贄巫女~封印の力~深川風花視点 下巻
Added 2024-11-08 15:00:00 +0000 UTC8月1日の夜。 お風呂に入る前に神主さんに呼び出されて拝殿へ向かう。 『あぁ、深川さん…』 『こちらに座って下さい』 「は…はい」 神主さんの言葉使いは、いつもの柔和な感じでは無く、何処と無く冷たく硬いい感じがした。 神主さんの正面に置かれた座布団へ座る。 神主さんはまじまじと私を見てから、口を開く。 『深川さんがここに来てからもうすぐ8ヶ月が経とうとしていますね』 「そうですね」 『深川さんは真面目で勤勉で、今ではすっかりこの神社の清掃を任せています』 『その他の点においても、この神社に無くてはならない人になりました、ありがとうございます』 「いえいえこちらこそ、食事やお風呂やら何から何までお世話して頂いてますので…」 『…』 『8月31日にお祭りがあるのは知っていますね?』 「はい、この間聞きました」 『そう、毎年8月の最終日である31日にはお祭りをやっているんです』 「はい」 『そのお祭りの時なのですが、今年は深川さんという巫女さんがいるので120年振りにある儀式を復活させようと考えています』 「120年振り?儀式?」 『はい…詳しくは話せないのですが、その儀式は贄巫女奉納ノ儀と呼ばれています』 「ニエ巫女?」 『はい、あ…生贄の贄ですね』 「あぁ…贄」 「って…え…」 『簡単に言えば、巫女を贄として神様へ捧げ奉納をする儀式、人身御供です』 「…なるほど…」 『この儀式には巫女である深川さんが必要不可欠です』 「はい…」 『贄として神様へ奉納される贄巫女になってくれませんか?』 「はい…贄巫女…引き受けさせて頂きます」 『ありがとうございます』 『今月の15日より贄巫女としての前準備が始まります、それまでは通常の巫女としての勤務をしてください』 「わかりました」 『儀式について、聞きたいことはあると思いますが、これ以上は話せません…すみません』 「いえ…大丈夫です」 『ありがとうございます』 『今日のお話は以上です、部屋にお戻り下さい』 「はい」 「では…失礼します」 自室に戻り、思考を巡らす。 あぁ…ついにこの時が来たか…。 そもそも…私はこの儀式の為にここに来たのだ。 私自身が生贄になる儀式…。 どんな儀式になるんだろう…。 部屋に戻り、入浴の支度をしお風呂へ向かう。 無心で髪と身体を洗い、浴槽に浸かる。 チャプッ… 「ふぅ…」 演技も含まれているとは思うが、神主さんがあんなに重々しく口を開いた所を見るに、儀式の内容もそれなりにキツイものなのでは無いかと推測する。 「…」 あんまりキツくないと良いけど…。 いくら考えた時で解決はしない…。 なにもわからないけど、考えずにはいられなかった。 どうなっちゃうんだろう…。 それから8月14日までは普通に仕事をこなした。 その日も普通に寝て、起床する。 いつものように巫女姿になり、仕事を始める為に神主さんの部屋へ行くと、今日は自室の片付けをするように言われた。 布団も片付けて置くように言われたので、今日はもうあの部屋では寝ないのかも知れない。 夕飯、お風呂を終えた後、再び巫女装束に着替え本殿へと向かう。 「神主さん…来ました」 『…』 神主さんは無言で会釈をした。 『…これより、贄巫女の儀式の前準備を行います』 「はい…」 『これは昔の話ですが…贄巫女に選ばれるという事はとても名誉であると共にとても恐ろしい事だと思われて来ました』 『神に仕える巫女であってもその恐ろしさから内容を聞くと逃げ出す者が多かったようです』 「…」 『その為、贄巫女本人にはその内容は伝えられ無いようになったようです』 『まだ伝えていた頃は、贄巫女を逃げ出せないように監禁してから伝えていたといいます』 「監禁…」 『はい…贄巫女が逃げ出してしまい、贄が居ないとなったら神様への供物が無くなるという訳ですし、神社の面目が丸潰れです』 『信心深い巫女がその身を自ら捧げるという事に意味があるのです』 「は…はい」 『深川さんは真に神様への供物になる気持ちがありますか?』 