SamuKata
スティル0880
スティル0880

fanbox


贄巫女~封印の力~深川風花視点 上巻

贄巫女~封印の力~ 私の名前は深川風花。 22歳で職業はアイドル。 もう7年程芸能活動をしている。 クイズが得意なので秀才アイドルなんて呼ばれ方もしている。 所属しているアイドルグループの番組だけでなく、クイズ番組やスポーツ番組にも呼ばれる事が多く、忙しくも楽しい日々を過ごしていた。 そんなある日、私に1つの仕事の依頼が来た。 どうやら私が主演の映画を作るらしい。 主演って…大抜擢! 今まで何度か映画に出演させて頂く事はあったが主演は初めてだ。 頑張って来た甲斐があった…嬉しい限りである。 なんでも監督さんが私の今までの映画作品やドラマ、テレビでの活躍をみて私が役にぴったりで良いと言ってくれたらしい。 ありがたや。 主演という言葉に浮かれているだけでは、話が進まないのでしっかりと仕事の内容を聞く。 私を主演とする映画の撮影。 ドキュメンタリータッチで撮影が行われる。 リアルなリアクションの為に私に台本は無く、周りの役者さんが話を作って行くらしい。 主役なのに台本が無いなんて…。 アドリブというか自然体でいれば良いのかな? 撮影は約1年程かかるらしく、その間はこの撮影にのみ専念して欲しいとの事だった。 映画の撮影ともなれば何年もかかる事もあるが、ここから1年間撮影のみに専念って…。 レギュラーの番組とかも出ちゃ駄目って事だよね? それだけ監督さんは本気なんだろう…。 表向きは芸能活動休止という事にしてこの映画の撮影にかけよう…。 台本は無いものの、どのように撮影を進めて行くかの概要を聞く事が出来た。 私は封印の力を持つ巫女の役。 撮影はお正月から始まり儀式が行われる夏までの8ヶ月間、とある山奥の神社で実際に巫女として働く様子を撮影するらしい。 ちなみに以前番組で巫女のコスプレをしたことがあったがその姿を見て監督さんがオファーをかけたらしい。 本当に巫女さんとして働くのか…。 ドキュメンタリー風というか本当にドキュメンタリーじゃん…。 撮影は神社の中に隠されたカメラで行い、日常の風景を記録するらしい。 それって24時間撮影されてるって事? まぁ自然体を撮るならそういう風になるんだろうけど…。 職業柄カメラを向けられるのには慣れているが、それが24時間ともなると流石に抵抗を感じる。 でもこの映画はそういうモノなのだろう。 常に撮影され続けるという環境も慣れるだろう。 芸能人は一般の人よりは撮影に対する抵抗感が希薄なのだから。 年末の撮影を終え、世間へ芸能活動休止の一報を伝える。 自分でいうのもくすぐったいが、グループ内ではそれなりに人気のあるメンバーなのでかなり反響があった。 監督からの指示でブラウンだった髪を黒く染めた。 お正月を越えた1月4日。 半年以上過ごすことになる山奥の神社へと向かっていた。 「はぁ…はぁ…」 もう30分程は山道を歩いている。 荷物は必要最低限しか持ってきていない。 荷物が軽めで良かった。 「ふぅ…」 かなり深い森だけど…。 クマとか出ないよね? いたとしても冬だから冬眠してるか…。 途中までは監督さんを始めとする撮影スタッフの皆さんと車で来たが、ここからは1人で行って下さいと言われ地図を渡された。 言われるがままに山道を歩いてきたが…。 道は一本道の為迷うことは無いが、角度がありかなり険しい。 木々が太陽光を遮っており、晴れているのにというのに薄暗い。 この山は常緑樹がほとんどを占めているらしい。 見渡す限りの木々だ。 スマホには電波が入ら無いので地図アプリも意味をなさない。 だから紙の地図なのね…。 手に持っている地図に目を落とす。 この道の曲がり方的にここか…。 やっと半分を過ぎたぐらいか…。 「ふぅ…」 ジィッ… リュックから用意してきた水筒を取り出し温かいお茶を飲む。 わりと防寒はしっかりとしている服装で来た。 それに加え、険しい山道を歩いてきているのでそんなに寒くは無いが温かいお茶が身に染みる。 水筒をしまい、再び歩き出す。 途中で丈夫そうな枝が落ちていたのでそれを杖にして進む。 「はぁ…はぁ…あ…」 道が広くなってきた…。 もうすぐだろうか? 