シニンノカゲ:3章part4(F/F)
Added 2025-06-21 13:38:15 +0000 UTC4. 怪異尋問家 (F/F) 女は不愉快そうにぎろりと水羽を睨んでいる。 美しくも鋭い、氷のような目だ。 カーキグレージュに染められた長い髪。前髪はかき上げられている。 スーツ姿の長身の女は、 特殊事案心霊対策課刑事の"寒川 真冬(さむかわまふゆ)"。 「貴女…鈴湖神社の…」 寒川は水羽を見て少し眉を上げた。クールな見た目に反して、思ったより表情が豊かだ。 以前どこかの現場でもこの寒川とばったり遭遇したことがあった。 水羽は、見た目が派手であるが故によく覚えられてはいる。 「どうして貴女がここにいるのかしら。ここの調査は警察に任されているはずだけれど」 寒川を腕を組み、じっと水羽を見据える。凍てつくような視線だ。とても、直視は出来ない。 「噂に聞いたというか…だから地元の退魔師として放っておけなくて」 「そんな話は聞いてないわ」 「はっ…?っっていうか、特霊課が動いてるとか聞いてないけど?そっちだって勝手には動いちゃだめなんじゃないの?」 「ええ。確かに…本来は通常の捜査を終えてから私たちが動く方が望ましいわ。だけど…今回の件は…まぁいいわ。とにかく貴女が不法侵入していることは確かだから…取り調べさせてもらおうかしら」 寒川の手がすうと動く。指にはめられた何かがぎらりと光った。 水羽は身構えた。 じわぁっと、冷や汗とも脂汗ともつかない汗が、大量に背面を濡らした。 「──遅いわ」 寒川がそう言ったかと思うと、暗闇の中の寒川の白い手がひゅんと空を切って動いた。 ぎらりと光る何かが闇を切るように飛んでくる。 闇の中でも光るそれは、銀色の──指輪。 水羽がそれを指輪であると認めた時、指輪はどろどろと溶けるように液状化し、輪となって水羽の胴体をがしゃんっと締め付けた。 「うっ!?」 "気をつけ"の姿勢のように、腕ももろとも締め付けられ、水羽に抵抗する術はなかった。 足音をほとんど立てずに寒川が迫ってくる。 ──あぁ。やばい。 やばい。水羽は、己の非力さとこの状況のヤバさに頭がくらくらした。 「ごめんね。退魔師として良いところ…見せる暇もあげられなくて」 知らぬ間に背後に回っていた寒川がとんと水羽の膝を蹴った。 「うわぁっ!」 気をつけの姿勢のまま拘束されている水羽はバランスを取れず、膝を曲げてどさりと座り込んでしまう。 最悪だ。 よりによって"怪異尋問家"の異名を持つ寒川に捕まるなんて──。 「さて…どうしてここにいるのか…教えてもらおうかしら」 寒川が水羽を見下ろした。 「さっきも言ったけど…調査のため…」 寒川の威圧的な声色に、つい喉が震えてしまう。 「調査?」 「この校舎にまつわる噂の検証…だけど」 「貴女は部外者のはず。それなのにどうしてそんな噂を知っているのかしら」 「風の噂で聞いただけ。この町…そんなに大きくないからね」 水羽が出鱈目を言うと、寒川は水羽の前で屈んだ。 「誰かに頼まれたとか」 「い、いやそれは…」 射すくめるような寒川の目によって、まともに答えられない。 「正直に話しなさい。でないと…こっちも手段を考えないといけなくなる」 寒川は、長身に見合った細くて長い指を曲げ伸ばしした。 「退魔師なら…何をされるかくらい分かっているでしょう?」 寒川はそう言って、水羽の折り畳まれている膝の表面をぞわり、と爪で撫でた。 「んひっ!!?」 爪の先が膝の表面を撫で、寒気を含んだくすぐったさを刻む。 水羽は慌てて声を押し殺す。 「い、今時…拷問するつもり!?時代錯誤とかいう次元じゃなくないっ!?」 「こちょこちょ遊びは拷問なんかじゃないわよ」 寒川はとぼけた口調で言って、細長い指をこちょこちょと膝の上で踊らせた。 「ふぎぎっ!!?んっっっ!!?」 水羽は唇を結んで、うんと仰反る。 「これは尋問。相手をリラックスさせ、正直に物事を話させやすくするための──コミュニケーションよ」 寒川は、とんっと爪の先をしっかりと膝の表面に添える。 ぞくりとしたくすぐったさが膝に突き立てられ、水羽は身構えた。 コショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショ…!! 滑らかに指が踊る。 爪が、表皮をくすぐる。 「ぷくくくくっ!!?くっ!!?ちょっ!!?くくくくくくっ!!?」 ゾワゾワぞくぞくとした嫌なくすぐったさが走り回り、水羽は肩を震わせた。 