真夏のトレーニング 上
Added 2025-04-07 15:00:00 +0000 UTC「ンハァ…ンハァ…」 私の口からはもはやヨダレすら出なかった。 許された隙間から空気を吸うのに必死だった。 喉はカラカラに渇いている。 あぁ…水…水が飲みたい…。 朦朧とする意識の中、私は強烈に後悔した。 暑い…熱い…このままじゃ脱水症状で死んでしまう…。 なんで…なんでこんなことに…。 私はおぼろげながら、ここに来た理由を思い出す…。 … 私は都内に住んでいる高校1年生の田川 真夏(たがわ まな)。 中学に引き続き、陸上競技部に所属している。 勉強はそこそこ出来る方だが、部活の方の記録は伸び悩んでいた。 今は約1ヶ月後の8月1日にある記録大会に向けて練習をしている。 夏真っ盛りであるこの時期の記録会はとてもきつく、暑いのが苦手な私にとっては最も苦手とする大会だった。 序盤で早々にへばってしまい記録がかなり落ちるのだ。 先輩にその事を相談した所、ポニーガールトレーニングなるものがあると言うことを聞かされた。 なんでも、そのトレーニングを受けると暑さに強くなり、へばらなくなるらしい。 先輩も噂程度にしか聞いた事が無いらしくどの様なトレーニングなのかはわからなかった。 ポニーガールトレーニングか…。 ネットで検索しても詳しい内容は出て来なかった。 独自のトレーニング方法で練習を行うらしいし、その方法は門外不出なのだろう。 どうやら全国に数ヶ所、ポニーガールトレーニングを行っている場所があるらしい。 家からわりと近い所にトレーニングを受けれる場所があったので、連絡をとってみる事にした。 わり近いと行っても電車とバスを乗り継いで2時間程の場所だ。 その他の場所が4時間以上かかるので比較的近い。 先輩も人伝に聞いた話だと言っていたが、ポニーガールトレーニングはマンツーマンのパーソナルで行うトレーニングの為、早めに予約をしないとすぐに埋まってしまうのだそうだ。 なら、こんな時期に予約をしても空いてないよね…。 半ば諦めた状態で電話をした。 電話口には女性の方が出た。 『はいもしもし、池田です』 「あ…この電話ってポニーガールトレーニングの電話じゃ無かったですか?」 『あっはいはいそうです、ポニーガールトレーニングやってますよ』 「あぁ良かった…私◯◯高校の田川という者なのですが」 『はい』 「ポニーガールトレーニングの予約ってまだ出来ますか?」 『はい、まだ空いてますよ』 「良かった!」 『お日にちは決まってますか?』 「あそうですね、えっと…記録大会が8月1日なので…」 『記録大会へ出場されるんですね?』 「あ…そうです」 『夏休みはいつからですか?』 「あ、7月19日からです」 『でしたら7月の19日から21日の2泊3日が良いと思います』 『ポニーガールトレーニングを行った後の大会までの期間は休養と調整をして頂き、疲れを残さない状態で大会へ挑むのが良いかと思います』 「では…その日程でお願いします」 『かしこまりました』 『ひとつ確認ですが、ポニーガールトレーニングはとてもきつく厳しいです、それを了承した上での御予約ととらえてよろしいですか?』 「あ…はい!」 『かしこまりました、では費用の話ですが…』 「はい」 … こうして私は2泊3日のポニーガールトレーニングを受ける事になった。 費用は春休みの時期に少しだけ行ったバイト代から捻出出来そうだ。 キャンセルの場合はキャンセル量がトレーニング費用の全額かかるので絶対に受けなければ。 … 終業式が終わり、家に帰る。 荷物の準備は必要ない。 池田さんからその身一つで来てくださいと言われたからだ。 必要なのはランニングシューズのみだ。 これは履いて行けば良い。 あっちで着替えの準備もしてあるのかな? 明日は朝早くに家を発つ。 目覚ましをかけ早めに就寝。 … 翌朝、目覚ましのけたたましい音で目を覚ます。 「うーん…」 布団の隙間から手を伸ばし目覚まし時計を止める。 起きなきゃ… 頭ではそう思っていても、ベッドがそれを許してくれない。 「んん…」 だが、遅刻するわけにもいかない。 ベッドからズルリと抜け出る。 まずはトイレ…。 