シニンノカゲ:1章part3
Added 2025-04-26 14:36:48 +0000 UTC3. くね子さん (F/F) 羅那たちはいつも通り、放課後を近くのショッピングセンター"トラモール"で過ごしてから学校に戻った。 時刻は、下校時刻をとっくに過ぎた22時過ぎ。 この時間にはもう教職員も残っていない。 結局、怖がっていた澪と歌巴もいる。 自転車通学の澪と歌巴は近くの公園に自転車を停めていた。 二人とも、未来のことを知りたいのか、それとも単に愛維の圧力から逃れられないのだろうかと思う。 愛維は計画通り、旧校舎の鍵を手に入れて来た。 玄関の鍵から他の鍵まで一緒になった鍵の束だった。 羅那たちは裏門からこっそりと校内に忍び込み、中庭の奥にある茂みと木々の向こう──旧校舎へ向かった。 ──現在── 「ねぇ開かない!」 歌巴が慌てて玄関扉を開けようとするが、扉はガタガタと音を立てるだけでびくともしない。 「貸して」 おそらく一番力の強い乃恵が取手を握って押したり引いたり、しまいには蹴っ飛ばしたりする。 しかしそれでも扉は開かない。 扉が内側から開かないなどおかしい。 「やばいかも…」 羅那が呟くと、歌巴が羅那を見た。窓から差し込む月明かりが歌巴の青白く引き攣った顔を映し出す。 もう、帰った方が良いかも知れない。 しかし、帰ることも出来ない。 「窓は?」 叶夢が窓を開けようとするが、窓はまるで石のようにびくともしない。 「仕方ない…割るしかないかな。窓なら割れるでしょ」 叶夢が傘立てに立てられたままの古びた傘を握った。 「待って!そんなことしたら…バレるでしょ」 愛維が慌てて叶夢から傘を奪う。 「そんなこと言ってる場合じゃないじゃん」 叶夢が傘を返すように手を差し出す。 愛維は眉を寄せて険しい顔をした。 「分かった。じゃあそれは最後にしよ」 愛維は言った。 「最後?」 「だから…くだんを見てすぐに帰る時に窓を割って出れば良くない?今の所、扉から出られないだけで何も起こってないし」 出られない時点で、既に何が起こっていると考えるべきなのだが、愛維はそうは考えていないようだ。 叶夢はこれ以上言っても無駄だと思ったのかため息をついた。 乃恵が、叶夢を見て眉を上げた。 「じゃ、じゃあ…早く済ませよっか…」 羅那は言って、廊下の方を見た。闇だ。完全なる闇。 月明かりもない。 「さっきは私もびっくりしたけど…こういう時こそ冷静でいないといけないから…。取り乱したら…余計に良くないことが起こる」 羅那は出来るだけ皆を怖がらせないように言葉を選んだ。 「了解。くだんは…三階のどこかの教室に出るって話だよ」 愛維が上を指した。 羅那たちは廊下を進み、闇に溶けていく。 こうなると誰かがすぐそばにいても誰が誰だか、分からない。 外から見つからないように、明かりは羅那の持っているスマートフォンのライトのみでしかも、明るさは最小だ。 闇の中の階段を上がる。 よく見えないが、外観の通りやはりそう古くない建物に思える。 ここで、生徒たちが失踪したのだ。 まさに、この建物の中で。 そう思うと、羅那の足から少し力が抜けそうになる。 静かだ。 いろんな音がよく聞こえる。 白い息を吐く音。 階段を登る足音。 何故だかどれも、余分に多く聞こえる気もする。 三階についた。 「ここの教室の…どこかに…いるんだよね」 後ろの乃恵が囁いた。 羅那は頷く。 ──本当に、いるのか。 くだんにしても、何にしても、何かがいるにしては、何も感じない。 神経が研ぎ澄まされているせいか、ちょっとした物音が気になることはあるけれど、何かの気配はないように思う。 もっとも、羅那の霊探知能力など大したものではないのだが。 羅那はゆっくりと歩き出し、一番近くの教室の引き戸を開けた。 羅那が躊躇なく戸を開けたので、歌巴がひいと声を上げた。 戸の向こうの教室の中は、机と椅子がきっちりと並べられたままで特に変わったところはなかった。 数年前までここでも羅那たちの通う校舎と同じように授業が行われて、昼休みになったら生徒たちがお昼ご飯を食べていたのだと思うと、なんだか寂しい気持ちになった。 次の教室も、その次の教室も特に不審な点はなかった。 