「はい…」 『よろしい…では奥の部屋へと参りましょう』 「はい…?」 奥の部屋? この奥は何にも無いはずだけど…。 本殿の突き当たりに向かうと、神主さんが壁の一部を押す。 ガタッ… 「!?」 ガタガタ… 木の壁だと思っていた所が開き、地下への石の階段が姿を表す。 ここ…昨日までは木の板が打ち付けられていたはず…。 『この先が…』 「?」 『深川さんなら薄々感づいておられるでしょう』 『ご覧頂いた方が早いでしょうね』 「え…」 カビ臭い空間…。 足元を探りながら階段を下りて行く。 階段を1階分程降りると目の前には鉄格子があった。 蝋燭の炎で照らされている。 「あ…」 私…ここに入れられちゃうんだ…。 心臓がバクバクしている…。 ここに…閉じ込められちゃうんだ…。 鉄格子は縦横2mの正方形。 その右下に縦1m横幅50㎝の出入り用の格子扉が付いている。 炎の揺らめきに照らされて格子の中が見えるが、どう見ても空間的には2m四方しか無い…。 「はぁ…はぁ…」 あれだけうるさい蝉の声も聴こえない。 真夏だというのにとても寒い…。 涼しいというよりも寒い。 心の臓に冷や水をかけられたかの様に…。 ガチャガチャ… カチャ… いつの間にか神主さんが格子扉の前にしゃがみこんでおり、持っていた鍵で錠前を外した。 キィ… 「ぅ…」 格子扉が開け放たれる。 『中へお入り下さい』 「は…はい…」 身を屈め、床に手を突き鉄格子の内側へと入る。 床は外の石造りの床と違い、木の床になっていた。 中で立ち上がり、鉄格子の方へ向き直る。 『では閉めます』 「…はい」 キィ… ガチン… 『では自らの手で錠前をお掛け下さい』 「え…あ…」 格子の隙間から金属の重たい錠前を渡される。 「自ら?」 『そうです』 「…」 カチャカチャ… 錠前を格子扉に引っ掛ける。 「いつまで…ここに監禁されるんですか?」 『…』 『錠前を施錠した後にお答えしましょう』 「…」 意を決して錠前を押し込む。 カチン… 己の手で、己では出れないように…。 カチャカチャ… 『はい、施錠を確認しました』 「…」 『…ここに監禁されるのは儀式の前日の朝』 『30日の朝までとなります』 「え…」 『その時まで外に出ることは一度もありません』 「そんな…」 『では』 「え…待って…」 そう口にした時には既に神主さんの姿は無く、すぐ後に地上の扉が閉じられた音が聞こえた。 「…」 え…こんな事って…。 嘘…。 2週間もここに閉じ込められちゃうの…? こんなに狭い空間に? これで前準備って言ってたよね…。 前準備がこんな感じだったら儀式本番はどうなっちゃうの…。 自分の置かれている状況を改めて理解する。 「…」 撮影だとか、ここに至るまでに色々とバックボーンはあるけど…。 でも…実際に2週間の間、ここに監禁されるというのは事実である。 そしてその先の儀式の本番も実際に行われるのだろう。 本当に贄として命を落とすことは無いだろうが、とてもきついものであることは間違いないだろう。 「うぅ…ぐすっ…」 私はどうすれば…。 いや…逃げる術は既に経たれているんだ…。 自分の感情も良くわからなくなり、自然と涙が溢れた。 自分が泣いてるんだと、認識すると益々涙が止まらなくなった。 いつまでも立っていても疲れるだけなので、床に腰を降ろす。 埃っぽい…。 「ぐすっ…」 空間の向かって右奥の角へ、もたれ掛かるように座る。 「はぁ…はぁ…ずずっ…」 白衣の袖で涙と鼻水を拭く。 汚れるが拭くものが他に無いので仕方ない。 泣いていたってしょうがない…落ち着かなきゃ…。 「はぁ…あぁ…」 蝋燭の炎をボーっと見て落ち着く。 「んぁ…」 「はぁ…」 少し冷静になり、辺りを見回す。 見回すといっても、ほんの狭い空間だけど…。 バケツ…。 金属製…こういうのブリキっていうんだっけ? 対角線上の鉄格子に近い部分に蓋付きのバケツが2つ置いてあり、中を確認すると、片方は空、もう片方には並々と水が入っていた。 なんだろう…この水を飲めって事なのかな? 