「退魔師なら…くすぐりへの耐性をつける訓練は積んできているでしょう。でも…こういう小さな刺激を積み重ねる責めへの訓練は未経験だったりする」 寒川の指は柔らかく滑らかにうねり、爪の先で確実にくすぐったい刺激のみを与えてくる。 コショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショ…!! 「ふふふふひひひひひっ!!?くくくくっ!!?や、やるならっっ!!思い切りっ…やればっっ…!?っっひひひひひひひひ!!?」 水羽はくすぐったさで弛む表情筋を無理やり締め付けながら啖呵を切って見せた。 「お気遣いありがとう。でも…せっかくだから…徐々に指を温めていくことにするわ。それに──」 寒川のしなやかな手が太ももに滑る。 「──貴女もその方が我慢できるんじゃない?」 正座の状態で筋肉が伸びた太ももの表面に爪が立てられ、こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょと指が這い回る。 「ひゃっ!!?うひゃひゃひゃひゃっっ!!?ひゃひひひひひひはははははははははははは!!?うわははははははははは!!?」 張り詰めた太ももの表面を爪の先がつるつると滑る。 思わず、立ちあがろうとするが腕が使えないのではそれも出来ない。 水羽は上体をぐにゃりと折り曲げた。 「くすぐりは本当に奥深いわね。単に激しく酸欠を引き起こすようなくすぐりも良いけれど…こうしてジワジワと精神を蝕むくすぐりもまた効果的…」 寒川は涼しい口調で言いながら、ゾワゾワと太ももを爪で撫でくすぐり、かと思うとまた膝に爪を戻してコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショとくすぐり回した。 「うぎぎぎぎぎっっ!!?ぎぃぃひひひひひひひひひひひひ!!?ひぃぃひひひひひひひ!!?ちょっ!!?おほほほっ!?ひははははははははははははは!!」 予測不能の寒川の指先に水羽は翻弄され、へにゃへにゃと力の抜けた間抜けな笑い声を上げた。 下半身を這い回る寒川の指と爪という"こちょこちょ虫"をいますぐ払ってやりたい。払わないと、気がおかしくなりそうだった。 「さて…少しは気が変わった?」 寒川はそこで指を止めた。 分かっているのだ。水羽の限界を。 「はぁはぁっ!!変わるも何もっっ…私は単独でっ…」 寒川は目を細めた。怖い目だ。 「貴女、見た目通り…気は強いみたいね」 寒川の右手にはめられていた銀色の指輪がどろどろと溶け、液状となった銀はいくつかに分裂し、指先に走った。 そしてその液は、"銀色の爪"と成った。 「次のは少し…覚悟しておい方が良いかも知れないわ。なんせ…さっきの十倍はくすぐったいから」 寒川は爪を指に馴染ませるように今一度、指を曲げ伸ばしする。 鏡のような銀色の爪がぎらぎら光る。 「えっ…」 水羽が身構える間もなく──寒川はその鏡面の如き銀の爪の先を膝に吸い付かせ、こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょぉーっ!!っと引っ掻いた。 「ぎゃっっ!!?ぎゃはははは!!?ぎゃはははははははははははははははははははははははは!!?うあああああああああああああああ!?」 膝へのくすぐりとは思えない。 叫ばずにはいられないレベルの猛烈なくすぐったさが膝に刻み込まれた。 「うあっ!!はぁはぁっ!!」 銀色の爪が膝から離れる。 たった数秒くすぐられただけで、水羽の息は上がっていた。 膝にはまだ、思い出したくもないこそばゆさと爪の感触の余韻が残っている。 「次に私は貴女の腋の下をこちょこちょくすぐろうと思うけど…」 背後に回り込んだ寒川が言った。 「はぁはぁっ…!趣味悪いんだね…お姉さん…わざわざ宣告するなんて…」 「勿論。これがとっても拷問…じゃなかった…尋問に効果的だからね」 寒川は背後から手をにゅうっと伸ばして、その細くて指を見せつける。 ピアニストの如く長い指だ。くすぐり式の退魔術を極めようとする者なら誰でも欲しがるような手指爪。 爪は程よく伸ばされ、良く手入れされているのが分かる。 「こちょこちょ」 「ひっ!?」 突然、寒川が耳元でこちょこちょと囁き、そのくすぐったそうな指を蠢かせた。 それに反応するように、水羽の身体がびくりと震える。 「こちょこちょ。こちょこちょ」 寒川がこちょこちょと蠢くたび、その指をうねらせるたび、水羽の身体にむずむずとくすぐったさが走り回る。 