向こうに行ったらすぐに練習が始まるかも知れないので、動けるように朝食は軽めに取る。 予定の時間より少し早めに家を出る。 持ち物はスマホと財布だけ。 近くのコンビニにでも行くような、そんな持ち物…。 出で立ちは白いワンピースにつばの広い麦わら帽子に履きなれたライトイエローのランニングシューズ。 ワンピースの下には練習着であるランニングウェアを着ている。 「うわ…」 一歩外へ出ると、まだ朝だというのにうだるような暑さだ。 ムワッとした熱い空気が身体を包む。 気合いを入れ直し駅まで向かう。 ちなみに今回のトレーニングに掛かる費用は事前に入金してある。 「はぁ…」 朝の時点でこんなに暑いなんて…。 今日が一番暑いのでは無いだろうか? 見上げるのも眩しい空には雲一つ無く、青がどこまでも広がっている。 クーラーの効いた車両に座る。 人はまばらだ…。 「あー…」 涼しい… そんなに座席を選ばなくとも誰とも隣り合わせにはならない。 電車を乗り継ぎトレーニング施設のある駅で降りる。 モワッと暑い…。 都心からは少し外れた郊外のとある駅。 地元よりも蝉の鳴き声が大きい気がする。 ここから…徒歩15分か…。 これもトレーニングだと思い、スマホのマップに従って歩いて行く。 「お…」 ここか… 牧場って書いてあるけど…。 でも住所はここだよね…? もしここじゃなかったとしても牧場の人に話を聞けば、何かわかるかも知れない。 牧場の建物の中に入る。 建物の中は冷房が効いており、涼しい。 「ごめんください」 『はーい』 遠くから声が聞こえて来た。 『はいはい…あ』 「あ…」 『えっと田川さん?』 「はい、そうです」 『ポニーガールトレーニングを行っている池田です』 「よろしくお願いいたします」 『こちらで本人確認と説明をしますので、どうぞ』 「はい」 建物の奥へと案内された。 案内された部屋で、机を挟んで対面に座る。 さながらバイトの面接のような感じだ。 話によると、元々は本当の牧場だった所を改装してトレーニング施設として使っているらしい。 廃業した牧場の跡地を池田さんが買い取り、整備して今の形にしたらしい。 『さて、本人確認が済みましたし、早速プログラムを始めようと思います』 「はい、よろしくお願いします」 『ここからは私の言うことに従って下さい』 「はい、わかりました」 『では着替えて頂きますのでロッカーへ移動しましょう』 「はい」 ロッカールームへ移動すると貴重品を全てロッカーへ入れる様に促された。 帽子と財布とスマホ、スマホは電源を切ってロッカーに入れる。 『次に着ているものを脱いで下さい』 「はい、あ…この下に練習着を着てきたんですけど…」 『それも脱いで下さい』 「はい…」 靴を脱ぎ、ワンピースを脱ぐ。 下に練習着を着てくる必要は無かったか…。 練習着も脱ぎ下着姿になる。 『下着も靴下も全て脱いで裸になって下さい』 「えっ…」 『…』 「は…はい」 裸になれと言われて一瞬面食らったが、まぁ同性なんだしと自分に言い聞かせる。 言われた通りに全裸になると、靴を除いた私の持ち物と服が入ったロッカーに南京錠がかけられた。 バタン… カチャカチャ… カチン… 「あ…」 『髪の毛はこの髪ゴムでポニーテールにして下さい』 「あっ…はい…」 渡された髪ゴムで髪を結ぶ。 『もっと高い位置で結んで下さい』 「は、はい」 髪ゴムを解き、結び直す。 「これで…どうでしょう?」 『はい、それで大丈夫です』 『次に装具の為に測定を行いますね』 「は…はい」 装具ってなんだろう? 巻尺で身体の測定をされる。 『よいしょ…これで測定は終了です』 「はい」 『合うサイズのスーツを用意してきますので、ここでお待ち下さい』 「わかりました」 『あ、トイレは今のうちに済ませておいて下さい』 「はい」 そう言い残し、池田さんはロッカールームから出ていった。 ガチャ… バタン… 「…」 ロッカールームの扉から、私の持ち物と服が入ったロッカーへ視線を移す。 南京錠で施錠されたロッカー。 試しに取っ手に手を掛け引っ張って見るが、当然開かない。 練習中はスマホを触らないようにって事か…。 徹底してる。 ロッカーに入れて施錠をしてしまえばスマホをいじることはない。 