そして、三階の一番端っこの教室までやってきた。 ここにくだんがいなかったらおしまいだ。 愛維も諦めがつくだろう。 羅那はゆっくりと戸を開けた。 戸の向こうから、なんだかむっとした空気が漏れて来て、羅那の顔を撫でた。気がした。 「ここが最後か…」 澪が少し安心したように言った。 澪にぴったりくっついて離れない歌巴も少しずつこの旧校舎に慣れて来ているようで、表情が和らいでいた。 この教室も、机や椅子が綺麗に整頓されており、特に変わった点はないように見えた。 当然、くだんの姿も──ない。 「何もないね…」 羅那がそう言うと──。 「ねぇこれ…」 乃恵の声がした。 乃恵の方を振り向くと、乃恵が黒板を見つめていた。 「なんか…書いてない?」 「どれ?」 羅那はライトを黒板に向けた。 白い明かりが、黒板に描かれたその白い文字を映し出した。 黒板には─── "くね子さんが出る" …そう書かれていた。 途端に、羅那の全身の毛がふわりと逆立った。 「くね子…さん…?」 羅那がその名を読み上げた時だった。 生臭い香りがどこからか香って来た。 臭いを辿るように、羅那が黒板の上を見上げると──。 それはぶら下がっていた。 白い蛇のようなもの。それがいくつか絡み合ったような──肉体。 首や手脚は異様なまでに長い。まるで、無理やり引き伸ばされたように。 長い首の先についた顔には、笑っているような、苦悶の表情にも見えるような不気味な表情が貼り付けられている。 薄汚れたセーラー服を着たその物体は、油ぎった黒い髪を揺らして、天井にぶら下がっている。 羅那の心臓を冷たい風が冷やす。 誰かの絶叫が響いた。 がたがたと机や椅子が倒れる音がする。 羅那は固まっていた。 蛇のように伸び切った四肢を絡めて天井から垂れているこの人ならざるものを見つめたまま。 「羅那!」 乃恵が羅那を押し退けるように強引に前に出る。 しかし。 手脚の長い女は、その長い腕か脚を鞭のようにして乃恵を弾いた。 乃恵は突き飛ばされ、机と椅子に激突した。 愛維は悲鳴を上げ、すぐに後ろへ下がった。 羅那の手首に、女のヌメヌメとした長い腕が巻き付く。 「羅那ちゃん!」 叶夢が羅那の肩を掴む。 だが、羅那は凄まじい力で天井まで引き上げられた。 そしてそのまま、羅那は教室の奥にあるドアの向こうに引き摺り込まれた。 ドアがびたんと強く閉まる。 生臭い女が、羅那の身体に大蛇のように四肢を巻き付ける。 羅那は全く身動きが取れない。 ──みんな、逃げて! そう叫びたくても、上手く言葉を発せない。 ねぇね──。 生臭い息と共に女の口が開く。 わ ら わ せ て い い ? 細長い指が羅那の腋の下にずるりと入り込んでくる。 「ぎゃっ!?」 腋の下に走る強烈な不快感に羅那は腋をぎゅうと閉じる。 しかし、細長い指は既に腋の下に差し込まれており、抜けることはない。 ──笑って。笑って。笑って。 女は乾いた声で囁きながら、細長い指を折り曲げ、モニュッと腋の下をひと揉みする。 指先と硬い爪の先が、腋の下のこちょばゆいところに食い込む。 「にゅあ"っ!!?」 羅那は思わず口角を吊り上げ、笑い声を吐き出しそうになる──が、寸前で堪えた。 怪異相手に笑い声を発することは禁物だ。 生命力を持っていかれてしまう。 モニュッ。モニュッ。生白くて細長い指が繰り返し、腋の下の神経に食い込む。 「あっ!?ちょっ!?ああっ!!?」 寒気が染みるように広がっていく。 恐怖とくすぐったさの混じった寒気──。 口が開いてしまうたび、羅那は慌てて歯を食い縛る。 それでも、モニュッモニュッと爪の先が腋の下に食い込むたびに発生するくすぐったさの波に、顔が弛む。 ねぇね──。 女がまた、か細くて掠れた声を出す。 ──なんでなんでなんでなんで。 女は壊れたように繰り返す。 ──笑ってくれないの? 腋の下に差し込まれている手。細長い指の関節がガシッと折れ曲がり、爪の先っちょがグッとしっかり腋の下に食い込んで、指先と爪の先とが神経を捉えた。 「ああああっ!!?」 顔の筋肉がゆるゆる弛む。 ──笑って。 消え入るような冷たい声と共に、女は素早く指の曲げ伸ばしを繰り返し、ワシワシワシワシワシワシワシワシワシワシワシワシワシワシワシワシッ!!!