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TAKO UNAGI
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短冊に願いごとを

昼前まで降っていた雨が、急にギラつき出した太陽に沸かされて、間も無く日暮れだというのに、サウナのような暑苦しさで街を包んでいる。 「うわ、めっちゃ外やばいっス。大丈夫っスか、先輩?」  私は、エアコンの効いた楽屋に駆け込みながら先輩の様子をみる。先輩は既にほとんど着替えを終えて、後はマスクを被るだけの状態になっていた。丸く開いたタイツの穴から出た顔は恥ずかしさからかりんごみたいに赤くて可愛い。女同士で更衣室はいつも一緒にしてもらえるのは役得だ。 「今回はそんなに長くないから、まぁ、なんとか。つむぎちゃんも熱中症気をつけてね。私のことは気にしないで水分とっていいから。」  優しい先輩が大好きだ。 「了解っス!しっかりサポするっス!」  そう言ったとき、ドアがノックされた。先輩に目をやると、既にパーテーションの裏にパイプ椅子を移動して見えないところに座り直していた。ドアを開けると、お祭りのスタッフが立っていた。 「すみません、今日のゲストのひかるさんがご挨拶したいそうなんですが、大丈夫ですか?」  あとでステージで一緒に出演することになっている芸人さんだ。もう楽屋入りしているのか。まちだひかる。最近出てきた女芸人らしいのだが、名前を聞いたことがあるくらいだ。 「あ、はい。もちろんです!えと、マギピュア変身しちゃった方がいいですかね?」 「あ、えーと、そうですね。そうしていただけると。大丈夫ですか?」 「わかりました。じゃあ、変身してこちらから伺いますね。」 「助かります。楽屋、3階になりますんで、よろしくお願いします。」  ほっとした様子で、スタッフは出て行った。普段は商店街で働いてる人で、イベント運営などには慣れていないのだろう。有名人のアテンドで緊張しているのが、一目でわかるほどだった。 「あのー、先輩?」  恐る恐るパーテーションの裏をみる。 「うん、大丈夫だよ。少し早いけど、挨拶してそのままグリーティング行っちゃおう。」  先輩の顔はさっきよりも赤い。暑いからじゃないのは、私だけが知っている。 「じゃあ、変身しちゃいましょう。」  先輩は黙って頷く。今日はピュアステラという過去作のキャラだ。なんでも、事務所の社長が、ここの商店街組合の会長と知り合いらしく、その関係で七夕祭りの賑やかしに呼ばれたのだった。星をモチーフにしたキャラクターが七夕に合っているということもあって、登場キャラクターがステラになったのだが、なにぶん急遽決まった話で、経験者の先輩が選ばれた。元気でキャピキャピ系なキャラを普段穏やかな先輩が演じるのが見たくて私はサポートに立候補したのだった。 「じゃ、お願いします。」  おずおずと私を見てから、マスクに頭を捩じ込んでいく。固定用の紐をしっかりと結ぶ。既にうなじは汗でしっとりと湿っていた。 「これくらいで大丈夫っスか?」  軽く頷いたのを確認して、ウィッグを下ろして整えると、キラキラの目で満面の笑顔を浮かべるステラが現れた。早速ハイテンションで両手を広げて挨拶してくれる。マスク被った途端にスタッフ相手でもキャラとして振る舞ってくれるところも本当に好きだ。  ピンクと水色の混じり合ったロングヘアに結び目に星の飾りがついた白いリボンがぴんと立っている。瞳も髪と同じく2色のオッドアイでキラキラと星が散りばめられている。大きく開いた口が元気なキャラクターをよく表している。宇宙っぽいデザインのワンピースはエナメルの部分が多くて、当時スタッフたちから暑すぎると苦情が湧いたらしい。確かにこれでは熱がこもって、汗が蒸発できるところが、大きく開いた脇の下くらいしかない。そのうえ、同じくエナメル素材のロングブーツだ。これでアクションでもしようものなら冬でも汗だくになるに違いない。そんなことはお構いなしといった具合で、先輩、いや、ステラは元気に私に絡んでくる。近くで見ると、もう汗染みができているのがわかる。エアコンが効いた部屋ですらこれなのだ。この後のことを考えると、心配もあるのだが、それ以上に楽しみが込み上げてしまう。  扉を開けると、冷房の効いていない廊下は外ほどではないにしろ暑かった。ステラの手を引いて、エレベーターが来るのを待つ間にも、スタッフと書かれているTシャツの背中に汗が染みていくのを感じていた。  楽屋、と言ってもビルの空き部屋なのだが、その扉にはA4サイズの紙が貼られている。「まちだひかる様」。ここで間違いないようだ。少し緊張する。芸能人ってやっぱり我々みたいなスタッフには嫌な態度とかとったりするんだろうか。ふと、繋いだ手がきゅっと優しく握られて、振り向くと、私の顔をステラが覗き込んでいた。心配してくれているらしい。励ますように頭をぽんぽんと撫でてくれた。私は無言で頷いて、ドアをノックした。 「はーい!どうぞー!」  明るい女の人の声が聞こえて、ドアが開いた。開けてくれたのはさっきのスタッフのお兄さんだ。 「わぁ!可愛い!こんにちは!今日はよろしくお願いしますー!すみませんね、わざわざ変身してもらってしまって!本当可愛いわぁ!」  悪い人ではなさそうだ。元気に手を振りながらひかるさんに近づいて、お辞儀をするステラを見て少し安心した。 「娘がよく見てたんだけど、私まで好きになっちゃってね。今日会えるって聞いてめっちゃ嬉しかったんですよ!」  ステラも答えるように嬉しそうなポーズをとっている。 「いや、ほんと、まだ暑いから無理せんといてくださいね!あっ!写真!ツーショ撮らせてもろてもええですか?!」  ステラがうんうんと頷いている。 「あ、良かったらお撮りしますよ。」  「ほんますんません」と繰り返しながら、低い物腰で渡されたスマホを受け取る。 「じゃ、撮りますねー。」  2人でピースの写真を撮る。 「じゃあ、せっかくなんでもう一枚。」  そう私がいうと、ステラはひかるさんに元気よく抱きついて、ひかるさんは喜びの悲鳴をあげて、密着したまま写真におさまった。 「はーい、確認いいですか?」  スマホを返す。うーん、ステラの方からハグしにいっちゃうんだ。嬉しそうに写真を見ているひかるさんに寄り添って、一緒にスマホを覗き込むステラは、キャラの設定通りの可愛さだ。だけど、ちょっと距離近くないかなぁ。

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