両手で水をすくい、口を付ける。 「んぐ…」 うん、飲めそう。 「ごくっ…ごくっ…」 「はぁ…」 でも…出来ることはなにもない。 この2m四方の空間から出ることは出来ないのである。 時計もないし、日の光も入る訳では無いので、時間もわからない。 「ん…」 さっき後先考えずに水をがぶ飲みしたせいで尿意を催して来た。 「んん…」 「どうしよう…」 「…」 「あのーっ!」 「すみません!」 「誰か!」 「…」 小さな空間に声が響くだけ。 誰も来ないよね…。 あ…。 空のバケツってそういう事? でも他の所に漏らしてしまうよりはいくらかましだ…。 空のバケツを真ん中に移動させる。 するとバケツの後ろにはトイレットペーパーのロールが置かれていた。 あぁ…。 完全にそういう事か…。 巫女装束の袴をたくしあげ、股間がバケツの直上に来るようにしゃがむ。 チョロチョロチョロ… ポトンッ…ポトンッ… トイレットペーパーで拭き、蓋を閉めて元の場所へ置いておく。 泣き疲れたのもあり、壁にもたれ掛かりながら、意識を手放した。 … 「ん…」 「え」 目を覚ますと、いつの間にか食事が置かれていた。 まだ温かい。 ちょうどお腹が空いていたので食べる。 普通の食事だった。 バケツから水を飲み食事を終える。 さっき排泄をした方のバケツの蓋を開けると何も入っていなかった。 片付けられてる。 少ししてお腹が張って来たので、またバケツに排泄をしお尻を拭く。 壁に持たれかかっていると、またいつの間にか寝ていた様で、食事が片付けられていた。 それが延々と繰り返された。 ただ全く動いていないので、段々と完食出来なくなってきた。 それに合わせて食事の量も減っていき、今は最初の半分も食べられなくなった。 これ…何度目の食事だっけ…。 今日は何日目なんだろう。 途中までは食事の回数を覚えていたが、そもそも1日3食とは限らないと思い数えるのをやめた。 もうそろそろ2週間経つんじゃ無いかな…。 ここに閉じ込められてから一度も巫女装束を脱いでいない。 この巫女装束を着っぱなしなのだ。 温度の変化が少ない地下といえど少なからず汗をかく。 自分の排泄物でも汚れちゃうし…。 それから更に少ししたある日、気が付くと檻の前に人影が立っていた。 「!?」 男性のようだが面を被っており、誰だかはわからない。 私が目を覚ましたのを確認すると、檻の錠を開け中に入って来た。 「…」 袂からボトボトとなにかを床に落とす。 なに…? よく見るとそれは麻縄だった。 素早く両腕を後ろに組まされ、麻縄で縛られる。 シュルッ… シュルシュルッ… ギュッ… ギュッ… 「あっ…んっ…」 本格的に縛られるのは始めての経験だった。 過去に出演したドラマで手首だけを縛られることはあったけど、それでも形だけのゆるゆるな縛りだったし…。 胸の方にも麻縄が這わされ、あっという間に上半身を拘束された。 膂力的にも抵抗出来ないし、ましてや体力が低下した状態だったので、抵抗する気も起きなかった。 麻縄はしっかりと肌に食い込み、ずれる様な様子もない。 それでいて絞まってはおらず、絶妙なテンションが掛かっている。 次に白い布を縛ってコブにした猿轡を噛まされる。 「ンムッ!?」 その上から鼻を含めた、顔の下半分を布で覆われる。 両方ともうなじの部分できつく結ばれた。 「ンン…ンフゥ…」 更に目隠しもされる。 上半身を縛った縄を掴まれ、檻の外へ引き摺り出される。 ズルズル… 「ンアッ…ンオッ…」 バランスを崩し床に倒れてしまうが、無理矢理起き上がらされる。 そして階段を登らされ地上に出る。 地上はとてもムワッとしている。 今が昼なのか夜なのかはわからないが、とても蒸し暑い。 地下の牢屋がいかに涼しかった事か…。 「ンン…」 更に無理矢理歩かされる。 足袋から伝わる床の感触は板の間なので拝殿の中を歩いているのだろう。 摺り足で足元に何があるか確認しながら進む。 ガラリ… 扉の開く音? 更にムワッとした空気が全身を包む。 足にぶつかった段差を越える。 それから段差を下がらされる。 