水羽が首を振って目を逸らそうとすると── 「こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ…」 耳元でさらに激しく早く、こちょこちょと囁かれる。 「ひぃっ!!?」 目を閉じてみる。 すると、こちょこちょボイスがより鮮明に聞こえて神経をくすぐった。 しかし目を開ければ──くすぐったそうな指がくすぐったぁい動きで踊っているのを見せつけられる。 「悪いことは言わない。今すぐ…白状しなさい」 断れば、タダでは済まないだろう。 この、見ているだけでくすぐったい指や爪が本当に自分に襲い掛かるのだろう。 だが、折れれば羅那を失望させるだろう。いや、それ以前に自分のなりたいものから遠ざかるだろう。 ここまで何一つ役に立てていない。ならばせめて身体を張るくらいしない──。 「な、何度も言わせないでよ…私は何も…!!」 水羽が言い終えるより早く── 「残念ね」 寒川がぼそりとそう言ったかと思うと、両手をズクリと閉じたままの腋の下に差し込んだ。 「はぁぅっ!!?」 閉じたままの腋の下に異物感──スベスベで柔らかな感触が捩じ込まれ、水羽は仰け反った。 ワシッと指の関節が折り曲げられ、指先とあの銀色の爪の先とが腋の下の表皮に突き立てられる。 「あぁっっ!!?」 「素直になれるまで…笑いなさい」 くすぐり地獄の刑が宣告され、処刑器具とも言えるあの長い指と銀の爪が暴れ出した。 ガシガシガシガシッ!! こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!!! 「うぶっ!!?ぶひゃはははははははははははははははははははははははははははは!!?ちょっ!!?わっっ!!ワキはぁぁぁぁぁあ!!!っっはははははははははは!!?」 爪の先がしっかりと腋の下の神経をとらえたまま、ガシガシと動いてくすぐったさを掻き立てる。 凄まじく濃厚で暴力的なくすぐったさに水羽はぶんぶんと上半身を激しく揺らす。 「さっき見せた私のあの指と爪の先を思い出しなさい。あの指と爪が…貴女の腋の下をどうしているのか…想像しなさい」 ガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシガシ!! こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!! 「いやぁぁぁぁぁあははははははははははははははははははは!!そっっそんなのっっ言わないっっでぇぇぇっ!!っっへへへへ!!?へははははははははははははははは!!!」 あの大人の指、厚みのある爪が嫌でも思い出される。 そしてそれらが腋の下の表面を掻きむしり、神経をくすぐっている光景が脳裏に浮かぶ。 あれが、あの爪が、指が、今、腋の下をガシガシ掻いて、こちょこちょと掻き回している。 その光景を想像するだけで、くすぐったさが何倍にも膨れ上がる。 「ふぎゃぁぁぁああああはははははははははははははははははははははは!!?くぁっ!!?あっ!!?あは!?あははははははははははははははははははははーっ!!?」 顔の筋肉が完全に弛み、どろどろと涙が溢れ出る。 莫迦みたいに頭を振るしか、くすぐったさを発散する方法がない。 「気は変わった?」 ガシガシガシガシ!! こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!! 「ひひひひははははははははは!!?けほっ!!っっひひ!!?ひははははははははははははははははははははははははは!!!あっっっはははははははははははははははは!!?」 さっきまでのように声に出す余裕もなく、首をぶんぶんと横に振る。 シルバーアッシュの髪が乱れていく。 「そう。なら…もう一つ思い出してもらおうかしら。この…囁きを」 寒川が耳元ですうと息を吸い込む。そして── こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょぉーと歌った。 「はっっ!!?いっっ!!!いやっ!?いやぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!?あっっはははははははははははははは!!?それ嫌っ!!嫌っ!!こちょこちょ言うなぁぁぁぁぁ!!」 耳から注入されるこちょこちょボイスが脳に回り、全神経を震わせる。 くすぐったさがまたさらに膨れ上がる。 