木々を抜けきると村の入り口へとたどり着いた。 手前には田んぼが広がっており、その奥にいくつかの住居が見える。 見える限りでは近代的な建物は無く、茅葺き屋根の建物だった。 記憶の中だと白川郷の建物がこんな感じだったような? あ…調べようとしても電波が入らないんだった…。 白川郷程建物は大きくは無いみたいだけど。 少し警戒しながら村の中へ入って行く。 村の中はひっそりとしており、人の気配が無い。 この辺の家は人が住んでないのかな? あ…あれ鳥居かな? 目線を少し上げると赤い鳥居が見えた。 地図によるとこっちの道か…。 目視出来ているので地図を見ずとも辿り着けそうだが、一応確認する。 ここからまた階段か…。 石の階段がそれなりにある。 角度は緩いもののかなり脚に来る。 「ふぅ…」 なんとか登りきる。 「ほぉ…」 かなり立派な社殿…。 正面の建物は拝殿の様だが入れるような雰囲気が無かったので左側の建物へ向かう。 入り口が開いている。 「あのー」 「…」 今のは小さ過ぎたか。 「あのーすみません!」 『はーい!』 声を大きくして呼び掛けると奥から男性の声が帰って来た。 『はい、どうも』 奥から出てきたのは30代前半の男性で白衣と浅葱色の袴に足袋を履いていた。 渋くて男らしい印象だ。 『あ、巫女として働きに来られた深川さんですか?』 「はい、そうです」 撮影だけど…まぁ働きに来たのも本当か…。 これもどこかから撮影されているのだろうか? それなら撮影で来ましたとは言わない方が良いだろう。 『遠い所お越しいただきありがとうございます』 「いえ」 『この神社で神主を務めております小山と申します』 「あ…深川風花です、よろしくお願いいたします」 『よろしくお願いします』 『お時間がわかっていれば途中までお迎えに上がったのですが…』 「あぁ…気遣いありがとうございます」 『ではお履き物をこちらで脱いで頂き、上がって下さい』 「はい」 『深川さんに使って頂くお部屋に案内致しますね』 「はい、お願いします」 奥へと案内される。 『こちらが深川さんのお部屋となります』 ガラッ… 「ありがとうございます」 部屋は6畳程の広さで、箪笥や布団に座布団、布がかけられた姿見等が置かれている。 掃除は行き届いているようで、古いものの様だが古臭さは感じない。 エアコンがついており、温かい空気が流れ出て来る。 『お手洗いはこの奥にございます』 「はい」 『後程…そうですね1時間程してからお声をかけますのでそれまで少し休憩をなさって下さい』 「あ…はい」 そう言うと小山さんは何処かへ行ってしまった。 お言葉に甘えて少し休憩をしよう。 ここまで歩き詰めで疲れているから。 ドサッ… 背負っていたリュックを畳に置く。 布団の横に重ねてあった座布団を敷きそこに座る。 「はぁ…」 「…」 辺りを見回す。 どこにもカメラはなさそうだけど…。 まぁ…わざと探すような事はしないけど。 ちょっとお手洗いも拝借…。 約1時間後 ミシッ…ミシッ… 足音で誰かが近付いて来たのがわかった。 「ん」 コンコン 『深川さん』 「あ、はい」 『開けても大丈夫ですか』 「はい」 ガラッ… 『少しは休憩出来ましたでしょうか?』 「はい」 『本格的にお仕事をしていただくのは明日からになるのですが今日から少しずつならして行って頂ければと思います』 「は、はい」 『こちらが制服になります』 「制服?」 そう言って渡されたのはいわゆる巫女さんの服だった。 綺麗に畳まれており、上から足袋、白衣、朱袴が重なっているようだ。 『制服であり、私服となります』 「え」 『ここにいる間…夜は脱いで頂いても大丈夫ですが、着れる服はこちらの巫女装束だけだと思って下さい』 「あ…はい」 随分徹底してるんだな…。 『着用方法は間に挟まっている紙に詳しく書いてありますのでそれを参考になさって下さい』 「は…はい」 『深川さんは袴を着たことがありますか?』 「何度か…でも慣れてないです」 『そうですか、あまりにわからなかったらお手数ですが戸を開けて大声でお呼び下さい』 『私はこの建物の入り口に一番近い部屋におりますので着替え終わりましたらそこまでお越し下さい』 「はい…かしこまりました」 『では、後程』 ガラッ… 戸を閉じ神主さんは部屋を後にした。 