ザリッ… ザッ…ザッ… 砂利道を足袋だけで歩かされる。 建物の影を抜け日向に移ったからか、物凄く熱くなる。 既に汗が滴るほどに出ている。 「ンウゥ…」 ある程度歩かされてまた日陰に入る。 段差を登らされ、板の間に正座で座らされた。 ここは? 拝殿? 肩を押され横へ倒される。 「オッ…!?」 投げ出した脚を掴まれ、仰向けにさせられる。 腕が身体の下敷きになり痛い。 シュルッ… 両足を合わせる様に動かされ、足首で束ねる様に縄で縛られる。 ギュッ… シュルッ… 膝や太ももにも縄が巻かれる。 ギュッ… そして足首に巻かれた縄が上へと引っ張られる。 あ… 脚が浮き、腰が浮く。 ギシッ… 縄に体重がかかり、足首へ縄が食い込む。 上半身が抱き抱えられ、私の身体は床から離れた。 更に縄が上へと引っ張られると、抱えられていた上半身が離される。 頭が床にぶつかると身構えたがそんな事は無かった。 ギシッ… ミシッ… ただ慣性の法則で揺れるだけだった。 足首に縄が食い込むものの、足首には何重にも縄が巻かれており、加重を分散しているようで、痛いは痛いが激痛といった感じではない。 私は完全に逆さまに宙吊りにされた。 「ウグゥ…」 更に縄が上へと引かれ、かなり高い位置に宙吊りにされたようだ。 「グウゥ…」 ザッ…ザッ… ザッ…ザッ… 足音が遠退いていく。 え…私このまま…? 頭に血が登る。 けたたましい蝉の声。 ただでさえ、うだるような暑さの中で更に縛られて逆さ吊りなんて…。 ものの数分で意識が朦朧として来る。 頭が痛い…。 命の危機を感じる。 誰か…。 それから小一時間放置されただろうか。 猿轡とそれを更に覆っている布に唾液と汗が染み込み、呼吸がしにくくなってきた。 なんとか意識を保っている。 蝉の声に紛れて足音が近づいてきた。 ザッ…ザッ… ザッ…ザッ… トン…トン… トプン… 「?」 ビシャ… 「ヒグゥッ!?」 一瞬何をされたのかわからなかった。 ボタボタ… 水をかけられたのだ。 ビシャ… 爪先からかけられる。 「ウウッ!」 ボタボタボタ… 何度も何度もかけられる。 ビシャ… 「アグァ!」 ビシャ… それはとても冷たかった。 「ホッ…ホゴッ…」 全身が余すとこなく濡れるように水をかけられる。 「フスッ…フゴッ…!」 当然の如く頭にもかけられる。 猿轡の布が水を吸い顔にピッタリと張り付いて一気に呼吸が出来なくなる。 「!?」 「…ッ!」 「…ッ!」 私は頭を振り、身体を捩るがしっかりとうなじで結ばれた布は外れない。 それが伝わったのか布が少しだけずらされ鼻だけは出して貰った。 「ンフゥーッ…ンフゥーッ…」 それでなんとか呼吸が出来るようになった。 「ンォォ…」 しばらくして、床に下ろされた。 吊っていた足の縄を引っ張られ、恐らく拝殿であろう方へと引き摺られる。 私は芋虫の様に床に転がされた。 「ン…」 何本もの手が私に伸び縄を解いていく。 縄だけでなく巫女装束も脱がされ、猿轡も目隠しも外される。 「あ…」 「いや…」 「!?」 音だけではわからなかったが面を着け同じ格好をしている男性女性合わせて10数人に囲まれていた。 「え…」 『仰向けに』 面のせいでくぐもっており誰が言葉を発したのかわからなかったが、声に従い、補助を受けながら仰向けになる。 男性陣に腕と脚を開かされ大の字にされる。 両方の手首足首に改めて縄が巻かれ、その先は拝殿の柱へと結ばれた。 これで私は床へ張り付けとなった。 四肢を限界まで伸ばされた状態での大の字なので身を捩る余裕はない。 次に女性陣が近付いて来て、桶の液体を私にかける。 「あっ…」 液体はヌルヌルしており、所々泡立っている。 匂いから石鹸だと気付いた。 その液体が全身へかけられ、女性達の細い指先で細かな部分まで塗り込まれる。 「んひっ!?…んひひっ!…いひっ!…ひひひっ…」 「んふふふふっ!」 「いひぃっ!」 先程言ったように、身を捩れないのでくすぐったさから逃れられない。 ただ頭を左右に振ることしか出来ない。 「ひひひっ…んはっ!?…んはははっ!」 