少しお腹が張ってるしトイレに行っておこう。 ガチャ… キィ… ロッカールームのドアから廊下を覗く。 トイレはロッカールームから少し離れた所にあるので裸で廊下を歩かなければならない。 廊下に人の気配は無い。 あの人以外に誰もいないのかな? 意を決して早足でトイレに向かう。 トイレの鏡に映った全裸の自分を横目にトイレに入り鍵をかける。 カチャ… 「ふぅ…」 一安心。 裸でトイレに入るのはなんだか不思議な感じだ。 現時点で出せるだけ出しておく。 用を足し終えトイレから出て、洗面台で手を洗う。 なるべく鏡は見ないようにした。 部屋に戻ると既に池田さんが待っていた。 「あ…すみません」 『いえ、大丈夫ですよ』 池田さんが姿見の横に立っていたので、恥ずかしいけど姿見の前に立つ。 相手も裸ならお互い様で恥ずかしさは軽減するが、自分だけ裸だと物凄く恥ずかしい。 『こちらが着用して頂くラバースーツです』 「ラバースーツ?」 何か身に付けられるなら早く着たい。 池田さんから黒い塊が入った真空パックを渡された。 『こちらはグローブとソックスが一体になったモノです』 ラバー…スーツ? これがそのラバースーツ? 持ってみた感じズッシリとしている。 「ラバースーツって何ですか?」 今手に持っているこれがラバースーツなので、開けてみればどんなモノかわかるが、聞き馴染みの無い単語だった為、聞いてしまった。 『えっと…一言で言えばゴムで出来たスーツです』 「ゴム?」 『まぁ開けてみて下さい』 パチッ… 袋の封を開け、中身を取りだそうとすると白い粉が手に付いた。 『それは保護用のパウダーなので気にしないで下さい』 「は…はい」 塊を袋から取り出す。 畳まれているようなので広げてみる。 パタパタパタ… 床に付かないように持ち上げる。 これが…ラバースーツ…。 広げるとそれは人の形をしていた。 ゴムでも何でも良いから早く身体を隠したい。 片面にジッパーが付いており、そこを開いて着るんだという事が容易に想像出来た。 これを着たら、首から下を全て覆われる事になる。 私が今まで見てきたモノの中で一番近いのはウェットスーツだ。 ウェットスーツはスポーツショップで見かけた事がある。 見かけただけで着たことは無い。 『このラバースーツを着てトレーニングをすると普通にトレーニングをするよりも負荷がかかって効果的なトレーニングになるんです』 「はぁ…」 『着用すると締め付けられて、抵抗が生まれるので、動きにくくなるんです』 『その状態でトレーニングをすると普段何気無く動かしている動作全てに抵抗が掛かるので、フォームの改善にも繋がるんです』 「なるほど…」 『こちらのスーツですが、そのままでは着にくいのでこちらの液体を首から下の身体に塗って下さい』 「これは?」 『ドレッシングエイドと言いまして、ラバースーツを着やすくする潤滑液です』 「なるほど」 『私はスーツのパウダーを落として来るので、その間にドレッシングエイドを塗っておいて下さい』 「わかりました」 『あ、滑らないように気を付けて下さい』 「あ…はい」 ラバースーツと交換でドレッシングエイドの入ったボトルを渡されたけど、どれぐらい塗れば良いんだろう? 流石に全部じゃないよね? キュポッ… コプッ… トプッ… 手のひらに垂らす。 ドレッシングエイドは粘性のある透明な液体だった。 物凄くヌルヌルしている。 首から下の全部にって言ってたよね? ドレッシングエイドを身体に塗り広げる。 少しヒヤッとするが、今の季節には丁度良い。 この液体凄く伸びる…。 伸ばしながら継ぎ足して全身に塗っていく。 こんなもんかな? そう思っていると池田さんが戻って着た。 『全身に塗れました?』 「はい」 『少しお待ち下さい』 池田さんは床に置かれたドレッシングエイドのボトルを手に取ると、ドレッシングエイドをラバースーツの内側に垂らした。 キュポッ… トプッ… トププッ… そして内側に行き渡るように表面から揉む。 『よし、これで良いですね』 『片足ずつ入れて行きましょう』 「はい」 ラバースーツはファスナーを下げた状態で着やすいように、私の前に広げられている。 左足をその塊の中へ下ろす。 