っと腋の下を掻きむしった。 耐え難い不快感が、刷り込まれる。 「ぐぷぷっ!!?ぷっっはははははははははははははははははははははは!!?あははは!?やだっ!?あっ!?っはははははははははははははははははは!!?しまっっ…!?っっははははははははは!!!」 羅那の口が大きく開き、口角がぐいと吊り上がる。 身体中の筋肉が一気に弛緩して、腹の底から笑い声が迫り上がってくる。 こうなったらもう、止まらない。 羅那は腋の下に注がれるくすぐったさを体外に発散すべく、笑い声をぶちまける。 ──もっと。もっと。もぉっと。 女は掠れてはいるが、高揚したような声を発し、異様に細長いその指を素早くワシワシワシワシガシガシガシガシと動かして腋の下をめちゃくちゃにする。 「ぎゃはは!?ははははははははははははははははははははははははは!!!やめっっ…!!触らっっなっっっぃでぇっ!!っっははははははははははははは!!」 いくら身を捩っても、蛇のような身体からは抜け出せない。 女は、羅那をさらにぎゅうぎゅうに締め上げる。 乃恵たちが、外からドアを叩く音が聞こえる。 ──ちょおだい。ちょおだい。ちょおだい。 女は灰色の唇を大きく開いて、羅那の口から溢れ出る笑い声を美味そうに吸い上げながらガシガシと腋の下の神経を犯していく。 「ひゃはははははははははは!!?やめっっ…!!?んふふふふっ!!?んふふふふふふははははははははははははははははははははっ!!?」 笑えば笑うほどに、羅那の中にある生者である証が吸い取られていく。 ──もっと。もぉっと。 女の身体がズルズルと動いて、羅那の腕に巻きつき、羅那はバンザイの格好に縛り上げられた。 「うあっ!?」 既にたっぷりとくすぐられてこそばゆさの染みている腋の下をばっくりと開いたまま固定された羅那の背筋に寒気が走った。 ──これは、不味い。 シャツの中に、女の蜘蛛の足のような細長い指が忍び込んだ。 「ひっ!?」 羅那は恐怖に顔を歪め、短く息を飲んだ。 女の細長指が、歩くようにトコトコこちょこちょと腋の下へと這い上がってくる。 「だ、ダメダメっ!!ダメっ!!やだっ!!やだってぇっ!」 指先が、爪の先が素肌の腋の下に触れてくすぐり動き出したら──? 考えるだけで、ヤバい。 羅那は力いっぱい暴れ、もがくが、女の軟体類のような不気味な肉体拘束からは逃れられない。 羅那は完全に、この大蛇の獲物である。 「貴女はっっ!!誰なのっ!!ねぇっ!!っひひひっ!?」 この怪異が、本当に怪異で、元は人間だったのならば──。 生者だった頃の記憶を呼び覚ますことができれば少しは隙を作れるかもしれない。 簡単なことでは無い。羅那はこの不気味な女について何も知らないのだ。知っていても、その心に訴えかけるなど並大抵のことでは無い。 それでも、やるしかない。 腋の下に近づく女の指が僅かに鈍った──気がした。 ──効果あり? 羅那が安堵しかけたその時、きんと耳鳴りがした。 違う。 耳鳴りでは無い。 呻き声だ。 この、女の──。 怒りの滲んだ真っ赤な呻き声が羅那の鼓膜を刺した。 羅那の顔から脂汗がどわっと噴き出す。 羅那は今、この怪異を下手に刺激してしまったということを理解したのだ。 恐怖の指が、トコトコトコトコトコトコトコトコトコトコトコトコトコトコこちょこちょこちょこちょと素早く這い上がってくる。 「やだっ!!だめっっ──」 女の両手の十の指が、腋の下にずるりと滑り込み、その薄い表皮に爪を立て、コショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショ!!っと引っ掻き回した。 腋の下で、こそばゆさの暴力が爆発する。 「わ"ぁーっ!!?やなんだってばぁぁあああああああああああ!!!あはは!?あははははははは!!!うわぁぁぁあははははははははははははははははははは!!それダメっ!!ぁぁぁああああああ!!!」 腋の下に凶悪なくすぐったさを生の皮膚に注入され、羅那は壊れたように暴れた。 暴れたことで発生している凄まじい熱気が、羅那自身を襲う。 