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吉田誠治
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きつねのうらばなし #1 「マヨヒガ」

8月28日に新刊絵本『きつねのなくしもの』を玄光社より刊行します。以前から描きたかった遠野を題材にした絵本で、『遠野物語』をはじめ遠野の伝承を元に執筆しました。実際に岩手県遠野市にも足を運んであちこち取材して回ったものの、絵本に描けたのはごく一部だけなので、ここで少し詳しくご紹介したいと思います。

遠野を描くきっかけ

そもそも遠野を描きたいと思ったのは、とある企画がきっかけでした。もともと民俗学には興味があったのですが、2021年に『遠野物語』の著者・柳田國男の故郷である兵庫県福崎町を舞台とした企画に参加した際に、実際に福崎町を訪れていろいろ学び、福崎を描くなら遠野も描かなくてはと思うようになりました。

その際の企画で描いたイラストは上の動画などに使われています。福崎町も柳田國男の生家などがあり、河童をはじめ妖怪の伝承も多々残っていて観光名所にもなっているので、興味のある方はぜひ訪れてみてください。

この企画のあと、以前に僕の画集を出版した玄光社の編集者さんにご紹介いただいて、2022年の6月に実際に遠野を訪れて取材してきました。ただ、この次点では絵本にするという予定はなく、将来何かの企画になればという思惑があるだけでした。

有り難いことに、取材当日は遠野市立博物館の学芸員さんにもご同行いただいて、貴重なお話をたくさん伺いました。カッパ淵デンデラ野旧高善旅館など絵本で描いた場所だけでなく、善明寺で供養絵額天狗の牙を拝見したり、遠野市立博物館を解説していただきながら見学したしました。帰る前にも遠野ふるさと村などに立ち寄ったりして、短い時間ではありましたがとても充実した取材になりました。詳しいお話はここで順次ご紹介したいと思います。

要衝としての遠野

実際に現地でお話を聞いて気付いたのは、遠野が岩手県中南部における重要な交通の要衝であるというところです。周辺は早池峰山をはじめ山だらけで遠野がほぼ唯一の開けた土地であり、交通が発達する以前は海岸部と平野部とを行き来する商人や旅人のほとんどが遠野を通っていたとのことでした。そのため狭い土地ながらも人の行き来が多く、周辺の様々な文化や伝承が集約されたということのようです。

なお現在の遠野も、相変わらず交通の要衝として人の行き来は多く、海と平地両方の名産品も集まっていて、飲食店をはじめ街の規模以上に賑わっている印象でした。柳田國男が『遠野物語』序文で「思うに遠野郷にはこの類の物語なお数百件あるならん」「願わくはこれを語りて平地人を戦慄せしめよ」と書いた遠野の魅力は、現在でも健在なのかなと思います。

意外な気付き

取材してもう一つ気付いたのは、僕自身が民俗学に興味を持ったきっかけが偶然にもこの遠野にあることでした。というのも、子供時代に『おもいっきり探偵団覇悪怒組というTVドラマのノベライズを読んだのが僕にとっての伝奇ものの初体験で、それ以来すっかり伝奇ものや民俗学的なジャンルに興味を持つようになったのですが、その物語で重要な場所として登場するのが遠野の続石だったようなのです。すっかり忘れていたのですが、続石について調べたときにこの本のことを思い出し、様々な条件からこれが元ネタであると確信しました。


ただ、続石は遠野の中心部からは少し外れたところにあったため、今回の取材では残念ながら立ち寄れませんでした。次の機会があればぜひ立ち寄りたいと思っています。

マヨヒガ

最後に、『遠野物語』の中からマヨヒガについてご紹介します。マヨヒガ(マヨイガ、迷い家とも)は、遠野の伝承でも代表格の一つで、山の中に突然現れるお屋敷です。訪れた者に富貴を授けるものの、もう一度同じところを訪れると忽然と消えているといいます。その不思議な存在感が物語にも合うので、『きつねのなくしもの』でも表紙に使いました。


マヨヒガ自体は実在する建物ではないので、絵にする際には他の遠野の建物を参考にしつつ大きなお屋敷として構想し、家具や調度品についても『遠野物語』及び『遠野物語拾遺』の描写だけでは足りないので、『遠野物語』の他のエピソードや、遠野取材で見たものから拝借した要素もあります。せっかくなので、絵本で描いたマヨヒガについて、以下で詳しく解説してみましたのでご覧ください。

絵本のなかでアレンジした要素の一つが、上の画像でも言及した供養絵額です。死者を供養するために遺族などが寺院に奉納したもので、岩手県周辺に特有の風習ですが、そのほとんどが遠野市内に残されているといいます。

故人が死後の世界で楽しく暮らせるようにという願いが込められているため、鮮やかな色彩で描かれていて、絵の内容もとても賑やかです。マヨヒガという題材にも合っていると思ったので、供養絵額を描くだけでなく、供養絵額に描かれた小物なども描き込みました。


また、調度品類やお膳の中身は遠野市立博物館に展示されている当時の暮らしの展示や見学した保存家屋のものを参考にしています。この本では、そういった細かい部分までいろいろ作り込んでいるので、遠野のあちこちを巡りつつ読むのも楽しいのではと思います。


『きつねのなくしもの 吉田誠治の妖怪絵本』

吉田誠治 著 / 玄光社 / 1,980円(税込)/ 2020年8月28日発売予定

出版社詳細ページ:https://www.genkosha.co.jp/book/b10143589.html

Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4768330665


※先行発売&刊行記念展とサイン会をジュンク堂書店池袋本店にて行います。展示は8/13(水)~、サイン会は8/17(日)です。詳しくは以下より。

https://honto.jp/store/news/detail_041000118544.html

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