ピチピチッ… ギュプッ… プヒッ… ラバースーツの足の趾の部分はそれぞれ別れており、5本趾になっている。 空気を抜きつつ、履かされて行く。 それぞれの趾の間までラバーが入り込んで来る感覚はなんとも気持ちが悪い。 池田さんの手により、ラバーが左足首まで覆った。 そこから膝の下まで、引き上げられた。 ピチチッ… パチッ… 今度は右足が足首まで包まれたかと思えば、両脚とも膝下まで上げられた。 ゴワゴワ… ギュム… ラバーの塊を一気に腰まで引き上げる。 なるべくシワが出来ないように着ていく。 「んん…」 腰の前に溜まっているラバースーツの上半身部分を広げ、今度は片手ずつスーツに入れて行く。 ギュプッ… ピチッ… 脚と同様に、手首まで入ったら反対の手。 それから腕を入れて行く。 ピチチッ… ピチッ… 胸が膨らみに収まるように調整され、体幹もラバーに触れる。 そして、背中のファスナーが閉められる。 ジジッ…ジーッ… 「ん…」 ファスナーが閉まることにより、スーツによって体幹が締め付けられる。 ジーッ… 「はふ…」 胸郭も締め付けられ、思わず息を吐き出す。 そしてうなじまでファスナーが閉じられた。 これがラバースーツの感覚…。 ギュムギュム… 全身が締め付けられる。 これを着てトレーニングするんだ…。 姿見には首から下を黒いラバーで覆われた私が映っている。 正直、着る時に使ったドレッシングエイドのせいでヌルヌルしおり、着心地は良くない。 陸上のユニフォームもそうだが、ラバースーツは身体をピッタリと包み込んでおり、如実に身体の凹凸を反映する。 締め付けられているので、凹凸は元より強調されている。 これ…覆われてるけど…裸より恥ずかしくない? 『表面に保護用のグロスを塗ります』 「?」 池田さんはドレッシングエイドとは違うボトルを手にし、その中身を私の身体へ塗り始めた。 「んひっ…」 「ひあっ…」 くすぐったい…。 ラバースーツの表面に満遍なく塗り広げられた。 それから布で拭かれる。 塗ったのに拭いちゃうんだと思ったが、拭いた後のラバーは光沢を増していた。 全身テカテカ…。 『顔と首には日焼け止めを塗ります』 「うぷっ…」 た…確かに日焼け止めは大切…。 『自力では脱げないように首輪も付けますね』 「え…」 な…なんで脱げないように? 幅5cm程あるゴム製の首輪をラバースーツの上から首に巻かれる。 「ん…」 カチャカチャ… 少し首が絞まり、バックルが留められ少し緩んだ。 『施錠しますね』 「ぇ…」 カチャ… カチン… 急いで手で確認をすると、おそらく南京錠であろうものがぶら下がっていた。 『バックルのピンとファスナーのスライダーを南京錠で繋いだのでこれでもう脱げません』 「脱げないんだ…」 ラバーに覆われた両手に目を落とす。 首輪に阻まれて下が向きにくい。 それから同じくラバーに覆われた身体を見る。 『では靴を履いて下さい』 「はい」 持ってきたランニングシューズを履く。 靴ヒモを適度なテンションで締め、蝶々結びをする。 緩まないようにもう一度結ぶ。 履きなれたランニングシューズだが、間にラバーが挟まると変な感じだ。 『まずはそのスーツに慣れる為にウォーキングから始めましょう』 「はい」 池田さんと共に建物を出る。 「うわ…暑…」 『うーん、今日は一段と暑いわね』 池田さんが歩きだしたので、それに付いて行く。 建物の影から日向に出る。 日向に出て身体が直射日光に当たる。 「熱!?」 ラバーが日光により一瞬で熱せられる。 「くっ…」 お湯を浴びせられた様な感覚に陥り、息が止まる。 「うぅ…」 「はぁ…」 いくらテカテカしているとはいえ、黒は光を吸収するのでより熱く感じる。 そしてまた歩き始める。 さっきまで、少し気持ち悪い服だなくらいに思っていたラバースーツが一気に恨めしくなってきた。 暑い…熱い…。 池田さんと共に歩く。 1分もしないうちに全身から汗が吹き出る。 「うぅ…」 2分も経つと汗が垂れてきて目に染みる。 「はぁ…はぁ…」 手の甲で拭うが、そもそも手の甲もヌルヌルしているのであんまり意味はなかった。 それと熱を持ったラバーが凄い熱かった。 それから30分程歩く。 「はぁ…はぁ…ん…ぁぁ…」 ただ歩くだけだが、体力を物凄く消耗する。 