これがこれからの私の制服…兼私服…。 畳に置き何があるかを確認してみる。 まず足袋、これは白衣…。 あ、それだけじゃないや中に着るやつかな? 名称はわからないが下着の役割をするものだろう。 それが2枚と帯と着方の紙に袴。 なにも書いてない紙もある。 しっかりとした服…。 コスプレ用の安価な素材で作られた衣装とは違う。 あれは上の白衣と袴しか入ってなかった。 一度番組で巫女のコスプレをしたことがあるからわかる…。 本物の巫女の服だ…。 そのコスプレの時は簡単に着れたけど、卒業式の時の袴は着付けて貰ったんだよね…。 うまく着れるだろうか? これから毎日着ることになるんだから覚えないとね。 まずは…。 着方の書いてある紙を見る。 〈下着を含めた服を全て脱ぎ、肌襦袢・腰巻きを着ていきます〉 えっと…ブラやパンツを着けずに肌襦袢と腰巻きを直接着るって事? この上に何枚か着るわけだし、これが下着の代わりになるわけか…。 どこかから撮影されているというのを思い出し服を脱ぐ動作が一瞬止まるが、そんなことで躊躇していたらここで生活出来ないと思い、服を脱ぎ始める。 紙に書いてあるように下着も…。 全てを脱いでから姿見の布を外す。 素っ裸の私が映る。 「…」 あれ…この図最初から足袋を履いてる…。 後だと履きにくそうだし、先に履いて置こう。 白い足袋を履く。 腰巻きを腰に巻く。 腰巻きを巻いたら、その上に裾除けを巻く。 上から袴を履いたら見えなくなる部分ではあるが、左右どちらが前に来るか着方の図と合うようにする。 次に上半身に肌襦袢を着る。 「えっと…右前というのは…」 自分から見て左側が前? 「これで合ってるよね?」 肌襦袢まで着たら次は白衣を着る。 白衣に袖を通す。 新しいモノの様で少し硬い感じがする。 それから腰に帯を巻く。 ん…これだとキツすぎるか…。 そう思い少し緩める。 そして、朱色の袴を履く。 足を通す穴が左右で別れているモノではなくスカートの様な型の袴だった。 紐の結び方はこれで良いのかな? 駄目だったら直して貰おう。 最後に髪を整える。 後ろでまとめ、紙のこよりで結ぶ。 よし、出来た…。 姿見の前でくるりと回る。 「ん…」 どこからどう見ても巫女さんだ…。 これからこれを着て過ごすんだ…。 慣れては来るだろうけど…。 洋服に慣れてしまっているので、こうした和の服はどこか堅苦しい。 帯を緩めておいて良かった…。 背面が変になってないか改めて確認し、部屋を出る。 廊下を歩き、神主である小山さんの所へ向かう。 この部屋に居るって言ってたよね? 「あの、着替え終わりましたっ」 『はい、今行きます』 ガラリ… 『お、しっかりと着れているようですね』 『もしかして深川さんは和服を着るのに慣れてらっしゃる?』 「いえ、慣れてはいないですよ」 『そうですか、ではかなりすじが良い様ですね』 「ありがとうございます」 『明日から始めて頂くお仕事の内容ですが、大まかにいえば神社内の整備、清潔になります』 「はい」 『こちらが手引きとなりますので読んでおいて下さい』 「わかりました」 渡された冊子をパラリとめくる。 手製の冊子のようだ。 様々な場所の掃除の仕方が書いてある。 『わからない事があれば聞いて下さい』 「はい」 『次に履き物を合わせましょう』 「履き物?」 『あぁ、これから使って頂く草履の事です』 「なるほど」 入り口の方へ戻ると履いてきた靴はなく、4足の草履が置かれていた。 鼻緒が赤い草履だ。 『大きさの違う4足です』 『試し履きをしていただいて、しっくり来るものを使って頂きます』 「はい」 左から順番に履いていく。 うん…これがピッタリかな…。 一応他のも履いてみよう。 2番目の草履を試す。 これも丁度良いな…1つ目程キツくなくて履きやすい。 考えてみれば1つ目は履きにくい感じがしたな。 3番目の草履を試す。 スポッと履けるが、鼻緒を趾で挟んでいないとすぐに脱げてしまう。 4番目の草履は見るからに大きく、履いてみてもユルユルだった。 2番目のが良さそうだ…。 