主人様もありがとうございます!」  私は、両手を皿のようにして恭しく差し出し、ご主人様達はその上にコインを置いた。分厚いグローブ越しにコインの感触が伝わってくる。 「それでは厨房に伝えてまいりますね。少々お待ちくださいませ。」  受け取ったコインをスカートを模した装甲の一部をパカっと開けて中に入れる。そして、綺麗に一礼してから、くるりと翻って、バックヤードへと滑らかに滑り出した。コインを貰えてつい頑張ってしまったが、急に動いたので、腰がおもわずひくひくと反応してしまった。ベルトで固定されているので、立ち上がらずに済んだが、それは同時に快感から逃れられないことを意味する。不自然に思われないように、止まらないようにペダルを踏んで進む。  他のテーブルも同様に、注文を取り終えたらしく、他メイドたちも同じ方向に動いている。私と同じく、他の皆も進んでは少し減速するのを繰り返しながら、時折止まったりする。側から見れば、ぶつからないように調整しているようにしか見えないだろう。  バックヤードにたどり着くと、私は一度立ち止まって大きく息をついた。ロボットらしく振る舞おうと我慢していた呼吸を取り戻そうと肺が激しく収縮する。しかし思うように空気は入ってこない。吐き出した熱い空気を再び吸い込むばかりだ。はぁ、はぁ、とマスクの中に呼吸音がこだまする。 「注文入力急いで。」  オペレーターの囁きが私を容赦なく動かす。言われるままに、タブレット画面を操作して担当テーブルのところに入力する。少し休憩したいが、わざとゆっくり入力すれば、オペレーターがあれをやりかねない。 「テーブルに戻って。」  入力が終わるやいなやオペレーターは非情にも命令を下す。他のメイドたちも時折びくっと震えながらフロアに戻ろうとしているところだった。追いかけて私もフロアに出る。さっきまで不自然な動きをしていたロボット達は、滑らかに動く機械に戻っていた。


More Creators