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TAKO UNAGI
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人形美術館 一部屋目

 部屋に入ると、広々とした空間の真ん中に、作品があった。真っ白な彫像だ。その形には見覚えがある。ミロのヴィーナスだ。左の方から先、右腕の二の腕の途中から先がないのを見てそう判断したわけだが、その顔はガイドの人形同様に、アニメチックな顔にデフォルメされている。着色前のフィギュアと言ったら分かり良いだろうか。髪型は、毛先にパーマのかかったショートボブにデフォルメされて、現代のアニメに出てきても違和感のないデザインだ。近づいて観察すると、やはり石膏像ではなく、表面は布のようだ。わずかに体を捻ったポーズで固まっていて、胴体の曲線美も再現している。胸の二つの膨らみも本物とそう変わらない大きさと形だ。その先端は少しだけ布地が持ち上げられている。乳首を再現する骨組みは布の裏にあるのだろう。一方でへそは布の上に描かれていた。腰から下を覆う布は、逆に布ではなく、硬そうな素材だ。アンバランスな姿勢を支えるために下半身はがっちりと固めているということか。胸は呼吸するように、微かに上下している気がする。  台座には、さっきガイドが見せたボードと同じフォントの数字で1と書いてあった。ふと振り返ると、メイド人形は、ガラスケースに入っていた時と同じ姿勢でじっと固まっている。まるで、止まった時の中で私だけが動いているような錯覚に陥った。決して涼しくはないこの部屋で、冬でも暖かそうな服を着ていながら、当然ながら従順なガイドは汗ひとつかいていない。 「‥こちらは、ミロのヴィーナスを現代的なデザインの人形で再現した作品です。」  1のボタンを押すと、2秒ほどノイズがして、人形から音声が流れ始めた。話し始めると、ノイズは気にならなくなったが、ずっと消えなかった。もしかするとスピーカーが古いのかもしれない。 「‥ミロス島で発見されたこの像は、ヘレニズム美術の代表として、広く知られていますが、‥」  人形は、休むことなく身振り手振りで、説明しているふうを装っている。 「‥両腕がない状態で発見され、本来の姿がどのようなものだったか、様々な研究がなされてきましたが、未だ謎のままです。しかし、本来の姿を見ることができないからこそミロのヴィーナスは‥」  途切れた腕のパーツを眺めていると、自ずとその先が想像される。ヴィーナスの腕はどこにあるのだろう。 「‥人間らしさに美しさを見出したものとも言えるでしょう。そうしたことを踏まえて、作者は、特に人形の質感にこだわり、生き生きとした美を表現しています。どうぞ、お手を触れて、脈打つばかりの躍動感を感じていただければ幸いです。」  プツッと音がして、ガイド人形が元の姿勢に戻った。そういえば、さっき、観て、触って、とか言っていた。普通の美術館ではまず考えられないが、本当に触っても良いのだろうか。ガイド人形の様子を窺いながら、恐る恐る、肩のあたりに指で軽く触れてみる。まずかったら止められるだろうと思ったが、メイド人形は動かない。  ならばと、首の辺りを手で触ってみた。温かい。そして、しっとりと湿っている。軽く抑えてみると、ドクドクと脈を打っている。「脈打つばかりの躍動感を」などと、本当に脈打っているではないか。鎖骨を5本の指でなぞりながら、柔らかな膨らみへと手を滑らせる。硬そうな顔の素材と、柔らかい首の境目から温かい空気が漏れてきた。真っ白な風船は、どろどろの液体が詰まったみたいに柔らかくて、指が沈みそうになる。下から揉み上げると、胸の陰になっていたところが他よりも濡れていることに気づいた。感触が癖になって、両手でしばらく揉んでいると、手のひらに固いコリコリとしたものが触れた。手を離してみると、さっきは布地越しに微かに見えるだけだった乳首が、ツンと立っていた。どんな仕組みになっているかは皆目わからないが、軽く爪を立ててカリカリと底を擦ると、引き締まった腹がきゅぅっとさらに締まるのが分かった。  そのまま、後ろに回り込み、観察を続ける。後ろからミロのヴィーナスを見たことはなかったので、再現度は分からないが、意外と背中が広いと感じて、片手は胸にまわしてくりくりと優しくつねりながら、背中を撫でてみる。違和感。胸の先端をいじる指の力加減に合わせてぴくぴくと反応する背中の内側は、ゴツゴツしている。もう少し感触を確かめていくと、肩から腰にかけて、2本の柔らかなパイプのようなものが埋め込まれているようだった。なるほど、ここにあったのか。  後ろから抱きしめるようにして、しばらく弄っていなかったほうの乳首も一緒にこねくりまわすと、柔らかかった石膏像が、体をこわばらせて、それから腕の中でびくびくっと跳ねた。胸は激しく上下している。髪と顔の境目から熱い空気が、同じリズムで吹き出してきた。


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