「これが嫌?だったらもっと…聞かせてあげる。こぉちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょー!!こちょこちょぉ…こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょー!!」 緩急をつけたこちょこちょボイスが炸裂する。 その奇妙なメロディに合わせた予測不能の指さばきが水羽の腋の下をくすぐり犯す。 「だぁぁぁぁははははははははははははははははははははははははは!!?ひぎぁぁぁぁあはははははははははははは!!けほっ!!けほっっ!!!やめぇぇぇぇへへへへへへへへ!!!」 こちょこちょボイスの加速と共に指の動きも激しくなり、神経に注がれるくすぐったさがさらに暴力的になる。 「あまり大人を舐めないことよ」 寒川は指先を腋の下にグイグイ食い込ませる。 「ぐぁぁぁっ!!?」 水羽は首を曲げ、天井を見上げた。 寒川の指先と爪の先とが、腋の下の奥深くにあるくすぐった過ぎるツボに到達した。 触れられているだけで、叫びたくなる。 「ほら…素直になりなさい」 グチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュ!!! 寒川の指先が、ツボに溜まった神経の塊をほぐす。 「うぉぉぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああっ!!?あひゃひゃっ!!?ひゃっ!!?あひゃぁぁぁぁあああああああああああああああああーっ!!?」 完全にツボをとらえたグチュグチュほじくりに水羽は背筋を思い切り伸ばし、天井に向かって吠えるように叫んだ。 「"私たち"は怪異だけでなく貴女のような人間もこうしてくすぐる機会が多い。だから…こんなの容易いのよ」 寒川はズクズクとさらに指を食い込ませていく。 あの指。あの爪。あの細さだからこそ小さな隙間にも食い込むことが出来るのだ。 「ああああぅっっ!!?」 「ねぇ…状況…分かってる?」 グチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュ!!! 第一関節のみをガシガシと最小限に動かし、指先と爪の先とでツボを掻き立てる。 「ふぎゃぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!?あっっっ!!?あはははははははははははははははははははははははは!!?」 終わりなき腋の下への執拗なくすぐり。 腋の下が、熱い。 猛烈な濃度のくすぐったさを絶え間なく浴びせられた水羽の意識はボゥっと揺れ始めた。 それを見抜いたかのように寒川は腋から手を抜いた。 「うひゃあっ!!?」 手を抜かれたその刺激で水羽は声を上げて萎れたように首を垂れた。 口からは唾液がたらたらと流れている。 「なるほど。流石は退魔師…それなりに根性はあるみたいね」 寒川はそう言いながら、水羽の靴と靴下を脱がした。 「ちょっ!!?」 熱のこもった足が外気に晒され、水羽は我に帰る。 「落ち着きなさい。動揺しているのがバレバレよ」 寒川は小瓶を開け、ぬるりとしたオイルのようなものをとろりと垂らした。 「これを人間に対して使うことはそうないわ。なんせ強力…下手すれば後遺症が残るほどにね」 水羽はごくりと唾を飲んだ。 危険だと言われる油が、水羽のほてった足の裏に垂れ落ちる。 「ひっ!!?」 水羽の足指がぎゅうと縮こまる。 「足の裏…この部位がいかに弱いか。わざわざ説明するまでもないわね」 寒川が足裏に、ガッと爪を立てる。 「ああああっ!!?」 水羽は喉を振動させ、濁った悲鳴を上げた。 「良い?これが最後のチャンスよ。ここで口を割らないなら…貴女は醜態を晒して全てを白状する羽目になる」 寒川はオイルを塗り広げながら言った。 それが単なる脅しではないことは分かっている。 自分は強くない。だから寒川の言う通りになるかも知れない。 でも、やっぱり期待を裏切れない。 最強にはなれなくても、ちょっと頼れるやつくらいにはなりたい。 そのために、ちょっとでも、ちょっとでも抵抗できることを自分に示したい。 この女の言う通りにばかりならないぞと。 「はぁはぁはぁっ!!貴女の思う通りにはっっならないっ…」 水羽はほとんど呂律の回っていない口調で、しかし強くそう言い切った。 「本当に…いいのね」 寒川は呆れたように息を吐く。 