「この草履が一番良さそうです」 『そうですか了解です』 『草履はこちらの下駄箱に入れて下さい』 「はい」 『下駄箱を使う人数も限られてますのでどこに入れて頂いても大丈夫です』 『そうそう…ここまで深川さんが履いてきた靴ですが、ここでは履かないので預かっておきますね』 「あ…はい」 『それと、着てきた服も着ることは無いので後程預かります』 「はい、わかりました」 『一応こちらの建物に生活に必要な物は一通り揃っていますが、なにか必要なものがありましたらご相談下さい』 『可能な限り用意いたします』 「わかりました」 『いつも18時過ぎ頃に夕餉になりますので、それまで再び部屋でお過ごし下さい』 「は…はい」 『夕餉は部屋にお持ち致します』 「え…あ…ありがとうございます」 部屋にご飯を持ってきてくれるのか…結構至れり尽くせりだな…。 『その後入浴のご案内を致します』 「了解です」 『それではまた、後程』 「はい」 自分の部屋へ戻る。 この奥がお風呂なのかな? でも勝手に見て回るのも気が引けるし、後から説明して貰えるようだから今は大人しく部屋に居よう。 とその前に御手洗い…。 歴史のありそうな建物だったので、和式便器だったらどうしようかと思っていたが、そこはちゃんと洋式の便器になっていた。 あ…この巫女装束でどうやって…。 全部たくしあげれば良いか…。 袴は言うなればロングスカートの様な物なので、たくしあげれば下半身が出る。 袴や裾除け等たくしあげた布を脇に挟み、便座に座る。 「ふぅ…」 慣れればまぁ…って感じかな。 トイレットペーパーで拭き、裾除けと袴を戻す。 よし…。 部屋に戻り着てきた服をまとめておく。 後で回収される様だから…。 そういえば…箪笥には何が入ってるんだろう。 箪笥を開けると中には巫女装束が何組も綺麗に畳まれた状態で収まっていた。 あ、巫女装束が入ってるんだ…。 全部私用なのかな? そりゃあ毎日着るんだからいっぱいあるよね…。 時計を見ると時刻はまだ16時前。 夕食まで2時間程ある。 それまではゴロゴロしてても良いよね? 袴がなるべくシワにならないように気を付けつつ、座布団を敷いて横になる。 「んーっ…はぁ…」 スマホも電波が届かなくて見れないし暇だなー…。 「すぅ…すぅ…」 … トントン… トントン… 『深川さん』 『深川さん』 「んぁ」 「あ…はいっ」 戸を叩く音と女性の声で目を覚ます。 寝ちゃってたのね…。 戸を開くと着物姿の女性が立っていた。 年の頃は私より僅かに上という位かな? 5歳も離れていないだろう。 肌が白く、綺麗な方だ。 「え…」 『はじめまして、台所を任されております北乃と申します』 「は…あ…深川風花です」 『可愛らしいお方ですね』 「え…あぁ…ありがとうございます?」 『色々とお世話をさせて頂きますのでよろしくお願いいたします』  「よろしくお願いします」 『さて、夕餉をお持ちいたしましたので、中へ運んでも良いでしょうか?』 暗がりになっている足元へ視線を移すと、お膳が置いてあり、料理が乗っていた。 「お願いします」 『では失礼致します』 部屋の中央にお膳が置かれた。 『飲み物も持ってきますのでお待ち下さい』 「は…はい」 その後小さなおひつとお茶の入った大きめなきゅうす、湯飲みを持ってきて貰った。 『食べ終わりましたら奥の台所に 置いておいてくれると助かります』 「わかりました」 『ではごゆっくり』 「は、はい」 そう言うと北乃さんは戸を閉めた。 湯気の立ち上る温かそうな和食だった。 美味しそう…。 お膳の前に座布団を敷き、袴を畳んで正座をする。 「いただきます…」 おいしい…。 こういった食事が食べれるなら半年間悪くないかもと思った。 食事を終え、落としても割ってしまう危険性の少ないおひつを抱え台所へ向かう。 少し大きめな台所といった感じだ。 「ここに置いておけば良いかな?」 台の上におひつを置き、すぐに残りのモノを取りに部屋に戻る。 お膳を持って再び台所へ戻ると北乃さんが後片づけをしていた。 さっきの物音に気付いたのだろう。 「あ…」 『持ってきてくれてありがとうございます』 「ごちそうさまでした、とても美味しかったです」 『あら、ありがとう』 『お膳もそこに置いといてね』 「はい…」 『?』 