制服越しでも十分にくすぐったかったというのに、直に素肌をくすぐられるこのくすぐったさは凄まじいものだった。 女はただがむしゃらに激しく指を動かしているのでは無い。 伸びた艶やかな爪の先で滑らかに表皮を引っ掻き、奥の神経を刺激し、すぐさま指の腹で爪の先とは違う刺激を送り込んでいる。 全てが計算されたような絶妙なタッチで執行される。 こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!! コショコショコショコショコショコショコショコショコショコショ!! 「ふふふふふっ!!?ふはははははははははははははははははははははは!!はぁーっ!!はぁっ!!はぁっ!!やめてっ!!お願いっっ!!ねぇっ!!っっははははは ははははははは!!!うくっっ!!くくくくっ!!」 女の伸びた身体によって巻きつけられ、羅那は最低限の動きのみで腋の下に注がれるくすぐったさを外部に発散しようと試みていた。 しかし、そんなものは無駄だ。 だから、歯を食い縛って笑いを押し殺そうとした。 そうすると──。 ──怖い顔、しないでくださいね。 女の真っ黒な口が、羅那の目の前にあった。 その口の向こうから、掠れてはいない、冷たい声が囁いた。 羅那が唖然としていると、女は羅那の顔を灰色の舌でべろりと舐め上げた。 「うえっ!」 ドブのような、ヘドロみたいな最悪の臭いが羅那の鼻腔に流れ込んできて、羅那はつい口を開いてしまう。 ──笑ってください。 醜く恐ろしく変形したその顔の半分以上を占める黒い口の向こうから、また、声がした。 ワシワシワシワシ!!! こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!!! 女の爪の先が、羅那の白いお腹をワシャワシャこちょこちょ掻きむしった。 「あっ!!?おぇっ!?あはっ!?あははははははははははははははははははははははははっ!!?けほっ!!こほっ!!?っっははははははははははははは!!」 開いていた口の口角は呆気なく吊り上がり、羅那は再び笑い地獄に落とされてしまう。 顔や鼻の周りにこびりついた女の唾液の臭いが笑うたびに羅那の鼻腔を刺激する。 ──たくさんたくさん笑ってください。 ──笑って。笑って。 掠れた声と透き通り過ぎている冷たい声。その両方が重なり合って羅那に笑い苦しむよう強制する。 ワシワシワシワシ!! こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!! 横っ腹のところを爪で細かくこちょこちょしたり、下腹部を激しく引っ掻き回し──羅那から酸素と生命力を吐き出させる。 「はっ!!?ははっ!!?けほっ!?おぇっ!!っっへへへへへはははははははははははははははははははははは!!!やめっっ!!お願いっっ!!っっははははははははははははははは!!?」 笑っていけないと分かっているのに、このくすぐったくて堪らないツルツルの爪の先が腹部を引っ掻くと、馬鹿みたいに笑ってしまう。 女は羅那の腹部をくすぐり尽くすのに夢中だ。 自分の爪の先が、生者の腹部をくすぐり壊す様を覗き込むようにして見ている。 「いひひひひ!!?いひはははははははははっ!!?はははっ!!?はっっ!!?っっっっ!!!っぅはははははははははははははははははははははははっ!!?」 ぎちぎちに拘束されていた羅那の片腕が、女の蛇のような身体からするりと抜けた。 何故、そうなったのか分からなかったが、逃げるなら今しかない。 羅那が慌ててもう片方の腕を引き抜こうとしたその時だった。 女の首がぐりんと回転し、羅那の方を向いた。 その、血など流れていないはずなのに異常なまでに血走った目が羅那を見つめている。 ──悪いやつだなぁ。 女は別人のような声を鳴らした。 足首がにゅうっと伸びてくる。 異様に細長い足指だ。まるで、手の指のような──。 細長い足指はくねくねとうねりながら、羅那の骨盤の窪みに狙いを定めた。 細長い足の親指がどすっと骨盤の窪み──くすぐったい神経の溜まりのあるツボ──に打ち込まれる。 「ひあっ!!?」 羅那の身体からひゅんっと力が抜ける。 グリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリッ!!! 足の親指は信じられないほど器用に動いて、骨盤のツボを指圧した。 「にゃ"っ!!?んぉぉおおおおおおおおっ!!?ほほほっ!!?ほははははははははははははははははははははははっ!!?やっ!?ちょっ!?おほほっ!!?ほほほほほほはははははははははーっ!!?」 羅那の身体がビクビクと痙攣する。 骨盤のツボを容赦なくグリグリと抉られ、腰が抜けそうになる。 涙がじゅわじゅわと溢れ出して、頬を伝う。 力がひゅるひゅると抜けていく。 ──お仕置き。お仕置き。悪い子にはお仕置き。 女は歌うように言いながら、手の爪で腹部を、足の親指で骨盤のツボをほじくる。 ワシワシワシワシワシワシワシワシワシワシ!! こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!! グリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリ!! 「あへへへっ!!?へへへへへへははははははははははははははははははははははははははっ!!?だめっっ!!?無理っっ!!!ひぎぃぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!?」 完全に脱力させられた羅那を、女はその軟体類のような身体で再度拘束した。 今度は腋を閉じさせ、両手両脚とも伸ばした状態でぐるぐる巻きにしてしまう。 さらにスカートをずり下ろされ、お尻を丸出しにされた。 こうなると嫌な予感しかしない。 羅那は自分の顔から血の気が引いていくのが分かった。 羅那は既にかなりの生命力を削られている。 このままでは本当に、本当に── ──連れて行かれてしまう。 絶望し、息をするのも忘れていた羅那の耳元で、あの、透き通るような声がした。 諸君ノ 中ヲ覗カセテ 中ノ"タマ"ヲ ちょおだい。 羅那の口にずぼっと女の細長い指が捩じ込まれる。 「おぇっ!!」 羅那は慌てて口を閉じるがもう遅い。 指はにゅるにゅると伸びて、羅那の喉の奥まで侵入する。 「おぇっ!?あっ!!?」 羅那は涙を流しながらビクビクと跳ねる。 ──笑って笑ってぇ。 女は、羅那の剥き出しのお尻にぞわぞわぁっと爪を這わせた。 「お"ぉっ!!?おぇっ!?ぇへへへへへへへへへへへへへっ!!?」 羅那のウィークポイントであるお尻に走ったくすぐったさは凄まじく、そのくすぐったさが嗚咽を凌駕する。 だらだらと冷や汗が垂れる。 やばい。 この状態でお尻をくすぐられるのは──。 女は、絶望の淵に立つ羅那を突き落とした。 剥き出しの尻へのくすぐりをもって──。 ゾワゾワぁ… コショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショぉ…!! 「うひひひっ!!?んひひ!?ひひひひひはははははははははははははははははは!?おぇっ!!ぇっ!!?ぇっ!!え"っ!!」 女の細長い指がねっとりと動き出し、ゆっくりと爪の先でお尻に張り巡らされた敏感な神経を掻く。 爪のひと引っ掻きが、羅那を震わせ、笑わせる。 女は羅那が笑うたびに、喉に突っ込んだ指をうにょうにょとさせている。 まるで、腹の底の命そのものを引き摺り出そうとしているかのように。 ゾワゾワ…ゾワゾワ… コショコショコショコショコショコショコショコショコショコショ…!! 爪の表面でゾワっと尻をなぞったり、爪の先でゆっくりと尻の表面をくすぐる女。 「ふふふふふふはははははははははははははははははははははははは!?おぇっ!!けほっ!!?こんなっっのっっ!!?くふふふふはははははははは!!?」 尻へのこちょこちょは大嫌いだが、そうは言ってもこのレベルならばギリギリ、本当になんとかギリギリ耐えられるかも知れない。 羅那がそう思ったその時だった。 こちょりっ!! 「ぁんっ!!?」 羅那は甲高い声で鳴いた。 突然、お尻の尾てい骨のところを爪の先が引っ掻いたのだ。 ここにはとてつもなく敏感な神経が詰まっている。 「はぁはぁっ!!おぇっ!!?まっで!!お願いっっ…!!そごはっっ…!」 