吸う息も肺を焼くような暑さだ。 建物へ戻るが私は、日向で待機するように言われた。 池田さんは建物へ入り、スポーツドリンクを持ってきた。 『どうぞ』 「の…飲んで良いんですか?」 『はい、飲んで下さい』 掌もヌルヌルしているので、取り落とさないように両手でペットボトルを持つ。 池田さんは渡す際にボトルのフタを開けてくれた。 「んぐっ…んぐっ…んぐっ…んぐっ…はぁ…」 「んぐっ…んぐっ…んぐっ…」 あっという間に500mlを飲み干す。 空のボトルを池田さんに渡す。 『次は手枷を嵌めた状態でウォーキングをしましょう』 「てかせ?」 シュル… カチャカチャ… 左腕を掴まれると、手首にゴム製のベルトが巻かれた。 首輪と同様の構造をしている。 カチリ… そして南京錠で留められた。 『次は右です』 「は…はい」 シュル… カチャカチャ… カチリ… おとなしく右手を差し出すと左手と同様にベルトを巻かれ、南京錠で留められた。 カチリ… そのまま両腕を後ろに回され、腰の後ろでベルト同士が留められた。 「あっ…」 カチャカチャ… 後ろ手に拘束されてしまった。 「あの…これは?」 『腕を後ろで固定させることによりバランスを取るのが難しくなります、その状態で歩いたり走ったりすることにより体幹でバランスを取るトレーニングになるんです』 「な…なるほど…?」 『日焼け止めを塗り直しますね』 「あ…はい…」 日焼け止めが塗り直された。 『さて、私はここで待ってるので、先程のコースを歩いてきて下さい』 「は…はい…」 一度歩いた道をもう一度歩く。 今度は後ろ手に手枷を嵌められた状態で。 「はぁ…ん…」 確かに腕を固定されるとバランスが取りにくくなる。 今までは自然と腕で取っていたバランスも身体全体で取らなければならない。 それに転んだ時に手を出せないので怖い。 歩みを少し緩め、今一度手枷を外せないか力を込めてみたり、バックルを外そうとしてみるが、しっかりと南京錠で施錠されている為外すことは出来ない。 「はぁ…んん…」 歩こう。 次にどんなトレーニングをするかわからないが、とりあえず目の前のトレーニングに集中しよう。 「うぅ…」 汗が目に入る…。 あれだけ水分を摂取したのに尿意を感じない。 飲んだ分の殆どが汗として出ているのだろう。 スーツの内側には汗が溜まっている。 転ばないように細心の注意を払いながら、建物まで戻ってきた。 「ふぅ…はぁ…」 『お疲れ様、一旦中に入って良いわよ』 「はい…」 やった…涼める…。 施設の中は冷房が効いている。 「ふぃー…」 涼しい。 それから水分補給。 椅子に座らして貰えたが手枷は外して貰えず、ストローを介してボトルのスポーツドリンクを飲む。 「んぐ…んぐ…んぐ…はぁ…」 『どう?』 「え?」 『体調は大丈夫かしら?』 「あ…大丈夫です!」 『そう?無理しちゃ駄目よ?』 「はい!」 『こちらで調整しているとはいえ、今日は特に暑いから』 「大丈夫です、どんどん追い込んで下さい」 『そう…わかったわ』 『もう少し…後15分だけ休憩したら練習を再開しましょう』 「はい」 『15分経ったら外に待機していてね』 「はい」 そう言って池田さんは部屋から出ていった。 「はぁ…」 これはキツいね…。 合計1時間も歩いてない訳だけど、この暑さとこの格好がキツイ。 うう…全身汗まみれ…。 スーツの内側は首まで汗とドレッシングエイドの混ざったモノが上がって来ており、首元からポタポタと流れ出る。 ある程度はスーツの中に溜まって行くが、それ以上はスーツの張力によって唯一の開口部分である首の部分から流れ出す。 こうやって涼んでいる間もスーツの表面を汗が伝う。 これだけ汗をかいてるから日焼け止めもどれだけ効果があるか…。 あっという間に休憩の15分が経ってしまったので外に戻る。 むわっとした空気、照りつける日光が一瞬でラバーを温める。 「くっ…ん…」 『よし、じゃあ次は走りましょう』 「はい」 『最初は軽くで良いからね』 「はい」 体力はまだ余っているが、ただ歩くだけでもかなり消耗したのだ。 走ったらどうなってしまうんだろう。 『じゃ、気を付けて』 「はい」 緩やかに走り出す。 