「手伝いましょうか?」 『大丈夫ですよ、これが私の仕事ですから』 『深川さんは深川さんの仕事に集中してください』 「はい」 それもそうか、私は私のやるべき事があるんだ…。 何だかは今の所わからないけど。 『そうそう、お風呂入られますよね?』 「はい」 『では、案内致しますのでこちらへどうぞ』 「え…あぁ…」 案内されるがまま奥へと向かった。 『こちらがお風呂です』 「!」 広! 洗い場(鏡と蛇口とシャワーヘッド)は3セットあり、床は石畳。 浴槽も石で作られており、さながら旅館のお風呂だ。 浴槽も大きく、横2m、縦3m以上ある。 「わ…凄い」 『旅館とかと比べるとあれだけど広いでしょう?』 「はいっ」 『タオルはここにあるものを使って良いですし、ドライヤーはこちらに…夜間着も置いてありますので、上がったらそちらをご着用下さい』 「はい、ありがとうございます」 『脱いだ巫女装束はこちらのカゴへ全て入れて下さい』 「はい」 『他に必要なものはありますか?』 「いえ…それだけあれば大丈夫だと思います」 『では、ごゆっくり』 「はい」 そういうと北乃さんは台所の方へ戻って行った。 凄いお風呂…。  スキンケアの道具を部屋に取りに戻ろうかと一瞬逡巡したが後でも良いかと思い、そのままお風呂に入る事にした。 巫女装束を脱ぎ去り、言われたようにカゴへ入れる。 カラカラ… ペタッ…ペタッ… 髪を洗い、身体を洗う。 それから浴槽に入る。 ざばっ…ざばっ… 身体に掛け湯をしてから浸かる。 ちゃぷ… 「ん…くぅ…」 ざばーっ… 「っぁ…」 「はぁ…」 きもちよ…。 しっかりとお風呂を堪能し、脱衣所へ出る。 身体と髪をしっかりと拭く。 脱衣所に置いてあった夜間着(白い浴衣の様なモノ)に袖を通す。 紺色の羽織も置いてあったのでそれも着る。 廊下は寒いので足早に部屋へと戻る。 部屋に戻りほんの簡単にスキンケアだけする。 起きていてもすることが無いので早めに寝よう。 畳んである布団を広げる。 寝る前に御手洗いに行く。 部屋の電気を消すと真っ暗になったが手探りで布団へ入る。 羽織は少し邪魔な気がしたので枕元に畳んで置いておく。 疲れていたと言うこともあり、直ぐに眠くなる。 明日からは…巫女としての…仕事が始まる…。 … 「ん…んぁ…」 自然とスッキリと目が覚めた。 窓からは白々と光が射し込んでいる。 脳が覚醒し、今どこに居るのかを思い出す。 そうだ…私は…。 「うーん…」 今何時…? 時計を見ると6時過ぎを指していた。 何時に起きれば良いのだろう…そういえば聞いてなかった。 「ん…」 モゾモゾ… 布団の外は暖房をつけていたとしてもかなり冷える。 神主さんか北乃さんに話を聞きに行かないと…。 寒いがなんとか布団のゆうわくを断ち切り立ち上がる。 ガラッ… 廊下は室内だと言うのにとても寒い。 その空気を吸い込むと肺が冷気で満たされる。 「!」 みぞおちの奥まで一瞬で冷える。 寒っ! 枕元に畳んでおいた羽織を着て、廊下に出る。 多少薄暗いがなにも見えないという程でもない。 この時間だとまだ寝てる? 誰か起きてるかな? こういう神社の様な所は朝がとても早いイメージがある。 神主さんの部屋の方へ行ったが起きているような気配がしなかったので反対側の台所へ向かう。 すると北乃さんがおり朝食の準備をしていた。 『わ…』 「あ…」 『あぁ…ごめんなさい、深川さんか』 「すみません」  『こんな時間にどうしたんです』 「あ…いや、何時に起きれば良いかとか聞いてなくて…早めに起きました」 『そうなの…』 『…確かお仕事の始まりは9時からだったはずですよ』 「あ…そうなんですね?」 『た…確かね?』 「北乃さんは朝食の準備ですか?」 『うん』 「朝早いですね?」 『まぁね…』 『7時半にはお部屋に持っていくからそれまではゆっくりしていて良いと思いますよ』 「あ…はい…そうします」 なにか手伝いましょうかと聞こうかと思ったが、北乃さんには北乃さんの仕事、私には私の仕事があるので大人しく部屋に戻る。 『あ…仕事着に着替えるのは朝食の後が良いですよ』 『汚れたら大変ですからね』 「はい」 部屋に戻る。 目は完全に覚めてしまったのでそのまま起きる事にした。 