足の裏に、寒気がした。 ゾリッ! 「あああああっ!!?」 オイリーな銀色の爪が、オイリーな足裏の表面を引っ掻いた。 ひと引っ掻きとは思えないほど濃厚な一撃に水羽は声を裏返した。 「はぁはぁっ!!やるならやればっっ」 こうなったらもう、ヤケクソだ。 「ええ。お望み通り──」 "怪異尋問家"寒川の十の指先が、銀の爪の先が、足の裏に突き立てられ、ゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョォォッ!!っと神経を喰らい付くし始めた。 「うわぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああっ!!?あっっっっ!!!!あっっっっはっはっはっはっはっはっはっはぁぁぁぁっ!!?っっははははははははははは!!?」 足の裏の表面を寒川の硬くてツルツルした爪の感触が這い回る。 想像の百倍のくすぐったさが一気に足裏に注がれ、心がこなごなに砕かれそうになる。 「恨むなら…自分を恨みなさい」 寒川の指はこちょこちょに特化した別生物のように素早く滑らかに、的確に足の裏をゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョ這い回り足指の間にまで入り込んできて神経をくすぐり喰らいつくしてくる。 「うぎぁぁぁぁぁぁぁああああああああははははははははははははははははははははははははは!!?無理っっ!!あっ!!!無理無理無理無理無理無理無理ぃぃぃ!!」 気づけば弱音を吐いていた。 弱音を吐かないと精神が狂う気がした。 唾液が飛び散り、鼻水がたらんと垂れる。 「悪いけど…この遊びに降参はないのよ」 嫌な感覚が走った。 あの、銀色の爪が土踏まずに突き立てられたのだ。 「待っでぇっ!!」 水羽の懇願が届くはずもなく、寒川は銀の爪で土踏まずを削ぐようにゾリゾリゾリゾリゾリゾリゾリゾリゾリゾリゾリゾリゾリゾリ!! ゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョ!!!っと削りくすぐった。 「ほぎゃぁぁぁぁああああああああああああああああああああああっ!!?あああああああああああああああああああああああ!!?やっっやばっっ!!?やぁぁぁぁぁあああ!!?」 水羽は壊れたメトロノームみたいにぶんぶんぶんぶんと激しく揺れた。 足裏が、土踏まずが燃えるようにくすぐったい。 くすぐったさがさっきの十倍にも膨れ上がっている。 「言ったはずよ大人を舐めないように、と」 寒川は親指の銀色の爪で土踏まずを集中的にゾリゾリゾリゾリゾリゾリゾリゾリゾリゾリゾリゾリゾリゾリ!! ゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョと処刑する。 「ぎょははははははははははははははははははははははははははははははは!!?こうざんっっ!!降参させでぇぇぇぇぇぇ!!!っっへへへへへはははははははははははははははは!!?」 土踏まずへの親指の爪による一撃が、水羽の心をくすぐり堕とした。 ──ごめん羅那ちゃん! 水羽の目から、悶えとは違う涙が滲み出た。 こそばゆさの海に溺れながら、水羽が必死に息を吸い込み、まさに真実を吐き出そうとした時だった。 頼まれたの。とある女子高生に──。 その言葉は、寒川の声によって遮られた。 「何っ!?」 寒川の指が止まる。 足裏を襲っていた苛烈なくすぐったさがじんわぁりと足裏に染みる。 寒川はじっと、教室の入り口──廊下の方を見つめていた。 廊下には、べたりと塗ったような闇が広がっている。 闇に染まったキャンバスから這い出てくるように、そいつは現れた。 スカートを穿いて、ブレザーを羽織った女子生徒。 ブレザーの下のセーター…そのさらに下──シャツの襟には赤黒いシミが広がっている。 水羽の視線が、寒川の視線が、襟よりも上に移動する。 水羽の目は、闇だけを見つめていた。 寒川の目も同様に、廊下を塗り潰す闇だけを見つめている。 無いからだ。 本来、そこにあるはずのものがないから──水羽も寒川も闇を見るハメになっている。 その女子生徒には、首から上が──。 ゆら。 ゆら。 今にも倒れてしまいそうな足取りで、首の無い女子生徒は水羽と寒川に迫ってくる。 「これは──」 寒川は立ち上がり、片手で水羽の襟を掴んでぐいと引き起こした。いつのまにか、拘束は解かれている。 