身体の下側にも手が潜り込んで来る。 「ひぃっ…んひひっ…げほっ…んひひっ…」 髪の毛にもしっかりと石鹸が塗り込まれる。 その後手足の縄が一度解かれたが、すぐに1本の木の棒と結び付けられた。 姿勢的には鉄棒の豚の丸焼きの状態だ。 そのまま外へ運び出される。 外には木の柱が2本あり、そこへ物干し竿の様に掛けられる。 水を浴びせられ、汚れと石鹸を洗い流される。 その状態のまま、タオルで拭かれる。 あらかた拭き終わると、炎天下の中放置された。 身体と髪が乾くと再び拝殿の中へと運ばれる。 縄が解かれる。 左右から抱えられ、白い褌を股間に巻かれる。 それから厳重に縄で縛られる。 腕は後ろに回させられ、左の手のひらで右の肘を、右の手のひらで左の肘を包むような状態で固定された。 足は左右それぞれふくらはぎと太ももに隙間が無いように縛られた。 それから太ももと身体の間に隙間が無いように折り畳まれ、縛られた。 体育座りのもっと密着した状態にされる。 その状態で床に転がされ、今度は全身に油を塗り込まれる。 肌同士が密着している所、縄の下、褌の下にも指が滑り込み、油が塗られる。 油をたっぷりと塗られた。 ゴトッ… 縛られ油まみれで動けない私の前に黒々とした直方体の木の箱が運ばれてきた。 まさか…。 『これが、黒檀を使って作られた檻箱となります』 『贄巫女を檻箱へと封入』 膝と身体の隙間に木の棒が差し込まれ、そのまま持ち上げられた。 「う…」 檻箱と呼ばれる箱の上まで移動させられると、今度はゆっくり降ろされる。 非常に小さい箱の中に油の潤滑性を使って徐々に箱に納まっていく。 身体が半分ほど入った所で棒が抜かれた。 重力に加え肩と膝頭を押され、更に押し込まれる。 箱の底に爪先が着く。 続いてお尻も着く。 檻箱を左に傾けられ再び戻される。 ガタン… 「うっ…」 右にも傾けられ戻される。 ガタン… 「ぐっ…」 より箱の底にお尻が密着する。 とても狭くてキツイが、それでも数時間程度ならなんとか耐えれそうだった。 次に首を前後から挟むように木製の蓋が置かれる。 ゴトッ… それぞれ半円状の切りかきがあり、それが首にあてがわれる。 髪を挟まないようにかきあげられ、少し頭を前に倒すように押さえ付けられる。 後半分の蓋が木槌で箱に嵌め込まれて行く。 コンコン…コンコン… 明らかに木同士が噛み合う音が聴こえる。 頭を戻されると、首の後ろ半分が半円の部分に収まる。 肩の高さも本当にギリギリになっている。 今度は前半分の蓋が置かれる。 首の皮膚を挟まないようにされながら、前半分も嵌め込まれる。 嵌め込まれて行くと膝頭に当たった所で止まった。 寸分の狂いもなく作成された檻箱は内部が完全に密閉された状態になった。 このままではまだ首に遊びがあるため左右からも木製の首枷を嵌められる。 首枷も木槌によって左右が合わせられた。 首を回すことも出来なくなった。 どうやら檻箱も木の枷も嵌め殺しになっているらしい。 つまり破壊しなければ外せない。 前言撤回、この状態では1時間待たずに音をあげそうだ。 次に髪の毛に油が塗り込まれていく。 頭皮にまでたっぷりと塗り込まれ、頭の上で纏まるように髪の毛を全て結い上げられ、簪で留められた。 次に木製の口枷を口腔に押し込まれる。 けん玉の球より少し小さめな木の球、これも黒檀製なのだろう。 その球には歯の形に沿うように溝が彫り込まれていた。 顎を限界まで開かされ、木の球を押し込まれる。 「アガッ…」 コロリと口に収まった球は舌を押さえ付ける。 反射的に吐き出そうとするが、歯がしっかりと球の溝に嵌まり込み、押さえられているわけでも無いのに吐き出せなかった。 球に空いている穴に布が通され、万が一にも外せないようにうなじで硬く結ばれた。 「オゴッ…アガッ…」 口を開いている影響で、頭を全く動かせなくなる。 頭にずっしりとした飾りが取り付けられる。 そして、丸出しになった額に筆で何か文字を書かれる。 『贄巫女の準備が整いました』 『では外の準備を…』 なにやら外でも準備があるようで、箱詰めの私を残して、皆出ていってしまった。 