わ…やっぱり腕を振らないと走りにくい…。 上半身と下半身が解離しているような感じ…。 ただ脚を動かしても走れないんだ…。 肩を揺らしてバランスを取るとどうにか走れる。 なるほどね…。 普段は腕があるから意識しないけど、こうやって体幹の動きも意識した方が良いのか…。 そうやって走って、池田さんの元へ戻る。 「はぁ…はぁ…」 日陰で10分程の休憩をして、次のトレーニングへ移る。 『お昼前最後の練習になります』 「はい」 『次はコルセットを着けます』 「コルセット?」 『こちらですね』 「おぉ…」 池田さんが持ってきたのは厚いゴムで出来たコルセットで、胸の下から骨盤の上まで掛かる幅の広いモノだった。 『コルセットを着けるために一旦外しますね』 「え」 カチャ… カチャン… 休憩の時も外される事の無かった手枷の南京錠が外され、数時間ぶりに腕が自由になった。 『コルセットを巻いて行きます』 「はい」 カチャカチャ… 広げたコルセットが腰に巻かれ、前側でホックが留められた。 シュル… シュル… そこから背面の紐が締め込まれていく。 身体との隙間が無くなったかと思えば更に締め込まれて行く。 シュル… ギュッ… 「うっ…」 「なんか…肋骨に当たる感じが…」 服の上から着ているわけでは無く薄いラバースーツの上からコルセットを巻いているのでボーンが肋骨に当たって痛い。 『ちょっと位置をずらしましょう』 紐が緩められ、位置を調整して貰う。 『これならどう?』 「あ…これなら大丈夫です」 『オッケー』 シュル… ギュッ… シュル… ギュッ… 紐がきつく締め込まれて行く。 ギュッギュッ… ギュッギュッ… 「す…凄い締め込むんですね…」 『はい、緩いとカッコ悪いですからね』 ギュッ… 「はぅっ…」 そうしてかなりきつく締め込まれた。 胸郭が押さえつけられて息が詰まる。 「ふぅ…ふぅ…」 それから再び手枷同士を繋がれる。 カチリ… 「これで…また一周ですか?」 『そう、察しが良いわね』 「わかりました…」 私は再び炎天下の日向へ歩みを進める。 小休憩はあったものの2本目のランニングの為かなり疲れている。 加えてコルセットを付けられているので腰が回らず、走りづらい。 身体ごと揺らしてバランスを取るしかない。 こんなに固定されるなんて…。 この後も何か装具を増やされるんだろうか? しかし、流石にこれ以上固定されたら走るのもままならない思う…。 「はぁ…はあぁ…」 戻ってくるのにかなり時間がかかってしまった。 『さ、中で休憩にしましょう』 「はい…」 ジャラジャラ… カチャ… 「あ…」 首輪に鎖が繋がれる。 クイッ… 「んっ…」 鎖を引っ張られ、引っ張られるままに連れていかれる。 首が絞まって苦しいので抗うことは出来ない。 犬みたい…。 クーラーの効いた部屋に連れていかれ、1人掛けの革製のソファに座らされる。 「はぁ…あぁ…」 『まずは水分補給ね』 「あい…ん…」 「んぐっんぐっんぐっんぐっ…ずずっ…」 ストローを咥えスポーツドリンクをあっという間に飲み干す。 『次はコレね』 「これは?」 『ここにいる間、貴女の主食になる流動食よ』 透明なパウチに乳白色の液体が入っている。 それを咥えさせられ半ば強制的に飲まされる。 「んぐっ…んぐっ…んぐっ…んぐっ…」 仄かに甘い…どろどろとした液体を飲まされる。 『はい、もう1袋ね』 「んむっ…んぐっ…んぐっ…んぐっ…」 『これでお昼は終わりね、後は午後の練習が始まるまで休憩ですね』 「え…お昼ごはんこれで終わりですか…?」 『うん』 「あ…そ…そうですか…」 食事と言うより餌を食べさせられている気分だ…。 『ではこれから1時間休憩を取りますので、お好きにお過ごし下さい』 「え…あ…」 ガチャ… バタン… ガチャリ… お好きにお過ごし下さいって言ったって…。 カチャカチャ… 全身ラバーで覆われたままだし、手枷を後ろで嵌められたままだし…。 ソファにもたれ掛かる。 腕を挟まないように腰とソファの隙間に動かす。 少しはしたないが、脚をがに股に投げ出す。 「ん…」 これが一番楽かな…。 腰の落ち着く場所が見つかると、私はすぐに意識を飛ばした。 … 「真夏のトレーニング 下」へ続く。