水羽はよろけて椅子にもたれ掛かった。 「はぁはぁっ…」 水羽は、全身に残っているはずのくすぐったさの余韻も忘れ、ただその女子生徒を見つめていた。 かん。かん。と女子生徒が歩くたびに音がする。 鎌。草を刈るような鎌が首無しの手に握られており、それが歩くたびに机や椅子にぶつかっているのだ。 「貴女が噂の──」 寒川が再び指輪を抜く。 首の無い女子生徒がぴたりと足を止めた。 ひく、ひくと肩が震えている。 直後──わっと泣き出すように女子生徒は大きく震えた。 泣き声の如き震動が水羽の角膜を、鼓膜を震わせる。 首の断面の真黒い"ぐちゅぐちゅ"が沸き立ち、勢い良く噴き上がる。 宙を飛ぶ黒い血が、雨のように降り注いだ。 しとしとと、水羽のシルバーアッシュの髪に、寒川のカーキグレージュの髪に黒が垂らされる。 「なんなの…これは…」 寒川は切長の目をかっと開いたまま、固まっている。 黒い雨はいつの間にか──本降りとなっていた。 ざあざあ。ざあざあ。 降り注ぐ雨の音が、揺れる。 揺れ動いた雨の音は、さながら波の音のようだった。 波に運ばれるように、それらは黒い雨の中に現れた。 ぐねぐねと四肢の伸び切った女。 黒く毛深い猫のような頭部を無理やりに被ったような女。 その女が抱える水槽には──苦しげに口をぱくぱくと動かす腫れ上がった顔が入っている。 どぉん。 空間が大きく揺れた。 黒雨の向こうにぼんやりと、大きな大きな足が見えた。足には無数の痣がある。 動けない。 水羽は息をするのも忘れ、ただその悪夢のような光景を見つめている。 ごろごろと転がって来た何かが水羽の足に当たる。 瓶である。 瓶の中には── ──苦悶の表情を浮かべた性別も分からぬ、ふやけた顔がぎゅうぎゅうに詰められていた。 「ひっ」 水羽は鋭い悲鳴を上げ、腰を抜かした。 「くっ…!!まずい…!」 寒川はぎりっと歯を食い縛り、腰の抜けている水羽の腕を掴んで肩に回す。 細い身体の一体どこにそんな力を宿していたのか──寒川は水羽を担いだまま凄まじいスピードで教室を飛び出した。 だんだんと力強く寒川の足が廊下を踏む。 その一歩一歩は、こびりつく死をなんとか引き剥がそうとしているようだった。 長い手脚が、猫の如き女が、どく黒い魑魅魍魎が、津波の如く押し寄せてくる。 死。 死が。 死が──そこら中に、ある。 ここはどこだ。 ここは、本当に自分のいたあの静かな旧校舎なのか。 水羽にはこの状況がまるで理解できないでいた。 くすくす。誰かが笑う声がした。 水羽は黒い雨の中を、寒川に引き摺られるようにして駆け抜けた。 翌日。警察と学校により、旧校舎は完全に封鎖された。
Comments
reoさんありがとうございます! そうですね…羅那が世界に向けて放った言葉というのはまさにその通り…だと思われます。 生者にとって希望となるその言葉がなぜに悲劇のきっかけとなるのかは…もうしばらくお待ちくださいませ! "死者の使い"が怪異なのかそれとも人間なのか… 首無しが死者の使いそのものであるなら、それはやはり羅那たちの中の誰かということになります。 旧校舎へ初めて入ったあの日に命を奪われた者…ですね。 あの独白も羅那たちの中の誰かのものです。なので死者の使いのものである可能性もあります。 死者の使いとなった誰かが、自分が死者の使いである認識を持っているかどうかは怪しいですが! 寒川はまだ羅那たちとは協力できる関係になさそうですが、水羽はなんとか頑張ってもらいたいですね…! もちろん、寒川も協力してくれれば言うことはなし?なのですが! 次回更新は来週の予定です!あともう少し…よろしくお願いします!
Kara
2025-06-29 13:02:46 +0000 UTC羅那が世界に向けて放った言葉って「生者より強い死者などいません。」だと思うんですが、この言葉が今回の悲劇を引き起こしたというのはどういう事なのかさっぱり分かりません。 "死者の使い"というのは、怪異では無く生きている人間なんでしょうか? part2の途中で描写されている独白が"死者の使い"のものなら、内容から察するに、その正体は愛維たち5人の中の誰かなんでしょうか? "死者の使い"はかなり厄介な相手のようですが、夏の呪詛事件を解決した羅那なら、今回の事件も解決できると信じてます。 今回から登場した水羽と寒川は頼れる協力者になってくれそうですし、次回以降羅那の反撃が始まる事を期待してます。
reo
2025-06-22 09:33:32 +0000 UTC