羅那がだらだらと唾液を垂らしながら懇願するが、女は掠れたような息を漏らしただ── その尾てい骨のウィークポイントをくすぐり殺した。 カリカリカリカリカリカリカリカリ!! こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!! 「え"っ!!?うえええええええええええええええええっ!!?おひょひょっ!!?ひょひょひょ!!?ひょははははははははははははははははははははははははは!!?」 羅那の白いお尻がぷりぷりと激しく揺れる。 そうすると、女は他の指の爪を尻の表面にセットする。 こうすることで、羅那がお尻を振るたびに勝手に爪がお尻の上を滑るのだ。 クリクリクリクリカリカリこちょこちょ! コショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショ!! 「けほっ!!!ほへぇっ!!?へへへへへへっ!!?あははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!?しぬっ!!?しぬぅっ!!?おひょほほほほっ!!?」 尻をこちょこちょされているだけだというのに、羅那は情けないくらい鳴いて、尻を振って、髪を振り乱す。 ──ちょおだい。ちょおだい。 物をねだる子供のような囁きと共に、残虐な尻へのくすぐったさが炸裂する。 女の爪の先は、カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ!!と尾てい骨のポイントを引っ掻き、こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!!っと全体を嬲る。 「ぶへへへへへへへへっ!!?おぇっ!!!っっへへへへへへへへへへへへへ!!誰かっ!!?助けっっ!!っへへへへへへへへへへははははははははははははははははははっ!!?」 酸欠とくすぐったさによって霞がかった羅那の視界にばちんと火花が散った。 身体を締め付けていた女の四肢や胴体がするすると抜けていく。 羅那は床に伸びたまま、何度も咳き込み、嗚咽した。 もう喉に指は無いし、お尻に爪も這っていない。 大きく咳き込んで、体内に溜められていた生臭くて厭な空気を思い切り吐き出した時、羅那はそこでようやくこの奇怪な状況を把握しようと思えた。 あの女は一体何者だったのか。あの女はどこに行ったのか。何故、逃げて行ったのか。 そもそもこの部屋は──。 羅那があたりを見渡すと、きらりと光る何かが床に落ちているのを見つけた。 布に包まれたカクカクとした薄べったいもの。 それは、煙を放っていた。 羅那はそれを見て、安堵した。 あれは、少し前にとある神社で貰った護身用の退魔具のカケラ──ガラス片に霊力を込めたもの──だ。 護身用に制服に忍ばせていたものが役に立ったようだ。 羅那がカケラに手を伸ばした時。 何かが擦れるような音がした。 ヌメヌメとした柔らかいものが擦れる音。 その音を辿るように、羅那が顔を上げると──。 ──真っ暗闇の天井に── ──崩れて糸のようにぶら下がった蜘蛛の巣の成れの果てのように、そいつはいた。 心臓のあたりから力が抜けるような感覚が羅那の全身に広がった。 再び、全身が恐怖の冷気に支配される。 女は、液体のように流れ落ちて来た。 だらりと伸びた長い腕で、羅那の両腕を押さえつける。 羅那の身体はあっけなく仰向けに倒される。 「いぃっ!?やだやだやだっ!」 脚をばたつかせ、なんとか抵抗しようとする。 恐怖。嫌悪感。そして、くすぐりへの拒絶感が羅那を襲う。 女はべろべろじゅるじゅると自身の唇を舐め回しす。 ──それちょおだい。 羅那の口に、ぶっとくて長ぁい舌が捩じ込まれる。 「ん"ぉっ」 長い舌と共に、女の喉の奥からどぼどぼと汚水のような液体が流れてくる。 「んんっ!!?」 女は羅那に抱きついて、横っ腹や肋骨の神経をほぐすようにゴリゴリゴリゴリッゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョ!!っとくすぐり犯した。 「ぶぶっっ!!?ぼほほっ!!?んぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!!?おほほほほほっ!!?お"っ!!?おお"っ!!?おおおおおおっ!!?」 汚水とくすぐりの合わせ技に羅那は死にそうになっていた。 苦しい。苦しい。苦しい。 苦し過ぎて、羅那はびたびたと手足で床を叩いた。 女は、興奮したように鼻息を立てながら、捕らえた獲物である羅那の腋の下を爪でこちょぐる。 ゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョ!!! 「ぶぶぶっっ!!?ごほっっ!?おほっ!!?ほっ!!?おほほほほほほほほほほほほっ!!?ごほほほほっ!!?ほふっ!!?っっほほほほほほほほはははははは!!?ほんどにっ!!助けっっ!!?あっっっ…!!?」 鼻から汚水が溢れ出す。 このままでは、笑い死ぬ前に溺れ死ぬ。 脳にまでドブのような臭いが満ちていく。 その時。 ドアが勢いよく開いた。 叶夢が女に掴み掛かり、女は羅那を離して天井に逃げた。 乃恵が羅那の腕を掴んで力づくで部屋から引き摺り出した。 羅那が部屋から出ると、すぐに叶夢がドアを閉じ、近くの教卓を使ってドアを封鎖した。 羅那は呆然としていた。 まだ、助かったと言う実感がない。 口の中と頭の中に充満しているヘドロ臭さで吐きそうだった。 乃恵と叶夢にお礼を言う余裕もなかった。 「愛維。もう出よう」 乃恵が強く言った。 愛維は首を縦に振らない。 「愛維…!」 乃恵がもう一度言う。 「今帰ったら、もう二度とここには来れないでしょ」 愛維は声を僅かに震わせた。 こんな目に遭ったのだから当然、もうここには来ない。 あとは退魔師に任せることになるだろうと思う。 「ここまで来たんだから…見たいよ私。くだんをさぁ…見るだけでいいから…!」 愛維は肩を震わせ、感情を剥き出しにしている。 まるで何かに取り憑かれたかのように。 これはよくない。 絶対にもう、帰った方が良い。 羅那は半身を起こした。 そして──。 あの女のいる部屋へと続くドアががたがたと鳴った。 アイツが。くね子さんが来た。 「けほっ!!こほっ!!出よう…みんな…!」 羅那はそう言って立ち上がる。 もう愛維の気持ちがどうとかそんなことを言っている場合ではない。 羅那たちが廊下に向かって走り出すが、愛維はそこにいるままだった。 「愛維!なにしてんの!」 乃恵が叫ぶ。 「あれが…あの女がくだんってことはないの…?」 愛維はぼうっとドアの向こうを見つめる。 「違う!くだんは牛の…」 「それ噂かも知れないでしょ。実際はあんな姿なのかも…」 今の愛維には羅那の言葉さえ届かない。 「馬鹿…」 乃恵が引き返して愛維の手を掴んで教室から無理やり引き摺り出した。 羅那たちが教室から飛び出してすぐ、ドアが吹き飛ぶような激しい音がした。 「やばい!やばい!」 歌巴が泣きながら叫ぶ。 「落ち着いて!落ち着いて!」 落ち着いて一階まで降りる。そしたら窓を割ってでも外に出る。それで良い。それで良い。それしかない。 飛び降りるように階段を降りていく。 いまが何階なのかも分からない。 とっくに一階に降りているような気もしていたけれど、それでも必死に降りた。 階段を降り切った。 「窓!割らないと!」 羅那が言うと、叶夢が素早く昇降口に走った。 そして叶夢はごくりと息を飲んだ。 「傘…ない!」 叶夢は絶望の顔を浮かべてそう言った。 がしゃんと何かが割れるような音がした。 直後。 何かが空を切る音と共に、耳をつんざくような金切り声が響いた。 悲鳴。 恐怖に満ちた悲鳴だ。 何かが宙を舞っていた。 そのそばに── 誰かが立っているのが見える。 羅那と同じ西倉山高等学校の制服を着ている。 だが誰かは分からない。 暗闇のせいではない。 それが誰かを識別するために最も重要なもの。 "頭"が、無い。 ごとり。と何かが床に落ちる音がした。 生ぬるい液体が羅那の顔に、制服に飛び散った。 血生臭い香りが、羅那の鼻腔にこびりついていたヘドロの臭いをかき消した。 ──みんな。逃げて! 羅那は喉が裂けるほど強く、きつく、叫んだ。 扉は開かない。 窓を割ることができるものもない。 