私は拝殿で1時間程放置された。 … 人が戻って来ると檻箱全体に縄が掛けられ、拝殿の外へ運ばれていく。 そのまま階段をゆっくり降ろされていく。 『不浄吸収の為に村を回ります』 階段を降りた先には神輿の骨組みのような物が置かれていた。 檻箱はそこにピッタリと嵌まるように固定された。 神輿が持ち上げられ、運ばれていく。 「ウグゥ…」 炎天下の中、直射日光を浴びながら運ばれていく。 いくらなんでも…過酷過ぎ…。 意識が朦朧としてくる。 祭囃子と共に村を回る。 住民は皆家の前に出てきており、私の姿を見ようとしている。 町を一周すると再び神社まで戻ってきた。 神輿の状態のまま階段を上がり、本殿の更に奥の山へ運ばれていく。 獣道から更に脇に入ると、ついた先には穴が掘ってあった。 神輿から外されると、檻箱に再び縄が掛けられ、穴へと降ろされた。 箱を埋めるように土が掛けられる。 私は頭だけが、土から出た状態にされた。 『では、また…』 足音が遠退き、次第に聴こえなくなった。 私はただ呼吸をすることしか出来なかった。 身体の辛さがピークに達するとわんわんと泣いたが、次第に疲れてただ涙を流すだけになった。 あぁ…本当にこのまま死んじゃうかも…。 どこで選択を間違えたのかな…。 私は意識を失った。 … 再び目を冷ますと、回りには撮影スタッフが大勢おり、口枷も外されていた。 『贄巫女役の深川風花さんクランクアップです』 と拍手と共に言われた。 花束が檻箱の上に置かれる。 「あぅ…んむ…」 「はぁ…やっと終わったんですね」 『はい、撮影の全行程は終了しました』 『観客の皆さんに一言あります?』 「え…観客の皆さんに一言?」 『このクランクアップの映像はスタッフエンドロールのバック映像として使うので』 「あぁ…上映後に…」 「えーっと…映画の内容はリアクションにリアルさを出すために全く知らされていなかったんです」 「ご覧になったように箱に詰められて、山で生き埋めにされて、本当に怖くて泣いちゃいました」 「あのシーンの涙は本物です」 「とてもキツイ撮影でしたが無事にクランクアップを迎えられて良かったです」 『ありがとうございます』 「ふう…」 クランクアップを迎え安堵していた。 この後すぐに箱から出して貰えると思っていた。 『深川さん、口を大きく開けて貰えますか?』 「はい?」 言われた通りに口を空けるとさっきまで咬まされていた口枷をもう一度嵌められた。 「オゴォッ!?」 その後も檻箱に詰められたまま、拝殿の中央に置かれ続けました。 それから1ヶ月後、私は輸送され披露試写会の場にいました。 あれから1ヶ月も経っていると言うのに身体の感覚は箱に詰められた初日のまま。 飲まず食わずの筈なのにお腹が空かないんです。 便意や尿意だけはなぜかあって檻箱の中は私のそれで満たされつつあります。 身体が人でない領域へと変化したようです。 上映後、スタッフへ運び込まれ舞台上へ。 観客からは悲鳴に似たどよめきが聴こえた。 スタッフから私が映像が撮影されてからずっとそのままの状態だと知らされると、再び悲鳴に似たどよめきが会場に響いた。 そこで初めて、上映期間中、映画館のエントランスロビーに展示されると知らされた。 披露試写会のあったその日は、控え室に放置された。 翌日の朝に特設コーナーへと運ばれ設置された。 目を見えなくする黒いコンタクトレンズを左右の目にそれぞれ入れられた。 左右の耳の穴へ樹脂が流し込まれ、外の音が聴こえないようにされた。 上映期間中の1ヶ月間しっかりと展示された。 これでお役御免かと思ったが、神社へと戻され、今度は一般公開の宝物殿へと奉納されました。 あれからどれぐらいの月日が経ったんでしょうか? この文章は脳波を読み取って書いているので、この書籍を読んでいる時にも依然として私は箱に詰められたままかと思います。 おそらくこの檻箱から出ることは出来ないのでしょう。 でも、再びまみえることがありましたらどうぞ良しなに。 贄巫女~封印の力~ 深川風花視点 終わり。