布団を簡単に畳み、壁際に寄せて置く。 着替えは後だけど、先に巫女装束を用意しておこう。 箪笥から巫女装束一式を取り出す。 汚れないように畳んだ布団の上に置いておく。 コンコン… 少しすると戸が叩かれた。 「はい」 『深川さん朝御飯です』 「はい」 ガラッ… 戸を開くと中まで持ってきてくれた。 『では、ごゆっくり』 「はい、ありがとうございます」 朝食を暖かなうちに食べ、身支度をする。 昨日と同じように巫女装束に身を包む。 流石に一度着ただけでは着方を覚えきれなかったので、着方の書いてある紙を見ながら着ていく。 帯は昨日よりも少しだけ緩めにしてみた。 その日は丸1日神主さんについて貰い、色々な場所の清掃方法について教えて貰った。 その翌日は御守りや御札の販売方法を教えて貰った。 月曜から金曜日までが私の巫女としての勤務となり、土日はお休みになった。 お休みだからといってこの村から出れる訳では無いんだけど…。 神社の外に出る際も常に巫女装束を着ていなければならないらしい。 巫女服が仕事着であり私服なのだ。 巫女姿で神社の外へ行くのは少し気が引けたので、最初の土日は神社にこもっていた。 しかし休日はあまりにも暇な為、翌週の土曜日に村へ降りる事にした。 外へ出た所でそんなに人に会うわけでは無いけれど、すれ違う人は私の姿を見ると一瞬驚いた様な表情になり、その後会釈を返される。 まぁ…こんな格好をしていたらね…。 驚いたり、奇異の目で見られるのは当然だろう。 古そうな書店があったので入ってみる。 ん、本の数はかなりあるな…。 奥に誰かいる? 姿ははっきり見えないが恐らく店主さんだろう。 なんとなく姿が見えないように本棚の間を進む。 本棚に隙間なく詰められているだけでは無く、本棚の横にも本がつまれている。 失礼ではあるが、山奥の村の書店なので古い本しか無いのかと思ったが、かなり最新の書籍もあるようだ。 もっと最新の本は奥か…。 店主の男性と目が合ったので、どうもという感じで会釈をする。 『いらっしゃい』 「どうも…」 『…』 「…」  『ここの神社の巫女さんかい?』 「あ、はい…」 「1週間程前からこちらの神社に来ました」 『そうかい』 『どこから来たんだい?』 「えっと…東京からです」 『おぅ…東京か…』 「?」 『東京と比べるとどこの村もそうだろうが、この村は何にも無いだろう』 「えぇ…まぁ…」 『新書はそっちの棚だよ』 「あ、ありがとうございます」 本を物色する。 視線が気になる。 『…』 「…」 その空間がどうにもいたたまれなくなり、話し掛けて見る。 「…かなり本が沢山ありますね」 と口にしたが、本屋さんなんだから当たり前だわ…。 『うん?…まぁこの村だと娯楽と言うか暇な時間を潰すのは読書くらいしか無いからね、結構売れるんだよね』 『古い本でも』 「そうなんですね」 その本屋さんで何冊か本を購入した。 その日から毎週土曜日は本屋さんへ行くのが習慣になった。 仕事も最初は大変だと思ったが、慣れてしまえばかなり効率良く行える。 効率が良くなった分、細かな所まで掃除出来たり、手を抜いたり…。 休日や暇な時間は村の書店で購入した本を読む。 読み損ねていた有名作品を何冊も読破した。 ここでの楽しみと言えば、読書、食事、お風呂、睡眠…くらいかな? 1ヶ月も経つと、仕事にも慣れてきて疲労も少なくなってきた。 1月も終わりか…。 これを後7ヶ月…か…。 … 3ヶ月も経つと、巫女としての仕事がかなり板に付いてきた。 … 6ヶ月も経つと、すっかり巫女としての仕事に慣れた。 元から私は何年もここで巫女をしていたのではないか…と錯覚するような時もある。 アイドルとして芸能活動をしていたのが…まるで長い夢だったようにも感じるのだ…。 今日も雨か…。 カビそうな場所をしっかりと見ておかないと…。 早く梅雨が明けないかな…。 でも明けたら、それはそれで暑い夏が来るよね…。 … 7月に入ると、昼間はむせ返る程暑い…。 とにかく暑いので、仕事もまだ気温がましな早朝か夕方に行う。 今日も暑かった…。 これでまだ暑さのピークじゃないんだよな…。 贄巫女~封印の力~ 深川風花視点 下巻に続く。


More Creators