「上!上に逃げよう!」 一旦、旧校舎から出ることは諦めるしかない。 どこか身を隠せる場所を見つけ、窓を割れるものを探すのが賢明だ。 羅那は床に広がった血のぬめりで転びそうになりながら、転がるように走り出した。 死にもの狂いで階段を駆け上がる。 どたどたと一体何人分の足音かも分からない音がしている。 なんとか三階まで駆け上がった時、羅那は信じられないものを見た。 「あれって…」 羅那の視線の先にあったのは、三階にあるはずのないもの。 昇降口と、玄関の扉。 「なんで…」 羅那は恐る恐る振り向いた。 そこには、自分が上がって来た階段ともう一つ──さらに上へと続いている階段があった。 ここは三階ではないのか。 だったら、さっきの一階は、どこだ。 頭がおかしくなりそうだった。 下から、何かが迫って来ている。 恐ろしく邪悪な何かが。 「開いた!」 扉の方から叶夢の声がした。 深く考えている暇はない。 今はとにかく──ここから出ないといけない。 羅那たちは流れるようにして外に出た。 全員が外に出ると、乃恵が扉を勢いよく閉める。 羅那たちは全員、玄関前で崩れ落ちた。 外の冷たい空気をたっぷりと肺に取り込んで、息を整える。 ようやく少し落ち着くと、すぐにあの惨劇が頭をよぎった。 誰が。 誰が、殺された? あの時、何者かに誰かが首を──切り落とされていた。 羅那の横には叶夢が、その後ろには怯え切った澪と歌巴が。 そして扉を背中で押さえつけるようにして乃恵が。 少し離れたところで肘をついて呆然としている愛維が。 みんな、いる。 見間違いだったのか。 皆、互いの顔を見て目を剥いている。 全員、羅那と同じことを考えているに違いなかった。 皆、見たのだろう。 あの惨劇を。 聞いたのだろう。 あの悲鳴を。何かが空を切るような音を。 浴びたのだろう。 あの血を。 「なんだったの…」 澪が唇を震わせた。 羅那は自分の制服を見た。 そこには一滴の血も染みていなかった。 この夜が全ての始まりだった。 のちに引き起こされる惨劇の全ての──。 『シニンノカゲ〜死んでるのだーれだ〜』 〈始〉
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reoさんありがとうございます! そうですねー…愛維がやたらとくだんに会いたがるのには何かしらの理由がありそうです。そうでないとあそこまで執着しないような…。 くだんの駄菓子屋にもくだんが登場しましたが果たして今回の妖怪くだんと関係があるのかないのかは…最後の方で分かると思います! そうなんですよね…羅那がくだんの噂を知らないというのはなんだか引っ掛かりますよね。意外と自分の通う学校の噂には疎いのかも知れないですが…。 今作はしっかり青春もホラーも描写していくつもりです!久しぶりの羅那の物語にぜひ最後までお付き合い頂けると幸いです!
Kara
2025-05-05 15:59:20 +0000 UTCwalvさんありがとうございます!羅那を出すからにはやっぱり初っ端でくすぐられてもらわないと!です!そしてくすぐられるならやっぱりお尻も…! 他のメンバーにもきっと災難が降り掛かると思うので…その都度入れられそうなところにはお尻こちょこちょを入れて行こうと思いますー!
Kara
2025-05-05 15:56:55 +0000 UTC愛維がくだんに会いたがるのは、何か理由がありそうですね。 くだんと言えば、古賀岬の過去編にくだんの駄菓子屋が登場してましたが、何か関わりがあるのでしょうか。 オカルト好きの羅那がくだんの噂を知らないのは意外でしたし、くだんには何か秘密がありそうな気がします。 このシリーズは青春ホラーミステリーって感じで面白そうですし、次回の投稿も楽しみにしてます。
reo
2025-05-03 09:48:26 +0000 UTC羅那の話なので期待してましたがやはりお尻責められてて可愛かったです!!くすぐったくてぷりぷりお尻振るの最高です!! 他のメンバーにも羅那と同じ様な目に遭ってしまうのか今から楽しみです。
walv
2025-04-27 12:29:19 +0000 UTC